第49話 記念すべきメンバー2人目ゲットだぜ。




「私をギルドに入らせてください」


 キタ! シエラの答えに俺は内心歓声を上げた。

 うっかり表情に出そうになったのを、理性を総動員して自制するのにとても苦労したほどだ。

 待て、慌てるな俺。交渉はここからだぞ!


「いいのか、そんなにすぐに決めて? 言っておくが、こちらも貴重な情報を与えるんだから入ったけどすぐに脱退されるでは困るぞ」


「そんな道義どうぎもとることはしないわ。貴族は大きな恩には礼で返すのよ」


 自分が伯爵家令嬢ということは【盾姫】の事ですでにバレているので、シエラは隠さず自分が貴族だと言った。

 しかしなぁ、だからこそ信用ならないんだが…。


「俺のイメージでは貴族は恩でも簡単に踏み倒すように思うんだが…?」


「……少なくとも、私の親族には居ないわ」


 それは暗にそういう貴族もいると認めているようなものだが、やっぱりこの世界でもそういう悪徳貴族はいるらしい。だってゲームでも出たし。


「そうね。確かに口約束では不安よね。家の契約書を使いましょう。【魔道具師】が作った高価なアイテムよ。効き目は私の家が保証するわ」


「いや、必要ない」


「……本気?」


 シエラが眉をひそめてこちらを見る。


 まあ、今の話の流れから俺が契約を求めていると捉えられても仕方ないんだが、俺はギルドメンバーを契約で縛るつもりは無い。


 俺のギルドが嫌なら、ぶっちゃけ脱退しても構わないのだ。何しろ、ここはリアル〈ダン活〉、ゲームの時とは違うコンテンツで溢れている。

 なら、そのコンテンツも使いこなしてこそ〈ダン活〉をより楽しめるというものだろう。


 要は、脱退されないよう、良いギルドを作ればいいのだ。それでも脱退されたらそれは俺の力不足だ。ゲームにはよく有る事。


「俺は仲間を求めている。それに、Sランクのトップに立てば嫌でも俺のギルドに残りたがるだろう?」


「すごい自信ね」


「【勇者】だからな」


 【勇者】は間違いなく職業ジョブの中でトップ職のツリーだ。

 俺はここでもSランクギルドになると決めている。

 トップギルドになれば、むしろ脱退したいなんて考えられなくなるだろう。

 それでも脱退したいと言うならそれは仕方ない。


「そうね。あなたは根拠があって示している。実力はあるし、将来性も高い。もしかしたら、本当に有言実行してしまいそうね」


「間違いなくするぞ? 加入するなら今がお得だ。脱退なんて考えもさせないから安心しとけ」


 自信満々に宣言するとシエラは口に手を当てて可笑しそうに笑った。

 よし、記念すべきメンバー2人目ゲットだぜ。

 しかも「姫」! こりゃすごい。リアルコンテンツがマジパネェ!

 これで〈姫職〉を初期から組める事が分かったぜ。

 本気で姫職パーティ組んじゃおうかな?


 おっと、そうだった忘れるところだったぜ。


「じゃあ、【盾姫】の条件、教えるな」


「ええ。本当に知っているのね?」


「【勇者】だからな」


「ふふ、意味が分からないわ」


 なんか、笑顔が増えたなシエラは、最初会ったときからなんとなく余裕が無さそうに思えていたのが霧散した様子だ。

 これほどの美少女だ、やはり笑っていた方がよく似合うな。


 そのまま口頭で伝える。

 【盾姫】の条件は、

 ①「姫」「伯爵」である。

 ②モンスターの攻撃を100回盾で受ける。

 ③モンスターの攻撃を100回盾で受け流す。

 ④【LV30~LV75レベルリミット】を経験した事が無い。

 ⑤【盾士】【大盾士】【双盾士】【シールダー】【属性盾士】【魔法盾士】【城塞盾士】の条件を満たす。

 以上五項目だ。


 ①はすでに満たしているし、②と③は単純だ。後でスラリポマラソンに参加させたら良い。

 ハンナが何か言ってくるかもしれないが、今後スラリポはギルドでも使っていく予定だし、個人の財産ではないと言い含めておかないとな。


 ④は特殊だな。転職可能レベルリミットというのは上級転職チケットを使う事の出来るレベル帯のことで、LV30以上の事を言う。

 LV30を超えると上級転職チケットを使って上級転職ランクアップすることが出来るようになるが、SUPステータスアップポイントSPスキルポイントも引き継がれるためLV75カンストにしてから上級転職ランクアップした方が圧倒的に得だ。


 少し脱線した。

 つまりはLV30を超えてしまった「姫」は二度と【盾姫】に転職できないから注意が必要だ。という事だな。

 俺たちプレイヤーが最後まで分からなかった条件だ。これを理詰めで検証したプレイヤーはマジ神ってた。何しろLV30とか初級中位で簡単に超えるからな。当初は転職で【盾姫】になるのは不可能と思われていたんだ。これが【盾姫】の発見を遅らせる大きな理由だった。


 ⑤は少し面倒だ。【大剣豪】の時もあったが、同系統の下部職条件をクリアするタイプだ。

 下級職高位ランクの職業ジョブは大体この条件を持っている。


「以上だ」


 そう伝えると、シエラはしばらく呆然とした表情のあと、情けない声で言った。


「見つけられないはずだわ…」


 まあ、そうだろうな。

 リアルだと職業ジョブの恩恵も無しにモンスターに挑むとか無謀を通り越して狂気だし。

 0からやり直しレベルリセットする転職はこの世界で滅多な事でないと行われない。


 それに発現条件の覚束おぼつかない職業ジョブが多すぎて、手っ取り早い⑤の下部職条件すら全て満たせない体たらくだ。

 過去に1人しか発現者が現れなかったというのも頷ける。


 もちろん俺は下部職全ての職業ジョブ条件が分かるのでそれもシエラに教えておいた。


「本当に、何者なのあなた」


「【勇者】だよ」


 なんか【勇者】って言葉、使い勝手は良いな!

 新たな発見だ。


 その後、シエラを連れて貴族舎へ向かった。

 シエラが〈『錬金LV1』の腕輪〉と〈錬金セット〉を持っているとの事なので、早速スラリポマラソンをやっちまおう。

 俺の計画では、今日中に【盾姫】の条件を満たせるはずだ。




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