第85話 猫がお腹を空かしています。どうしますか?
「人種」カテゴリーは
特定の「人種」を持つキャラクターでないと就くことができない
「主人公」しか取得できない【勇者】や、「王族」「姫」しか取得できない【聖女】など、「人種」カテゴリー限定の
それは名声値や人数制限なども関わってくるためでもある。
だが、それはあくまで人間の場合のみ。
人種カテゴリーには当然人間以外も含まれる。
例えば「エルフ」「ドワーフ」「猫人」「狐人」「狸人」などのファンタジー異世界人だ。
彼ら彼女らはまた特殊なグループで、「人種」カテゴリー限定の
つまり一般の職業に就けないのだ。そのかわり人間種が彼ら特殊なグループの
能力としてはピンキリではあるが強力なものも多く、問題なく1軍パーティにも組まれるほどには強い
俺もゲーム時代にはいろんな「人種」を使っていたものだ。
というよりも「人種」カテゴリーが入っていないキャラは戦闘メンバーから追い出されていく定めだっただけだけどな……。
ギルドランクが上がるたびにメンバー補充していくと、初期メンバーがいつのまにか戦力外通告になるのは〈ダン活〉の宿命だった。
残っていた一般のカテゴリー持ちは生産職や支援職だけだったなぁ。あっちならカテゴリーがほぼ関係なく活躍できるから。
あと「人種」シンボルは、まあラノベなんかを読んだことがある方なら察するだろう。
「猫人」なら〈猫耳と猫しっぽ〉、「エルフ」なら〈スリムな美形にとんがり耳〉など、ファンタジー異世界人の特徴がそのまま採用されている。
そして問題のスカウトの方法だが、こちらも人間のときと違い名声値に依存しない別物扱いだった。強力な
これまた「人種」ごとに様々あるのだが、例えば「猫人」なら〈強さ〉と〈ミール〉を満たせればスカウトが可能になる。
そんなわけで現在俺は積極的なスカウトを、いや逆スカウトを受けていた。
「今なら私一人500万ミール。すごくお買い得」
「ふむ」
誤解しないでいただこう。スカウトの話だ。
500万ミールで「猫人」スカウトなら確かに悪くない。お買い得でもないが。
今後、ギルドをランクアップしていくためにもギルドメンバーの増員は不可欠だ。
ならばこの逆スカウト(?)、少し検討してみても良いと思った。
ミールも、ちょうど今さっき手に入って、彼女の言う金額を満たせるというのもある。
あれ? もしかしてそういうことなのか? 俺の所持金が500万ミールを超えたからスカウトイベントが発生したのか?
ふむ。まだ分からないが、とにかくこのイベント(?)、見極めなくてはならないだろう。
俺は彼女の話を聞く事に決める。
先ほどぶつかって盛大にスカートをおっぴろげてしまった「猫人」の女の子は、俺を【勇者】のゼフィルスと認識すると、一瞬で切り替えて逆スカウトをしてきた。
俺は
見た目は、悪くない。むしろ良い!
キャラクターメイキングしたら採用しそうな可愛らしさ。黒髪黒目で若干眠たげ、小柄で華奢な身体つきは「猫人」女子の標準体型と言える。童顔で幼く見えるがスカートの青の刺繡から見て一年生、同い年のようだ。
見た目が良しなら残りは
「話を聞こうじゃないか。場所を移動してもいいか?」
「良い。話聞いてくれるだけでうれしい。ラウンジ行く?」
「いや、この時間だし飲食店に行こう。ダンジョンから帰ったばかりで腹ペコなんだ」
話の流れで食事に誘うと彼女がとても悲しそうな顔をした。
「………ミール無い」
「…え? 食事代も?」
「うん。毎日寮の朝夕ご飯が唯一の生命線…」
あぁ、そうかと思い出す。そういえば「猫人」の設定に貧乏というのがあった。
彼ら彼女らは実力主義。傭兵出身が多い「猫人」では「ミールは自分で稼ぐもの」という主義があった。
契約金は彼女の立場が傭兵、というところから来ている。
スカウト、というよりも傭兵を雇うと言った方が適切かも知れない。
ま、その後の費用は掛からないので「猫人」というカテゴリー持ちをスカウト出来るなら500万ミールは確かに安いだろう。
彼女が中級ダンジョンまで行けば簡単に回収出来る額だし。
しかし、食事代も出せないとか初めて知ったわ。〈ダン活〉には食事にミールが掛かるなんて事無かったから少し驚いたぞ。「猫人」って思っていたよりシビアだった模様。
「それくらいなら俺が奢ってやる」
「いいの?」
「別に構いやしないさ。俺はそれなりに稼いでるからな」
こんな子がお腹すかしてミーミー泣いていたら思わず拾ってあげたくなるのが人情というもの。
これで
いや今も前向きだけどさ。
話が纏まったので移動する事にして、その前にこれまで口を挟まずにいてくれたマリー先輩にも挨拶する。
「じゃあマリー先輩。そういうことで今度こそお
「ほいほい。忘れられたんじゃないかとヒヤッとしたわ。兄さんまたなぁ」
無茶苦茶興味深そうに俺たちのやり取り眺めておいて忘れるわけないじゃん。
もし俺がこの子の可愛さにクラッと来て「500万ミールで君を買おう」なんて口走った日には何をされていたか分かったものじゃない。
マリー先輩の情報網は
俺は内心焦らないよう気を張りながら「猫人」の女の子と飲食店が並ぶ方へと向かった。
「――【勇者】くんが女の子をお食事処に誘っていたっと」
その後方でマリー先輩が学生手帳に何やら打ち込んでいたのに俺は最後まで気がつかなかった。
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