第86話 ガッツ有る「猫人」少女カルア。力が欲しいか?




「見られてる。…すっごく」


「まあ、これは俺にとって普通の光景だ。この装備は何かと目立つからな」


 現在「猫人」の女の子とお食事処に向かっているのだが、いつもより視線が多い気がするのは気のせいだろうか?


 ちなみにだが、学生人口2万人を超えるマンモス校の迷宮学園には内部に多くの食事処が入っている。

 学食だけでは満足出来ない学生が多いからだな。


 一応〈C道〉にも料理アイテムを売っているギルドもあるのだが、そっちはスキル満載でバフが掛かるアイテムなので割高となっている。

 そちらも興味はあるけど、今はスルーだ。


「………ここ、なの?」


 目的の店に着くと猫耳少女がポカンと口を開けている。

 ここはカレー専門店、〈マーベラース〉。

 「猫人」と言えばカレーかなと思ったチョイスは合っていたらしい。

 スンスン匂いを嗅いで口の端から涎を垂らしている。よしよし。


 〈マーベラース〉は個室も完備された高級系の飲食店なので打ち合わせにもバッチリだ。

 空いた時間に美味しいグルメ処を調べておいて良かった。


 早速入店し、個室を取る。


「なんでも好きな物を頼んでいいぞ」


「む、むむむむ」


「おかわりは5回までな」


「! …大好き」


 案の定、メニューと睨めっこを始めた猫耳少女におかわり可を告げるとキラキラした眼差しが返ってきた。

 カレーで猫耳少女で腹ぺこ娘とくれば大食いと相場が決まっている。


 ここまで大盤振る舞いするのは、まあ事故とは言えスカートの中を見てしまったからな。お詫びの意味も籠めている。

 当の本人はあまり気にしていないようだが。それとこれとは話が別だろう。


 ま、とりあえず食った後に面談かな。






「名前、カルア。よろしく」


「カルアな。俺は【勇者】ゼフィルス。LV26だ。5月から〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉に所属する予定だ。こちらこそよろしく」


 短いな自己紹介。と思いつつ俺も自己紹介を返す。


「早速だけど職業ジョブとレベルは?」


「ん、未取得」


 まあ、そうだろうな。

 自分を売り込みたいなら職業ジョブとレベルくらい言うだろうし。

 ま、その方が俺にとって都合が良い。

 とりあえず面談を続ける。


「俺を【勇者】と知って声を掛けてきたみたいだが、志望動機は? 俺のギルドに入りたい理由な」


「1年生で一番強い。従いたい」



 「猫人」の設定に強者へ従うというものがある。

 「猫人」は戦闘職特化仕様なので大人になった「猫人」は主に傭兵に就く事が多い。

 そのためか誰かの下に就く、従うといった事を進んでする。とはいえ自分よりも弱者には絶対に従わない、そこら辺は実力主義だ。

 今回は俺が一年生で一番強いから売り込みを掛けてきた。まあ順当な理由だな。


「でも、私弱い。だから500万ミールで良い。すごくお得」


「別にすごくでもないけどな」


 「猫人」のスカウトは最安値が500万ミールからなので確かにお得ではあるのだろう。

 職業ジョブ未取得ならこれが相場だな。

 ここから職業ジョブに就くと、そのランクとLV次第でどんどん価値が上がっていく仕様だ。

 「猫人」最強の職業ジョブを持っているとそれだけで億を超えてくる。

 そのため、まず未取得「猫人」をスカウトして強ジョブへ就かせるやり方が今のセオリーだな。

 昔、高位職の条件が分かっていなかった時代は億を出してスカウトしていたっけ。懐かしい。


 ふむ、話した感じ性格もそんなに悪くないようだ。

 しかし、弱いと言うのはどういうことだろうか?


「私の取得出来る職業ジョブ、1個だけ」


「ああ。【獣戦士】か。そりゃあ確かに弱いわな」


 下級職の低の下ランク【獣戦士】。SUP12ポイントなので通常の【戦士】とどっこいだ。

 というか【獣戦士】は〈標準職〉だな。発現条件が〈「獣人」である〉しか無い職業ジョブだ。「人種」カテゴリーが「獣人」なら誰でもなれる。ちなみにカルアは「猫人」「獣人」のカテゴリー持ちだ。


 つまり彼女、カルアは職業ジョブを一個も発現条件が満たせていない、というわけだ。だから弱い。

 最安値というのも分かる。


「私、これから強くなる。だから、雇って」


 なるほど。ガッツはあるみたいだ。他の人たちが何個も発現条件を満たしているのに自分だけ未解放。でも、へこたれていない。

 見所はあるな。


 おそらく1ヶ月経過タイムリミットで【獣戦士】に決まってしまうと他のギルドに雇ってもらうのが非常に難しくなる。なら未取得の状態で将来性に掛けてほしいと売り込んできたわけだな。


「いいぞ」


「へ?」


「ただし一つ憶えておいてほしい。俺のギルドはSランクを目指している。だから入るなら最強を目指す必要がある。カルアにその覚悟があるのなら、入れてやるぜ」


「…………いいの?」


 その後に「私弱い子だよ」っと続く気がした。慌てたようにカルアが言葉を呑み込む。


「ちゃんと考えろよ? 俺のギルドは最強のSランクを目指すんだ。中途半端な覚悟じゃすぐ置いてけぼりを食らってギルドバトルに参加させてもらえなくなるぞ」


「……うん。ちゃんと考える。やりたい。でも、私に出来るかな……」


「出来ないようじゃ誘わないさ。俺はカルアが出来ると思ったからスカウトした。弱ジョブしかなれないなら俺が強ジョブに就かせてやる」


 強ジョブにさえ就けば自信も実力も勝手に付いてくる。

 正直カルアじゃなくても誰でもできるのだが、それは言わぬが花だ。

 せっかくの縁だし、実力最弱なくせにトップに声を掛けてきたカルアのガッツに期待したい。したくなった。

 あとさっきの「大好き」がかなり心にタのもある。また聞きたい。


 さて、カルアの答えは?




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