第87話 勉強会です。別に部屋に連れ込んだりしてません。




 分不相応なギルドは身を滅ぼす。


 学園のある種の注意項目〈ギルドは実力に見合った場所に入る事〉、の一文だ。


 高ランクギルドに所属したは良いが、その後の実力が不足していれば〈脱退処分〉を受けることもある。

 この世界は実力主義という名のレベル主義。

 口先だけはデカい者なんか一瞬で淘汰される世界だ。


 ギルドバトルで敗北すればランクは下がる。

 ランクが下がれば参加人数の上限もまた下がる。

 例えばBランクは参加人数30人だが、Cランクは20人までしか参加出来ない。

 ランク落ちすれば溢れた人は脱退させられてしまう。


 俺もゲーム時代何度もその悲劇に見舞われたものだ。

 せっかく育てたキャラが、初期メンバーだったキャラが、脱退! ああ、悲劇!

 だからこそギルドバトルは燃えるものがあるんだけどな。


 まあ、一応救済処置として下部ギルドを作っておいてそこに在籍させる逃げ道はある。

 ランクがまた上がったらまた再加入である。下部ギルドは解散だ。


 おっと、話がずれた。今はリアルの話だ。


 脱退させられるのは当然戦力外になった人物、実力が追いついていない人物。

 つまり、足手まといだな。

 人数が多いというのはそれだけ有利に働くはず。

 それなのに下位のギルドに負けたとなれば、足手まといが居るのは当然の帰結だ。

 そんな足手まといは真っ先に脱退させられてしまうのがギルドの常識。実力主義すごい。


 ちなみに、ただの〈脱退〉と〈脱退処分〉では扱われ方がかなり違う。


 〈脱退〉の場合、人数制限オーバーのため仕方なく、という側面が強いため、その後の影響はほとんど無い。


 しかし〈脱退処分〉の場合、ギルドはその理由を学園へ報告する義務がある。

 これは不当な〈脱退処分〉を防ぐのが主な理由だが、学園側は開示を要求された場合もまた、その情報を公開させる義務がある。


 誰だって地雷や前科持ち、性格の悪い輩を自分のギルドには入れたくない。〈脱退処分〉を受けたのだから実力だって伴わない。

 学園側も無用なトラブルは避けたい。

 そんな思想もあって、〈脱退処分〉を受けた者にとってその後のギルド所属は厳しいものになってくる。


 分不相応なギルドは身を滅ぼす。

 この世界の常識だ。




 そんな事情もあってカルアも躊躇するかと思ったが、


「入りたい。仲間に、入れて」


「…いいぜ。カルア。ギルド〈エデン〉にようこそ。歓迎するぜ」


「うん…、よろしく」


 カルアは、ちゃんと考えた上で俺たちのギルドに入る事を決めた。

 少し上気した頬とピコピコ動く耳が萌えポイントだ。


 一大決心だろうがちゃんと強くしてやるので安心しろよ。


「さて、腹ごなしに強ジョブを取りに行くか。もう夜だけど、カルアはこれから時間あるか?」


「? ある」


 よく分かっていなさそうなカルアを連れて〈マーベラース〉を後にし、貴族舎にある俺の部屋へ向かうことにした。目的はもちろん、スラリポマラソンだ! シエラが置いていった錬金セットと〈『錬金LV1』の腕輪〉が未だにあるからな。シエラも「自由に使って良いわよ」って言っていたのでありがたく使わせてもらおう。


 ちなみにカルアは、おかわりも含めてカレーを6杯しっかり食べた。




 貴族舎に入ったところで寮母さんと出合った。ちょうど良かった。


「寮母さん、こんばんは」


「はい。ゼフィルス君こんばんは」


「実はこれからまた「勉強会」開くので部屋にこの子を連れていく許可をいただけませんか?」


 寮母さんはどこかの貴族の出身でここの卒業生らしいのだが、早くに旦那を亡くしてからはここに勤めているらしい。どう見ても女子大生くらいにしか見えない見た目だが、10年以上前にここを卒業したのだという。若々しい。

 性格も優しく気立てが良いため、たまに勘違いした貴族男子から熱烈なアプローチを受けているという噂だ。というか俺も現場を見たことがある。全部断っているみたいだが。


 平民の俺やハンナにも分け隔て無く接してくれる良い人だ。

 ハンナなんて寮母さんに許可を取って俺の部屋を出入り自由にさせてもらっているらしい。


 俺も何かと融通してもらっている。

 今回も一応貴族学生ではないカルアを部屋に連れていくにあたり許可を貰っておこうとしたわけだ。


 寮母さんの視線がカルアに向く。


「まあ! 新しい子?」


「カルア。よろしく」


 目を輝かせる寮母さんに表情の乏しい挨拶をするカルア。

 何故か寮母さんの「新しい」のニュアンスがおかしいような気がしたがきっと気のせいだろう。


「そ、それで良いですかね? 貴族学生じゃないんですけど、利用するのは俺の部屋と測定室だけなので」


「まあ! 二人きりで? ふふふ、勉強熱心ですね。もちろん許可しますよ。ゼフィルス君がんばってね?」


 何か勘違いされている気がしないでもないが、時間も遅いので早々に動くことにしよう。




「それで、欲しい職業ジョブの候補はあるか?」


 部屋に着いたところで俺はカルアにそう聞いた。

 「猫人」の職業ジョブは下級職で5職ある。そのすべてが戦闘職だ。

 高位職にランクされるのは3種、攻撃型か魔法型かスピード型だ。

 当然全ての発現条件は俺の中に入っている。


「【スターキャット】になりたい。でも走っても走っても全然現れない」


「スピード型か。確かにそれだけじゃダメだな」


 カルアが望んだのは高位職の中でも高の中ランクに位置するスピード型の職業ジョブ、【スターキャット】だった。

 確かに〈1週間以内に200km走る〉というのが条件の中にある。だが、それだけじゃ足りないんだよなぁ。


 ちなみに魔法型も高の中、攻撃型は高の上なので攻撃型じゃなくても良いのかと聞いてみたが、何でも出身の傭兵団がスピードでイケイケな団らしくカルアもスピードが良いとの事だ。


 俺としてはスピード型でも問題ない。ゲーム時代を振り返ってみても多くの場合スピード型を選んでいたし、むしろナイスチョイスだと言いたい。

 別に攻撃型が弱いというわけではないが、攻撃型は他に代わりなんていくらでも居るけどスピード型はそれなりに希少、というのが理由だな。


「今から【スターキャット】を取るやり方をレクチャーしてやるが、ここで起こった事は公言しない事」


「うん。あたりまえ。約束死んでも守る」


「そこまで覚悟は決めなくて良いけどな。ヒントくらいなら別に構わないし」


 実際研究所にはヒントをリークしちゃってるわけなので俺としてはそこまで秘密にして欲しい事ではない。

 ただ、この世界の人にはもっと頑張ってほしいだけだ。できれば自分で見つけるくらいの気概を持って欲しい。


 おっと話が逸れた。

 カルアの了承も得られたので、【スターキャット】の発現方法を語っていく。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る