第84話 ギルド〈エンブレム〉完成! ぶつかった少女は
「次に例の物やけど。出来たで!」
「お、マジか! 見せて見せて」
「オーケーこっちや」
売却が一段落着くと、マリー先輩がうずうずした感じで言う。
例のあれが完成したらしい。早速見せてもらうことにする。
奥の部屋に通され、きちっとした紙のケースに入れられたソレをマリー先輩が持ってきた。
「開けてみ?」
「おっし。じゃあ失礼して。―――おおっ!!」
ケースを開けると中に見えるのは青、黄、白を基調とした旗。
俺たちのギルド〈エデン〉のエンブレムがデザインされたギルドフラッグだった。
「ギルドフラッグじゃん! おお! しかもすげぇクオリティ、さすがプロのデザイナー…」
俺もゲーム〈ダン活〉時代、幾度もギルドエンブレムを自作したのでわかる。こりゃかなわないわ。さすがはその道の生産職がデザインしただけはあってクオリティは高いし、迫力はあるし、何よりよく目立つ。
この目立つというのが非常に重要で、悪目立ちではなくいい感じに目立たせるというのが難しいんだよなぁ。
このフラッグはそれが素晴らしく、すべてのバランスが整っていて迫力があり、何より非常にカッコいいイメージを見た者へ与えてくれる。
しかもこの描かれた紋章が凄いのだ。もしかしなくても俺たちの事を指しているのだろう。
昔の【勇者】がドラゴンと共にこの世界を救ったされる有名な物語から、〈剣と竜の紋章〉は勇者を表すものと〈ダン活〉では決まっている。
それが前面に押し出され、完全に【勇者】が率いるギルドと一目で分かる、美しき剣とそれに絡むように描かれるドラゴンの絵。
さらにギルドメンバーの特徴である、ティアラ、盾、フラスコ、猫、槍が
俺の語彙力では説明し尽くせない事が恨めしい! あと〈幸猫様〉もしっかり入ってるのが嬉しすぎる!
素晴らしい。
「すっげぇなこれ! むっちゃカッコいいじゃん!」
「どや!」
「どやるのもわかるぜ!」
俺だってこんなギルドフラッグ作れたら掲示板でどやるだろう。間違いない。
しかし、一個だけ疑問点。
「だけど何故いきなり完成品になってるんだ? まずはデザインの候補を決めるって話じゃなかったっけ?」
普通ならデザインの書かれた用紙やらデータやらでいくつかの候補から選んだり、または依頼人の意見に合わせて変更したりする。
だが、目の前にあるものはどう見ても完成品の1枚。
「あはは。そやったんけどなぁ。うちのギルドメンバー総出で取り掛かったんやけど、いつも取りまとめてくれた最上級生だった先輩が卒業してしまっててな、誰も止める人がいなくてアレもコレもとやってるうちに気が付いたら完成してたんや」
変更を要求されたらどうするつもりだったんだろうか?
そういえば〈アーリクイーン黒〉の時もやりすぎて防御力20まで盛っていってたっけ。
もしかしなくても凝り性というか、生産職らしい病気をお持ちのようだ。
ちょっと不安になるぞ?
「で、でや。兄さん気に入ったか? 気に入ったんよな?」
「まあ、ここまでの物を作ってもらえるとな。正直想定を遥かに超えて良いものだし文句はない」
「そかそか良かったわぁ。――作り直し言われたら大損害やったわ…」
最後の小声聞こえてるぞ?
「じゃあ、このデザインで進めさせてもらうな。このギルドフラッグは持って帰ってええから」
「いや、俺は文句はないけどギルメンの意見も聞かないと」
「そこは大丈夫やろ。兄さんが良いといえば他の子も良いと言うはずや」
そうなの?
何故かギルドの〈エンブレム〉なのに俺に決定権があった件。
「装備の彫金、裁縫もいつでもいけるようにしとくから、空いてるときに預けておいてな。1日も掛からず終わる作業やし、ダンジョン帰りの夕方から翌朝には取りに来てもらってもええで」
「そりゃあ助かるな」
何しろリアルはゲームのように即出来上がるようにはできていないからな。どのくらい掛かるのかわからなかったけれど、思ったより早くできるならうれしい誤算だ。
俺たちは毎日ダンジョンに通っているので翌朝完成しているというのもありがたい。
とりあえず次の休日の前日に預けると言っておいた。
翌日の朝にはマリー先輩もギルドにいるだろうからな。
話もついたのでマリー先輩と固い握手を結び、ケースごとギルドフラッグを〈
「あ、忘れてたわ。兄さんギルメンの王女様たちにこれ渡しといてぇな。ちょっと遅れていたんよ」
「ん? ああ。
帰り間際にマリー先輩から渡されたのは、〈姫職〉組が
3つダンジョンをクリアしたはいいが、
メモを受け取って今度こそ帰ろうと振り向いたところで、何かが腹にぶつかる衝撃。
「キャッ!」
「あ、悪い。大丈夫か」
ぶつかったのは小柄な少女だ。
俺は鎧を着ていたのでなんともないが、彼女の方は盛大に尻もちをついてひっくり返り、制服のスカートが大変なことになっていた。端的に言えばパンツが丸見えだった。
すぐに手を指し伸ばして引き上げると、ある一部に視線が釘付けになる。
「うう。ひどい目にあった…」
「あ、ああ。すまない。ちゃんと確認もせず振り返った俺が悪かった」
お尻が痛むのか手でさすっている彼女、しかしその頭にはぴょこぴょこと猫耳が動いていた。
ぶつかった相手は人種カテゴリー「猫人」。つまり猫の獣人の女の子だった。
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