第63話 【勇者】の倍スキル持ち、【姫騎士】の到達点。
「よく理解できたと思うわ。ありがとう。後は実践で試してみるわね」
「おう。役に立てたなら良かったよ」
ラナと違って素直に聞くシエラは教え甲斐があった。
おかげで結構な時間話していたようだ。
気がつけばエステルのスラリポマラソンが終わっており、ラナが「え、もう私の番!? まだ読んでいるのにー」と文句を垂れながら交代していた。
メモを読み終わってないのはラナが話を脱線させたからだ。つまり自業自得だと思う。
シエラがメモを片手に予習する傍ら、エステルがやってきて礼を執った。
「ゼフィルス殿、無事LV6まで上がりました。ありがとうございます」
「気にするな。今時間を掛けて戦闘訓練なんかしていたらせっかくのモチベーションに水を差す。それに、俺も早く皆でダンジョンに潜りたいからな。全力でサポートするぜ」
「心強いです。私もゼフィルス殿とダンジョンに潜るのを楽しみにしておりますっ」
堅い話し方をするエステルだが、護衛を生業とする騎士家ともなれば口調も相当教育される。エステルにとっていつの間にかこっちの方が素になってしまったのだと昨日話していた。
まあ、無理に直させる必要も無いのでそのままだ。
ハンナは少し微妙な顔してるけど。慣れろとしか言えない。
「さて、
「はい! 願っても無いです。よろしくご教授願います」
でも、もう少し砕けても良いと思うけどな。
師弟っぽくてこれはこれで楽しいけど。
「【姫騎士】について、昨日渡したメモを読んだか?」
「はい。拝見しました。正直あのようにたくさんの到達点があるとは、驚きました」
エステルが神妙な顔して言う感想に俺は深く頷いた。
騎士はそもそもかなり幅広い育成ルートを持つし、職種だって騎士系の
そして【姫騎士】は【騎士】系であり【ナイト】系でもある。どちらの方向にも育てられる。
すべてのスキルを浅く広く取得してどのような状況にも対応できるようにも出来る。
それ故に【姫騎士】の最終到達点は無数に存在する。エステルもさぞ面食らっただろう。【姫騎士】の可能性の多さに。何しろ、スキル数は【勇者】の倍以上もあるのだから。
「どの可能性に進むのか、最初の選択が肝心になる。希望はあるか?」
そして暗にすべての到達点へ進むための構想はあるぞと告げる。
しかし、エステルはゆっくり首を振った。
「………厚かましくはありますが、私もラナ様やシエラ様と同様、道を指し示していただきたく」
「多すぎて決められなかったか?」
「はい。
不甲斐ないとばかりにエステルが目を伏せる。
重く受け止めすぎだと笑うのは簡単だが、そうも言えないのがリアルなんだよなぁ。
まあゲームでも「騎士」のカテゴリーは5人までしかスカウトできない決まりで貴重な
エステルも、おそらくそういう先人を見ているのだろう。軽々しく決められないのだと思う。
なら、一つ。俺が最強だと思うルートを勧めてみるか?
「残念だが、俺はエステルが何に適しているかは分からないさ。俺が出来るのは自分のオススメの到達点を教える事だけ、そこに適性は関与しない」
「………その到達点が、頂なのですね?」
「少なくとも俺はそう思っている。言っておくがまるで騎士らしくは無いぞ? 騎士というものに憧れを抱いているならやめた方が良い。だが、最強のアタッカーに成れるのは保証しよう」
「ゼフィルス殿の保証ですか。それはまた凄そうです」
エステルが口に手を当ててクスリと笑う。
そしてスゥ、と目を瞑り、次に目を開けた時は何かを決意した強い瞳をしていた。
「ゼフィルス殿、どうかその最強の頂、このエステルに授けてはいただけないでしょうか」
「決めちゃって良いのか? もう少し猶予はあるが?」
「いえ構いません。元々【近衛騎士】に就こうとしていた身です。それを、【姫騎士】を取得する道を示していただいただけに留まらず、道の頂まで示してくださったのです。この場で頷かねば家の恥です」
「そこまで重いのもなぁ」
少し困る。
しかし、こと人生における重大なターニングポイントである事も分かるために抑えるわけにもいかない。
まあ、いいか。
せっかくエステルがその気になってくれているのだ。水を差す事も無い。
ちゃちゃっと教えてしまおう。
メモを取り出すとサラサラと要点だけを書いてエステルに渡した。
「とりあえず方針はこんな感じだ。詳細な説明は後日、ちゃんとした書類で渡すから。めげずに頑張ってくれ」
「ありがとうございます。このご恩は生涯忘れません」
深々と頭を下げ、メモをまるで王から賜るように
うむ。なんかちょっと王様になった気分だ。少し気持ちよかった。
「まあ、そこまでしなくてもいいさ。でも3年間は恩を感じていてくれよ?」
ギルドは3年続くからな。
その後、エステルに俺流の最強育成論【姫騎士】編を教え込んだのだった。
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