第61話 ラナ王女必殺の一撃、ゼフィルス特大のダメージ!




「エステル、無事【姫騎士】への覚職かくしょく、おめでとう」


「ありがとうございます。ゼフィルス殿」


 無事ギルド《エデン》が結成された翌日。

 俺たち《エデン》のメンバーは全員で貴族舎にある測定室、〈竜の像〉の前に来ていた。

 《エデン》のメンバーの中でエステルだけ、まだ職業ジョブを取得していなかったからだ。


 目の前で、雪国を思わせる蒼と白のコントラストが美しいドレスアーマーを着込んだエステルがほがらかに笑う。


 エステルは主であるラナ王女が職業を取得するまで自分も職業を取得するわけにはいかないと言って、入学式の時にはすでに発現していたのに【近衛騎士】に就かなかったのである。

 しかし、そのことが幸いし、憧れていた【姫騎士】に就けたのだからエステルにとっては幸運だったようだ。


 今も言葉と全身から嬉しいオーラをバンバン出している。

 そこまで喜んでもらえると手伝った甲斐があったってものだ。


「エステル、おめでとう!」


「ありがとうございますラナ様」


「エステル騎士、覚職かくしょくおめでとう」


「おめでとうございます!」


「シエラ様、ハンナさんも、ありがとうございます」


 祝われるたびに丁寧に腰を曲げて礼を返すエステル。


 ちなみにハンナだけさん付けなのは本人ハンナが希望したからだ。

 最初はレベルが格上のハンナに対し、エステルは様付けで呼んでハンナを大いに困惑させた。

 ハンナは半分泣きそうになりながらも抵抗して呼び捨てを希望したが、通らず。

 結局さん付けで収まったのだった。


 最初はぎこちなかったが、祝賀会でそこそこ会話したのもあって、ハンナも他の女性陣に多少は打ち解けることが出来た様子だ。

 まあ、俺もそこそこ、いやかなりフォローしたと思う(?)。ただ千尋の谷に突き落としただけかもしれないが。

 ハンナからは恨めしげに見つめられたが、自分ひとりで打ち解けられるか? と聞くとブンブン首を振っていたので問題ない。


「じゃ、ギルド部屋に戻るぞ。そこでスラリポマラソンでレベルを上げて、LV6になったら〈初心者ダンジョン〉に行って合格してこい」


「分かりました」


 本当は今からダンジョンに行きたい気分なんだがLV0の王女、エステル、シエラは〈初心者ダンジョン〉に潜る事すら許可されない。


 初心者ダンジョンに挑むための条件LV5は、本来戦闘訓練をすることで緩やかに伸ばすのだが、その方法だと最低一週間以上は掛かる。

 せっかく良い感じにギルドメンバーのテンションが上がっているのに、戦闘訓練なんかしていられるか! スラリポマラソンでレベルを上げるぞ!


 ということで、スラリポ中毒のハンナもギルドメンバーに教える分には笑顔で了承したので、スラリポマラソン担当はハンナに任せた。


 一人ひとりスラリポでLVを上げている間、残ったメンバーは俺と講義だ。

 今後最強のギルドを目指すにあたって最強の育成論を伝授してやる。


「というか、なんであなたが【聖女】や【姫騎士】、それに【盾姫】のことをそんな詳細に知っているのよ! どこの研究結果よこれ」


 呆れた口調で俺が渡した各職業ジョブの詳細と俺流の最強育成論が書かれたメモをヒラヒラさせる王女。

 その目は胡散臭げなジト目になっている。


「そんなもの俺が独自に調べ、研究した結果に決まってる!」


 ただし日本でだがな。

 嘘は言っていないぞ。ふはは。


 それをジトォとした視線で見つめていた王女だったが、やがて一つため息を吐くと先へ促した。

 どうやら聞くことにしたらしい。説明をしろと言外に仰せだ。

 まったくわがままな王女様だ。


「まず王女が取得した【聖女】だが――」


「ねえ、私のこと王女って呼ぶのやめなさいよ。なんで私だけ名前呼びじゃないの?」


 仕方なしに説明しようとしたら被せ気味に遮られた。

 こいつ…。


「私のことはラナ様と呼ぶことを許すわ。光栄に思いなさい」


「それで王女の【聖女】だが、ポジションは――」


「無視してんじゃないわ、私王女よ! 王女無視するな!」


「ええいやかましい! 話が進まねぇだろうが!」


 こいつ本当に【聖女】なのか?

 俺のイメージする【聖女】像にまるで当てはまらないのだが。

 就かせたの俺だけど。


 俺が真剣に悩んでいると、傍で順番待ちしていたシエラがフォローに入った。


「では、ラナ殿下の方からゼフィルスの事を呼んでみてはいかがかしら? 私が知る限り、ラナ殿下もゼフィルスの事を名前呼びしていなかったように思うわ。それならお互い様でしょ?」


 確かに王女からは「あなた」としか呼ばれていなかった気がするが、それが今重要か?


「むう。確かにそうね。でも私から呼んであげるのは、なんかあれよ、負けた気分になる気がするの」


 何故か「俺流の最強育成論」講座が、「お互いをどんな名前で呼び合うか」に変わってしまった。

 そして二人はこっちの方が重要とばかりに後者について話している。

 あれ? 俺がおかしいのか?


 困惑していると、こそっとシエラが近づいて王女に聞こえないよう小声で伝えてくる。


「いいから話を合わせなさい。じゃないとずっと話が進まないわよ。ああ見えてラナ殿下はあなたに名前で呼んでほしいのよ。わかってあげなさい」


 シエラの助言を聞いて王女を見ると、確かにチラッ、チラッとこっちの様子を窺っているように見える。

 そうだった、王女はツンデレだった。

 そう考えると、今までの言動もすべて甘えの範疇に思えるから不思議だ。かまってちゃんかよ。


 まあ、話が進まないのは同意なので仕方ない、名前で呼んでやるか。

 俺は王女の前へ行くと向き直った。


「な、なによ。やる気なの? 私、負けちゃうわよ」


「やらねぇよ。そんなに名前呼びしてほしいなら呼んでやる。耳かっぽじってよく聴いておけ」


 なんだか勝手に負け宣言するラナ。彼女の中の俺ってもしかして野獣か何かなの?

 俺、勇者なんだけど? よし、今一度いまいちど俺が勇者だって事を思い出させてやる。

 キリッと勇者的な決め顔を作って一瞬のタメの後、聞き逃したりできないようハッキリと言う。


「ラナ」


「ふぁっ!?」


「うわ。それはどうかと思うわよあなた」


 希望どおりに呼んでやるとラナが一瞬で真っ赤になって、何故かシエラからダメだしされた。

 なんでだよ! 勇者っぽいボイスだっただろ!?


「く、なかなかやるじゃない…、思っていた以上の威力よ」


 ラナが強烈なボディブローを食らったかのようにフラッとよろけながら言う。

 どこにダメージを受ける要素があったんだ?


「じゃ、じゃあ。私もお返しを、してあげるわ」


 何を返されるのか、拳か?

 先ほど負け宣言していたくせにラナから気迫のようなものを感じる。ちょっと震えているのは先ほどのダメージ故か。

 息を吸ってちょっと溜めると、ラナは意を決したように言った。


「ゼ、ゼフィ、ぜふゅルス!」


「ぐふっ!?」


「あ、噛んじゃったわね」


 特大のダメージが俺を襲った。

 さっきラナが食らったのはこれだったのか!? ヤバい。これはヤバい。

 一瞬で〈萌え〉という言葉が俺の中で爆発した。

 ラナ王女、恐ろしいやつ…。


 俺が胸を押さえてプルプル震えるしか出来ない所に遠くから「私も向こうに混ざりたいです」「そうですね。少し羨ましいです」といったのんきな会話が聞こえてきた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る