第62話 育成方法伝授。職業の理解を深めよう




 ラナに萌えコロコロされるところだったがなんとか踏みとどまった。

 危なかった。実に危なかった。むしろ楽になった方が幸せだったかもしれない。


 名前を噛んでしまいアワアワするラナも良かった。

 もし好感度メーターがあったら振り切れていたな。


 見た目すさまじい美少女なのでまた破壊力が高いんだ。

 まさか名前呼び、しかも噛んだだけであそこまで萌えるとは。

 〈ダン活〉にはこんな要素は無かったので完全に油断した。


 これがリアルの強さか。恐ろしいぜ。



 シエラは何か言いたそうだったが、ため息だけ吐いて場を取り持ってくれた。

 おかげですぐに落ち着き、講座を再開させることが出来た。

 シエラは頼れる秘書って感じなイメージが定着しつつある。



「さて、話が脱線したが、【聖女】の育成方法についてだ。今度は話を逸らすなよ」


「分かってるわ、進めて頂戴!」


 なんとなくラナがご機嫌な様子。今度は遮られることも無く話が進んだ。

 ご機嫌を取ればいいのか? ふむ、覚えておこう。


「【聖女】のポジションはヒーラーだが、どちらかといえばバッファーの側面が強い。強力なバフ支援で味方を優位に立ち回らせ、傷ついた仲間がいたら回復する。というのが大まかな流れだ。つまり、回復系が強いからと言って偏らせすぎると【聖女】の持ち味が死ぬから気をつけろということだな」


「バッファーね。【プリンセス】のようなもの?」


「ああ。【プリンセス】も【聖女】も「王族」専用職業ジョブだけあってよく似ているな。だが【プリンセス】はバフ特化、【聖女】のメインはあくまでも回復だ」


「でも、見る限り【聖女】のスキルはバフに偏っているわよ?」


 ラナがメモを眺めながら聞いてくる。

 そう、【聖女】もバフ魔法が多く占めている。【プリンセス】と同じくらいに。


 【聖女】は攻撃魔法、バフ魔法、防御魔法、回復魔法など多様な魔法を使いこなす。

 その中でもバフ魔法が多くを占めるのだが、【聖女】のユニークスキルのおかげで回復魔法が超強化されているのだ。


 その名は『守り続ける聖女の祈り』、効果は〈回復魔法に『継続LV○』を付与する〉である。


 これのおかげで【聖女】は回復魔法使いのトップに輝いたのだ。

 そう説明するとラナはキョトンとして首を傾げた。


「そんなに強いの? 聞く限り、あまり強いと思えないのだけど」


「ああ。強いなんてものじゃない。いいか、『継続』とはつまり継続回復するという事だ。ただの回復魔法を使って回復したのちさらに継続回復し続ける。LVが上がれば回復量も継続時間も延びると言えばこの強さが分かるか?」


 なぜ支援職が最強職業ジョブランキングで【勇者】に次いで2位に至ったのか、それは全部このユニークのおかげだ。ぶっ壊れと言ってもいい。


 戦闘中、常に味方に継続回復が掛かった状態になるのだ。

 時間経過でどんどん回復するもんだから、ヤバくなったらガードして耐えるだけで危機も回避できる。

 他の回復魔法を使っても『継続』は重複しないのが唯一のデメリットではあるのだが、普通の継続回復魔法は使えてしまうので意味の無いデメリットになっていた。


 そのおかげで〈ダン活〉プレイヤーは【聖女】のユニークで常時回復が掛かったままボスを殴りまくっていたわけだ。俺も散々お世話になった。


 しかし、そんな俺の熱意と感動とは裏腹にラナはよく分かっていなさそうだった。

 キョトンとしてらっしゃる。まあ、これは体感してみないと分からないかもしれないな。



「まあ、百聞は一見にしかずだ。とりあえずユニークスキルと『回復の祈り』は取っておけ。ああ、回復魔法はLV1でいいぞ。でもユニークはLV10まで育てろ。これは【聖女】を使う上で絶対必須な事だ」


「う、わ、わかったわよ。それで、他には何を取ればいいの?」


「まず【聖女】は狙われたら終わりだからな。防御と魔防を上げるバフは取っておけ。後はメモを参考に取得していけばいい。分からなくなったらいつでも聞きに来い」


「…わかったわ。その時はよろしくね、…ゼフィルス」


「お、おう。任せろ、ラナ」


 なんだかまだ名前呼びがぎこちない。

 くすぐったく感じる。


 ラナは俺のメモとにらめっこし始めたので、次はシエラの方に向く。



「…なんだか妬けるわね」


「何言ってんだシエラ?」


「別に…。それより【盾姫】について教えて頂戴。余すことなく、あなたが知っているすべてを知りたいの」


「おう。任せろ。と言ってもほとんどメモに書いてあるとおりだけどな。もう全部読んだんだろ?」


「ええ。では質問いいかしら?」


「ドンと来い」


 ラナと違ってシエラの【盾姫】への情熱はかなりのもので、すでにメモに書いてあったことはほとんど理解していた様子だった。

 元々、盾職の専門家みたいな家で育ったこともあるのだろう。タンクの役割も完璧に理解していた。後は実戦経験を積むだけだ。


 メモで分からないのは【盾姫】のいくつかのスキルの詳細とユニークスキルくらいのものだった。

 ラナと違って優等生だなシエラは。

 いや、そもそもラナは【聖女】を目指していたのに【聖女】について知らなさすぎだったのかもしれない。


「【盾姫】のLV40ユニークスキル『完全魅了盾』の効果〈一定時間、強制的に自分に注目させるターゲット〉なのだけど、どんな効果なのか具体的に知りたいの。使った瞬間にモンスターすべてが私のほうに(タゲが)向くのかしら?」


「一瞬で切り替わるぞ。こっちを向くとか、そんな生やさしいものじゃ無い。敵が攻撃モーションに入っていたら自分が攻撃対象に切り替わるんだ。気を張ってないと思わぬダメージを食らうから気をつけろ。あと、このスキルは攻撃系なんだ。攻撃が当たった敵のみ対象だな。大体1体と考えてくれ。ボス用だな」


 俺が答えると、シエラは可愛らしい花柄の手帳にサラサラとメモを取っていく。

 素直だなぁ。

 ラナ、少しは見習ってくれ。


 メモを取るペンが止まったのを見て続きを説明する。


「それと、気をつけなくちゃいけないのは効果時間が終わってヘイトが戻る時だな。効果時間中タゲが自分以外に行かないからといって油断していると、戻った時にヘイトが取り戻せなくて仲間がやられる事故が起こりやすくなる」


 シエラが真剣な表情だ。

 仲間がやられる。タンクにとってそれは屈辱的と言っていい。

 ヘイト意識が出来るパーティでタンクがヘイト取れなかったとか、絶対にやっちゃいけないミスだ。

 メモを取る姿に力が入っているように見える。


 ま、そういう時のためにサブタンクも出来る俺がいるので慣れないうちはフォローに回るつもりだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る