第64話 難易度0? 合格不可避の〈初心者ダンジョン〉



「フィリス先生、お忙しい中ギルドメンバーに授業をしていただき、ありがとうございます」


「ふふ、構いませんよ。先生もゼフィルスくんたちのギルドが気になっていましたから」


 スラリポマラソンで全員をLV6までレベルアップさせた日の午後、職員室で初心者ダンジョンチュートリアルの受付を申請したところ、フィリス先生が二つ返事で了承してくれた。


 さらにその数十分後には授業を受けさせてくれると決まった。

 今の時期はまだ初心者ダンジョンチュートリアルを受ける学生が少ないからと、ありがたい申し出を言ってくれて、素早い対応に頭が下がる。


「実を言うと、この時期はいつでも一年生が初心者ダンジョンチュートリアルを受けられるよう教員が待機しているのよ。ほら、本校は一年生だけで7千人も居るでしょう?」


 なるほど。フィリス先生の言う事に納得した。

 それならスピーディーな対応も頷ける。ダンジョンは5人しか挑めないから。

 7千人の学生を捌くとか相当大変だ。


 やっぱり今の時期にスタダ決められたのは本当にラッキーだったというわけだ。


「フィリスさん。いえ、この学園に通っている時はフィリス先生ね。本校〈ダンジョン攻略専攻〉の教諭就任おめでとう」


「ラナ様、ありがとうございます。ラナ様も、学園入学おめでとうございます」


「ありがとう」


「ふふ、昔を思い出すわね」


「そうね。小さい頃はよくお勉強を見てもらったけど、本当に教諭になって教わる立場になるなんて、なんだか不思議ね」


「ええ。ラナ様はどこまで勉強が出来るようになったのか、是非拝見したいわ」


「そ、それはアレよ。その、ま、まあ見てなさい?」


「ふふ、楽しみね」


 フィリス先生とラナは小さい頃からの知り合いだったようだ。

 会話の内容から、出来の悪いラナに丁寧に教えるフィリス先生の子ども時代が容易に想像出来る。


「フィリス様。エステルです。憶えておいででしょうか」


「ええ。ラナ様の護衛に就いていた小さなナイト様ね。憶えているわ。でもエステル学生、学園では私の事はフィリス先生と呼ぶこと」


「はい。失礼いたしました。憶えていていただき光栄です。フィリス先生、本日はよろしくお願いします」


「そんな畏まらなくて良いのに。学生は学生らしく、少し肩の力を落としなさい」


「は、はい。精進します」


 エステルも面識があったみたいだ。

 家の家格もあるのだろうが、フィリス先生の言うとおり、エステルはもう少し力を抜いても良いように思うが。

 フィリス先生は侯爵令嬢らしいからな。騎士爵令嬢のエステルにはちょっと難易度が高いか。


 最後にシエラが前に出る。


「フィリス先生、本日は急な申し出を受けてくださりありがとうございます」


「良いのよ。先ほど言ったとおり待機していただけだもの。それよりようやく出番が来て嬉しいわ。シエラさんも今日はよろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 シエラも以前からフィリス先生と面識を持っていたらしい。

 フィリス先生も顔が広いなぁ。


 しかしシエラの話し方が事務的だ。いや、なんか公私を分けているような感じかな?

 もしかしたらかなり仲がいいのかもしれない。


 チラと横目でシエラを見る。


「何?」


「いいや。装備似合ってるなって思っただけだ」


「そう。ありがと」


 適当にごまかしたが、シエラは自分の装備に視線を落としてまんざらでもない顔で微笑んだ。

 シエラは白と紫を基調とした鎧系の装備を着ていた。多くのパーツにプロテクター、ガード等を組み合わせて着ていてあまり鎧という感じに見えず、オシャレ感が出ている。

 〈ダン活〉では女の子が強い職種が多く、かわいい系の装備がまた多かった。

 鎧と言えばゴツい印象しかないが、シエラの着ている鎧はかなりシュっとした感じだ。


 しかし武器は中々の迫力を持っている。

 片手メイス。こちらは普通だな。ハンナが使っていた両手メイスよりかなり小さい。

 だが【盾姫】と言えば真骨頂の盾。これは身体の7割を覆う大きさのカイトシールドが採用されていた。色々と紋章の様なものが描かれているが、マルグリット家関連のものだろう。かっこいい。


 見た目もシエラの美しい姿と相まってかなり似合っていた。ごまかしの言葉だったが俺の本心でもあった。

 なかなかに気合いが入っている。


 ちなみにラナは白銀が基調のドレス姿だった。武器はマジカル系のタリスマン。

 装備のその字も感じられない。

 綺麗だし、ちゃんとした装備のはずなんだけど。見た目がどう見てもダンジョンで使うものじゃないんだよなぁ。

 まあゲームならではの意匠だな。


 フィリス先生との挨拶も済んだのでそのまま〈初ダン〉に向かう事になった。

 俺とハンナはすでに合格しているので別行動、ここで一旦お別れだ。


「じゃ、また後でな」


「みなさん、行ってらっしゃい」


 俺とハンナが手を振って見送ると4人は〈初ダン〉へ向かっていった。


「合格、出来るかな?」


「出来ないはず無い難易度なんだよなぁ」


 〈初心者ダンジョン〉で不合格とかどうやったらなれるんだろう?

 むしろゲーム時代も不合格なんてものは無かったので俺にもわからない。

 所詮はチュートリアル。絶対合格できるよう組まれているわけだ。心配しなくてもいい。


「さて、中途半端に時間が余ったな」


「まだ13時だもんね。まだみんな授業受けている時間だし、ダンジョン潜るにも中途半端?」


「だな。買い取りを頼んでいたマリー先輩もまだギルドには居ないだろうし。……ああ、そうだ。じゃあ俺は研究塔の方へ行ってくるわ」


「研究塔?」


 研究塔とはそのまま、研究機関のある建物の事だ。研究所とも言う。

 入学式の時、いつでも来ていいと言っていた白衣の研究員たち。

 今の今まであまり時間が無くて後回しにしていたが、ちょうど良いので今のうちに行っておこうかと思い立った。


「ハンナはどうする?」


「えっと、私も一緒に行っちゃダメ、かな」


「いや、別にいいが、おそらく面白いものなんて無いぞ?」


「いいの。最近ゼフィルス君、ラナ様たちにばっかり構ってたでしょ? もう少し幼馴染に構っても良いと思うの」


「お、おう。悪かったな」


 ちょっと拗ね気味の幼馴染が可愛くて言葉に詰まる。

 少し前までずっと一緒に居たのに、急に他の人ばっかり構ったもんだから寂しかったのかも知れないな。

 もう少し、小さな幼馴染に気を使うべきだったか。


「じゃ、一緒に行くか」


「うん」




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