第52話 違うんです、誘拐じゃないんですって本当本当。




 【姫騎士】は「騎士爵」のカテゴリーの中でも高の上にランクしている優良職だ。

 名前のとおり〈姫職〉の職業ジョブに分類される。【盾姫】と同格の職業ジョブだ。


 え、なんで【近衛騎士】より【姫騎士】の方が高ランクなの? 逆じゃないか?

 と疑問に思うかも知れないが。


 だが、想像してほしい。

 ラノベに出てくるような屈強な体躯の近衛騎士と、ドレスアーマーを着込んだ美しい姫騎士、どちらの方が需要があるか?

 つまり、そういうことである。



 〈ダン活〉はどちらかというと女性側の専用職業ジョブの方が強い。種類も多い。

 その辺も〈ダン活〉が人気の理由だった。ゲームするのって大多数が男だったし。




「ちょっとあなた! 私からエステルを引き抜くなんてどういうつもりよ!」


 俺の問いにエステルが動揺していると、主の王女が食いかかってきた。

 今はエステルとの交渉に忙しいんだが、仕方なしに王女の方へ向く。


「な、何よその面倒そうな顔は、無礼者よ! わ、私が話しかけてあげているのだからもっと嬉しそうな顔しなさいよ」


 強気に食いかかってきたのに何故か俺の表情を見たとたん不安そうになる王女。

 おっと、ちょっと顔に出すぎていたらしい。


 勧誘を邪魔されたと思ったが、考えてみれば王女の言い分は正論だった。誰だって部下や護衛が目の前で引き抜きにあっていたらえかねるか。

 おとなしく謝罪する。


「悪かった。謝罪しよう」


「そ、そう? まあ分かればいいのよ。それよりエステルを勝手に引き抜かないでくれるかしら。エステルは私の護衛で近衛騎士なんだから」


「ああ。別に引き抜きというわけじゃないぞ? 俺のギルドに誘っただけだし」


「それを引き抜きって言うのよ!」


 んん? なんか話がかみ合っていないような?

 王女もエステルも俺のギルドに入れば行動を共にするわけだし問題ない気がするんだが。何か問題があるのだろうか。


「あの、ラナ様。おそらくですがゼフィルス殿はラナ様もギルドに誘っておられるのではないでしょうか」


「ええ!? ちょっとそうなの!? 聞いていないわよ私!」


 ……ああ。そうだった。そういえば王女のことはまだ勧誘していなかった気がする。

 最初に王女がギルドに入れ的な事を言っていたし、今もその気のようだったから勝手に一緒のギルドになるもんだと思いこんでいたようだ。

 確かあの時も断ったはずだし、ギルドを共にする話は流れっぱなしだった。


 だが、これ以上弱みを見せて王女にマウントを取らせるのもなぁ。

 と言うわけで俺はそ知らぬ顔でやり過ごすことにした。


「なんだ。王女は俺のギルドに入らないのか?」


「待って。待ちなさい。少し整理させて。いつの間に私があなたのギルドに入ることになっていたのよ。違うでしょ! あ・な・た、が私のギルドに入るのよ!」


「俺のギルドに入るなら【聖女】の発現条件を教えてやるぜ?」


「は!?」


 王女が大口開けて絶句した。

 エステルもクールな雰囲気を崩してこちらを窺っている。


 その様子は、とても信じられないと語っていた。

 シエラがしていたものと同じものだ。


 よし、こういうときは勢いで押し切ろう。


「いやあ、【聖女】と【姫騎士】がギルドに入ってくれるなんてラッキーだぜ。早速職業ジョブの取得条件満たしに行こうぜ」


「はっ、待ちなさいって! あなた今言ったことは本当なの? 【聖女】の取得条件なんてなんであなたが知って――って手を掴まないでよ、どこに連れていくっ!?」


「まあまあ。――エステルもおいでよ。条件聞くだけならタダだぜ?」


「い、いえ。もしその情報が本物なら王家が動くほどの大事になるかと――って、ああ!」


 抵抗する王女様と、なんか妙なことを口走り始めたエステルの腕を掴んでやや強引に引っ張っていく。

 ふははは、職業ジョブの恩恵も無い子どもの抵抗なんて無駄無駄。

 そのまま俺の部屋に直行だ。


 俺の部屋にはまだシエラが忘れていった〈『錬金LV1』の腕輪〉と〈錬金セット〉が置きっぱなしだ。

 悪いが勝手に使わせてもらおう。これも俺たちのギルドのためだ。



 はたから見たら、抵抗する美少女二人(なお両方「姫」)を力任せに無理矢理部屋に連れ込んでいる誘拐現場に見えていたことに気がつかないまま、俺は丁寧に二人を自室へ案内した。




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