第51話 メンバー勧誘続行中。〈姫職〉最強の頂は。




「二人はジョブ測定にきたのか?」


「はい。ラナ様は一日でも早く職業ジョブを取得したいとの事で、毎日授業後には測定室を利用させていただいています」


「ち、ちょっとエステル!?」


 王女がエステルの発言に慌て出すがもう遅い。


「やはり、王女様は職業ジョブを取得できていなかったようだな?」


「くっ。そ、そうよ。私の目指す職業ジョブはすごく難しいの。そう簡単に条件なんて満たせないのよ」


「まあ、そうだろうな」


 「王族」をスカウトするための名声値は200。これは名声値(スカウト値)の中で最も高い数値だ。ギルドランクで言えば最低でもAランク以上になっていなければたどり着けないレベルである。

 それだけ「王族」は優れた職業ジョブを取得出来るということだ。

 しかし、それだけに取得条件の難易度は高い。


「【プリンセス】じゃないんだろ? 何を目指しているんだ?」


 【プリンセス】は下級職の中でも高の中にランクされる優良職だが、その取得条件はただ一つ、〈①「王族」「姫」である〉だけだ。つまり王女は生まれながらにして優良職を取得出来るのである。

 ちなみにこれを〈標準職〉と言う。アクティブな発現条件を満たさなくても最初から就ける系の職業ジョブ群だな。


 しかし、それを取得しないということは、それ以上、高の上ランクの職業ジョブを目指しているのだろうと当たりを付ける。


「あなたじゃ絶対にたどり着けない職業ジョブよ!」


「ああ。もしかして【聖女】か?」


「は!?」


 お、当たりのようだ。「あなたじゃ」って所でピンときたぜ。

 【聖女】……、なるほどなぁ。そういうことか。


 だから【勇者】の俺に突っかかってきてたってわけか。


 俺が王女の今までの行動に納得していると、王女の顔がみるみる真っ赤になっていった。


 その反応を見て、予想が当たりだと察する。


「同世代で【勇者】と【聖女】なんて登場した日には、そりゃロマンがあるよなぁ」


「なっ! ば、ば、ば、ばばばバカじゃないの!? そ、そんな、そんな事全然考えていないんだから! うぬぼれないでちょうだい!」


 俺のセリフに何を想像したのか王女様のテンパり具合が面白い。


「ラナ様、もしかして遠回しな告白だったのですか? あのラナ様が殿方に恋慕を?」


「ちょ!? エステル違うから! 確かにちょっと【勇者】と【聖女】ってお似合いよね、って憧れはしたけどね!? でも当の【勇者】がこんなよ、こここ恋だなんて、あり得ないわ!」


 エステルの見事な誘導尋問に、自分の胸の内を暴露してしまった事など気づきもせず王女様は否定する。(否定できているかは微妙)

 だいぶ初心うぶな反応だ。


「【勇者】ゼフィルス殿。こちらのラナ様は…この通りの性格ですが、器量良しです。それに悪い人ではございません。どうかご検討をいただければと……」


「なんの検討よ! エステルはもう黙りなさい! ―――あなたも、全然そんなんじゃないから!」


 王女が吠える。後半は俺に向かってビシッと指を突きつけた。


 ああ。これ以上突いたら本当に拗ねるか爆発するかしそうだなと思い、真っ赤な顔をしてフーフー威嚇してくる王女を宥める。


「まあ、落ち着け。信じてやるから、深呼吸しろ」


「くっ、ふ、フー、フー」


 意固地になって【プリンセス】を選ばれたら堪らない。


 というのも【聖女】というのは優良職の中でも【勇者】に次ぐ非常に強力な職業ジョブである。

 【勇者】に次ぐ、である。ここ重要。


 条件に〈①「王族」「姫」である〉というのがあり、〈姫職〉の最高峰に位置する。最大の名声値(スカウト値)200というトップ強キャラクターしか就けない、本当の最上位職だ。


 正直なところ【聖女】は是非欲しい人材だった。こんなところで怒らせてもなんの得にもならない。王女様は性格が、まあ微笑ましいし見た目はエクセレントだ。身長は女子の平均値くらいで顔はすばらしく整っている。輝くようなショートの銀髪に大海原のように青く勝気な瞳が輝いていて美しい。文句なしの美少女。

 俺のスカウト条件にバッチシ合致する。


 俺の中で王女様はすでにスカウトされたようなものだ。完全にロックオンである。



 よし、そうと決まれば次だ。

 王女を落ち着かせてから、エステルという騎士の方に向き直った。


「俺もエステル、と呼ばせてもらってもいいか?」


「はい。どのようにでも好きに呼んでください」


「ではエステル。君はさっき「二人はジョブ測定にきたのか?」と俺が聞いた時に「ラナ様は」と言っていたな? ということは、エステルはすでに職業ジョブを取得しているのか?」


「いいえ。ですが、目標には届いております。ラナ様が取得したのち私も取得する予定です」


 なるほど、まだ未取得だったか。そいつは都合が良いな。


「目標というのは? やっぱり【近衛騎士】か?」


 【近衛騎士】というのは下級職の中の上ランクではあるものの、「王族」と一緒に行動する際ステータスに大補正が掛かるユニークスキルを持っている。それ故に他の騎士職とは一線を画す。

 「王族」といる時限定であるが高の中ランククラスになる、かなり強力な職業ジョブだ。ちなみに男でも就けるため〈姫職〉ではない。


「! ゼフィルス殿は随分深い知識をお持ちなのですね」


 エステルが一瞬目を見開いて感心したように言った。


 当たりか。

 まあ【騎士】系の職業ジョブは「騎士爵」の〈子〉で無いと発現しないからな。貴族ですらない俺が何で知っているのか、とそういうことだろう。

 特に【騎士】系の職業ジョブって種類だけはとんでもなく多いし、【近衛騎士】なんて村人の俺から最も縁遠い職業ジョブだ。

 知っているだけで驚きだろう。


「その職業ジョブに満足できているか?」


「………言っている意味が分かりかねますが」


「そうだな。単刀直入に言って、俺は君も欲しい」


「はぁあ゙!?」


 近くで王女が叫んだ。話の邪魔をしないでくれ。


「俺のギルドに加入してくれるなら【姫騎士】の条件を教えるぜ?」


 俺がそう言うと、エステルの目が泳いだ。





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