第50話 無事(?)ジョブ取得。トドメ刺しちゃったかも




「本当にこんな方法で良いのかしら? 何故か、この世の全てが間違っている気がするのよ」


 ああ、そうだな。俺もなんだか軽く罪悪感が湧いてくるようだ。


 俺たちが今やっているのは【盾姫】の条件〈②モンスターの攻撃を100回盾で受ける〉と〈③モンスターの攻撃を100回盾で受け流す〉、ついでに〈⑤【盾士】【大盾士】【双盾士】【シールダー】【属性盾士】【魔法盾士】【城塞盾士】の条件を満たす〉の一部も同時にクリアしてしまえる画期的な方法。


 その名も〈スライムキャッチボール〉だ。


 俺がスライムを投げると、シエラが軽い調子でかざした盾で受け止めた。

 これで〈モンスターの攻撃を盾で受ける〉1回分である。ちなみにスライムは消滅した。


 実は〈ダン活〉ではスライムを投げると、モンスター・・・・・の攻撃判定・・・・・になる仕様だった。

 投げる側はスライムの攻撃をアシストしているというポジションだな。


 この〈スライムキャッチボール〉、元ネタは【魔物使い】の『モンスタースロー』というスキルで、使役しているモンスターを投げる事で攻撃したり、素早くポジションをスイッチさせるといった使い方が通常だったのだが。

 裏技で取得条件の獲得にも使える事を我が同士他のプレイヤーたちが苦労偶然の果てに発見したのだ。



 現在【魔物使い】は居ないのでゲーム時代ならアクションすらできずに終わっていたところだが、ここはリアル。

 学園に着くまでの馬車で移動中。もしかしたら行けっかなーと試しにやってみたら、普通にスキル無しでも行けたというわけである。


 弊害として投げたスライムはダメージを負って消滅してしまうが。むしろナイスと言いたい。トドメを刺す手間が省けるからな。



 それからも軽く構えているだけのシエラに向かってスライムをホイホイ投げ続け、30分も掛からずに②と③の条件を満たしてしまった。

 ついでに⑤の条件でまだ発現していない職業ジョブをシエラから聞き出してそっちも満たしてあげると、簡単に【盾姫】は条件に現れた。


「やっぱりおかしいわ。理不尽なのよ、こんなの」


 シエラが静かに荒れていらっしゃる。

 今までの血のにじむような努力とか、多くの期待を受けて迷宮学園に入学したのに期待に応えられないかもしれない不安とか、その他多くの物が一気に溢れてきたのだと、後日落ち着いたシエラは語っていた。


 貴族舎には当たり前のよう職業ジョブを計測出来る〈竜の像〉があり、予定通り、シエラは無事に【盾姫】を取得する事が出来たのである。


「とりあえず、〈覚職かくしょく〉おめでとう?」


「……そうね。ごめんなさい、あなたは約束を守ってくれただけなのに。……悪いのだけど、今日はこれで失礼するわ。この埋め合わせは後日また…」


 相当精神的にキているのだろう。悲願ひがん達成たっせいを喜ぶ余裕も無さそうだった。

 その日は〈竜の像〉の前で解散する。


「ああ、気を確かにな。あと、これも持っていってほしい。後で読んでくれ」


「何これ?」


「【盾姫】の詳細と最強育成論のメモ」


 こんなこともあろうかと、ちょいちょいっと作っておいたのだ。

 しかし、メモを見つめるシエラの目から光がスゥと消えていく。

 何故かお腹いっぱいのところに追加料理を出された光景を幻視した。


「ありがと」


 シエラは絞り出すようにお礼を口にすると、メモを制服のポケットに入れてそのまま階段を上っていった。もしかしたらトドメを刺しちゃったかもしれない。



 確か3階以上が女子部屋だったか。シエラの住まいも同じ貴族舎だったらしい。

 静かにシエラを見送ったあと、この後どうするかなぁと思っていたところ、再び見知った顔が現れた。


「あ! あなたは!」


「ん? ああ、あの時の傲慢王女様じゃないか」


「誰が傲慢王女よ! 相変わらずの無礼者ね!」


 そこに居たのはいつか見た「王族」の〈銀のティアラシンボルマーク〉を身につけた傲慢王女だった。

 名前はなんだったか? いや、確か名前は聞いていなかったはずだ。そんな覚えがある。


 おそらく彼女も〈竜の像〉目当てにここへ来たのだろう。

 しかし、この前とは違い、今回はお付きの人が一緒だった。


「ラナ様、お知り合いですか?」


 一目で騎士だと分かった。

 シンボルマークの〈盾と馬のブローチ〉を胸に付けている。

 少し桃色がかったブロンドのショートにオレンジ色の瞳が優しい雰囲気を纏っていて、なんとなく知的な印象を覚える。

 身長は俺より少し低い程度と女性にしては高く、非常にメリハリのある身体つきをしていた。


 見たところ、王女の護衛、だろうか? しかし青の刺繍がある、一年生だ。

 一年生でこの身体つきなのか……。


 騎士の女の子を観察していると向こうの話が進んでいたようだ。


「例の【勇者】よ。少し前に私がギルドに誘ったのだけど、断ってきたのよ。しかも、自分に言う事を聞かせたいならレベルを上げてこいって言って、あろうことかこの私を追い返したわ!」


 屈辱よ! と言わんばかりに俺を見る。


「ゼフィルス【勇者LV20】だ。それで、ここ数日で王女様はどれほどレベルが上がったので?」


「え、な! もうLV20まで上がっちゃったの? ちょっと、少しは待っていなさいよ」


「明日から初級中位ショッチューに潜るから、また差が開いちゃうかもなぁ」


「待ってって言ってるでしょ!」


 俺と王女様のやりとりを見てどんな関係なのか納得したらしい騎士の女の子は一つ頷いた。問題はないと判断されたらしい。

 どんな関係と思われたのか少し気になる。


「申し遅れました。私はエステル。ラナ様の護衛騎士を拝命はいめいしております。以後お見知りおきください」


「ああ。よろしく。そんでラナって言うのは?」


「………こちらの王女様です。ラナ様、ちゃんと自己紹介なさらなかったのですか?」


「ちょっとエステル、そんなダメな子みたいに言わないでよ! 自己紹介なんてしなくても向こうが知っているのは常識でしょ。なんていったって、私は王女なのだから」


「ダメですよ。挨拶されたら挨拶する。名乗られたら名乗り返すのがマナーです。相手が知っていたとしても礼節は重んじるべきですよ」


 ふむ。このやりとりだけでも力関係が分かるな。

 しっかり者な雰囲気のエステルに王女様の手綱を引いてほしいという背景が透けて見えるようだ。




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