第32話 筋肉に負けないようレベル上げしようぜ!



 ハンナと共に息を整える。なんというか、あの集団から離れられてホッとしてしまった。


「さて、今日の方針だが、少し変更しよう」


「え? うん。でもなんで?」


 ハンナが俺の発言に不思議そうに首をかしげる。両手メイスを持ってそれをされると見た目が地味に怖いんだが…。まあいい。


 今日は昨日と同じく6層目から9層目までの素材を収集して、10層のボスを倒して戻ってくるというプランをハンナに話してあった。

 だが、あの筋肉集団を見て考えが変わった。


「今まで初級下位ショッカーは俺たちのほぼ独占だっただろう? だが、さっき見た筋肉集団はおそらく〈初心者ダンジョン〉を合格してくるはずだ」


「うん、つまり競争相手が出てくるって事だよね?」


「ああ。ペース的には俺たちの方が断然早いが、のんびりしている暇は無くなったとみていい」


 今までの攻略ペースは通常と比べればかなり速かっただろうが、俺からすればまだまだハンナに合わせていた感が強かった。

 それに、競争相手はまだ出てこないと思っていたのだが【筋肉戦士】五人のパーティが結成されたことで俺たちの優位性が危うくなった。

 あの筋肉たち、もうLV5まで上げてきたのかよ。どんな訓練したんだ…。絶対ダビデフ教官に染められただろう。


 【筋肉戦士】という職業ジョブは俺の中ではネタジョブだが、この世界で強ジョブと認知されている。そしてそれは勘違いではなく、かなり強力な職業ジョブであることは間違いないんだ。

 まあ最初だけの話だが…。逆に言えば最初はむちゃくちゃ強いという意味でもある。


 何しろ【筋肉戦士】のSUPステータスアップポイントは【勇者】を超える23Pだ。

 数値だけで言えば下級職の中でトップになる。


 これがどういうことかというと、例えば【剣士】ならSUPは12Pしかない。

 つまり【筋肉戦士】と【剣士】がLV1ずつ上がる毎に、ほぼ倍近いステータス差が開いていくという事だ。この意味が分かるだろうか…。

 まあ、少なく見積もっても圧倒的だ。


 【筋肉戦士】は確かにネタだが、初期は圧倒的ステータスを持つ強ジョブではあるんだ。

 伊達にランキング二冠を達成していない。片方は非公式だが。


 しかしその代わり、スキルはユニーク以外覚えることは出来ないし、装備はしない方が強いので裸族一択。見た目がすごい暑苦しい。


 まあそれはいい。とにかく俺が言いたいのは、


「筋肉集団に負けないようLV上げをしようぜ」


 と、こういう事だ。


「え? でも、それって今までと違うの?」


 全然違う。

 今までは素材集めとハンナのダンジョン慣れがメインだった。


 そしてこれから行くのは、狩り場だ。それも強敵の。


「目指す階層は10層。ボス部屋だ」


 そうハンナに宣言した。






 ボスは強力なモンスターだ。

 高いステータスにタフネスさを併せ持ち、油断をすれば一気にこちらを全滅させに掛かってくる。

 しかし撃破報酬はその分美味しい。

 〈ダン活〉は少し特殊で「ボスドロップ」「ダンジョン内のザコモンドロップ」、そして撃破報酬の「宝箱」の三種類が貰え、計10個~20個くらいの数ドロップする仕様だった。

 さらに経験値も大量に貰える。


 〈初心者ダンジョン〉のただゴブリンは、最奥ボス部屋にいたけれどボスモンスターではないので例外。ザコと同じドロップだ。


 ボス周回は〈ダン活〉で公式に推奨されている基本戦術。ということでボス周回をしようというのが俺の提案だった。

 


「ねえゼフィルス君、こんなLVでボスに勝てるのかな?」


 ハンナが不安そうにそうこぼすが、ハンナだけなら間違いなく勝てないだろう。

 だって戦闘ステータスに振ってないし。むしろ足手まといになる。


 だが俺はソロでボスに勝てると思っているので問題は無い。


 そのためにステータスもだいぶ偏って振ってきたんだ。全てはボス対策のために。


 ――――――――――


名前ネーム:ゼフィルス

人種カテゴリー:「主人公」

職業ジョブ:【勇者】LV12

SUPステータスアップポイント:合計22P獲得

制限:無し

【HP 62/62→162/162】

【MP 140/140→170/170】


【STR 50→70】

【VIT 20→70】

【INT 10】

【RES 20】

【AGI 30→50】

【DEX 12→14】


【SUP 132P→0P】

【SP 6P→0P】


《スキル》

『身体強化LV6』『直感LV5』『アピールLV5』『状態異常耐性LV3』

《魔法》

無し

《ユニークスキル》

勇者の剣ブレイブスラッシュLV1』

 ――――――――――


 今回多めに振ったのはHPとVIT、つまり耐久力だ。

 ボス戦はさすがにザコと違い一撃では倒せない、長期戦になる。

 故に耐久力を育てていないとすぐに全滅する可能性が高くなる。

 俺は回復系スキルを育てていないので、防御力を上げてなるべくダメージを減らさなくてはいけない、回復薬ポーション(下級)もタダではないからな。


 正直言って、ハンナの心配は杞憂だ。かなり余裕でボス戦は終わるだろうと俺は睨んでいた。

 何しろ〈天空シリーズ〉の性能がずば抜けて高すぎるから。


――――――――――

〈天空の剣:攻撃力85、魔法力51、聖属性〉

〈天空の盾:防御力31、魔防力20、聖属性ダメージ50%カット〉

〈天空の鎧:防御力45、魔防力32、光属性ダメージ20%カット〉

〈シリーズボーナス:『状態異常耐性LV3』

――――――――――


 〈天空シリーズ〉超有能。


 まず俺のステータスより高い攻撃力と防御力。

 さらに特性によって一部属性から受けるダメージをカットしてくれる。


 シリーズボーナスとはシリーズ装備を全て身につけていると発生する特典で、〈天空シリーズ〉なら全て装備していれば『状態異常耐性LV3』が自動発動する。


 元々中級上位ダンジョンで活躍するような武器防具だ。

 初級下位ショッカーのボス程度では相手にもならないだろう。


 と、ハンナに再三聞かせ、納得させたところで俺たちは最短ルートを辿って10層のボス部屋へと向かった。


 その途中に現れたモンスターはもちろん屠り、ドロップはハンナに任せる。

 記憶にある道順に進んでいって…、おっとそういえばこの先にランダム宝箱がよく湧く行き止まりがあったな、ちょっと寄っていこう。


「おっし、宝箱発見!」


「木箱だ! ねえゼフィルス君、今度は私に開けさせて?」


「おう、いいぞ。開けてみな」


「やったー」


 『直感』に引っかからないので罠の類いは無し。まあ初級下位ショッカーに罠なんてないが。


 やっぱ宝箱はドキドキするよな。ハンナも開けるだけで大はしゃぎだった。


 開けた瞬間にテンションが急転直下するという一幕もあったが、なるべく急ぎ足で向かった甲斐もあり、お昼には10層にたどり着いたのだった。


 ちなみに宝箱の中身は〈鉄の剣〉だった。

 売るの決定! ハンナはダンジョンでは珍しく「ふえぇぇん」と情けない声を出していた。




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