第31話 暑苦しい筋肉が6つ。同級生が染まってる!?




「兄さん仕事が早いなぁ。もう〈熱帯の森林ジャングル〉の五層行ってきたんか。しかも素材が規定数までちゃんと揃っている完璧な仕事でウチ惚れ惚れするわ」


「おう。もっと持ち上げても良いぜ。今日中には〈熱帯の森林ダンジョン〉は制覇予定だからな」


 ハンナと初めて初級下位ショッカーに挑んだ翌日の朝、俺はマリー先輩がいる〈ワッペンシールステッカー〉で例のクエストの納品に訪れていた。


 今日は学園に来て初めての休日だ。土曜日だな。


 授業をスルー出来る俺にとっては全てが休日みたいなものだが、マリー先輩は普通に授業がある。なので普段ギルドに朝いないのだが、マリー先輩、休日は大体朝からギルドに入り浸っているとのことで、朝からクエ納品に押しかけてしまった。


 また、クエストの納品はまだまだ六分の一くらいの達成率だが、進捗報告も含めてこまめに納品する。纏めて納品するでもいいが、持てる量に限界があるので俺はダンジョンが終わる度こまめに納品し、常に容量をできるだけ空けておく事にしている。


「ほんますごいんやなぁ【勇者】って職業ジョブは…。普通初級下位ショッカーでも5人パーティ組んで一週間は探索してボスに挑むもんやのに」


 まあ、探索したことも無いダンジョンなら普通はそうだろうなぁ。

 しかし、俺はゲームの〈ダン活〉を隅々までやっていたデータベースと呼ばれた男。

 道のりなんて全部把握しきってるし迷うことも無い。常に効率的な道順で進み、モンスターの情報も全て知り尽くしているからこその攻略速度だ。

 ま、【勇者】は優秀だし〈天空シリーズ〉が圧倒的な部分も大きいけどな!


「クエスト納品分以外の素材はどうする?」


「それも欲しい素材多いかんなぁ、ちょっとギルメンに相談してきてもええやろか? ギルド分だけやのうて個人でも素材欲しい子は居ると思うんよ」


「構わないぜ。だがこれから待ち合わせなんだ。素材は置いていくからダンジョンから帰ってきたら査定額を教えてほしい。いらない物は回収するから」


「わかったわぁ。ほな、兄さんにまたたっぷり素材を稼いできてもらえるよう値段は勉強させてもらうわぁ」


「嬉しいね。できるだけ高値で頼むぜ」


 話が纏まったのでマリー先輩と握手を交わす。

 他ギルドとのコネが手に入るとこういう交渉をしやすくなるので便利だ。

 まだギルドホームを持たない身としては素材の保管場所がネックになる。一時預け場所に他ギルドを利用出来るのはこちらとしても利がある。


 しかし素材を預けてダンジョンへ行くと、たまにチョロまかすギルドもいるからな、その点マリー先輩のように聡い人なら信用出来る。

 向こうも分かってるから金額は多少色を付けてくれるだろう、縁が切れて損をするのは向こうも同じだからな。むしろ向こうの方がデカいからな。






 ハンナを誘って〈ダンジョン門・初伝〉通称:初ダンに向かうと、入口には疎らに学生がいた。


「あ、今日って休息日だっけ。ここで他に学生を見かけるって初めてかも」


 ハンナも今日が休日と忘れていたようだ、他の学生を見て目をパチクリさせている。

 分かるぞ、毎日が休日だと曜日感覚なくなるよな。


 他の集団は皆上級生だろう、ある程度装備が整っているように見える。

 ほとんどの学生は初級上位ショッコーに向かうようだ。


 初級下位ショッカーに向かうパーティやギルドはいない。今日も独占出来そうだ。


 と辺りを見渡していると、ハンナが袖を掴んできた。


「ねぇゼフィルス君」


「ん?」


「あれ、見て」


 そう言ってハンナが指さす先に居たのは、暑苦しい六つの筋肉だった。


「お前らは選ばれたベスト筋肉だ! その筋肉でモンスターを蹴散らしてこい! 何、教官がしっかり見ていてやるからな、安心して自分の筋肉を試してくるがいいぞ!」


「「「「「イエス・教官!」」」」」


 頬が盛大に引きつって戻ってこなくなるのを感じた。


 見たところ引率の教官が1名、学生が5名で〈初心者ダンジョン〉に挑むところのようだ。

 例の試練だろう。教官が発破を掛けている(?)

 引率教官は、俺にも指導してくれたことのあるダビデフ教官だった。


 しかし、問題なのは何故か教官含めて全員上半身が裸族ってところだ。

 そして5名の学生も例外なく筋肉マッチョだった。どう見ても【筋肉戦士】の集団だ。


 なんて暑苦しい。


「お前たちは【筋肉戦士】に選ばれた! おめでとう、強力な職業ジョブだ!」


 おめでとうじゃねぇよ!?


 思わず心の中でツッコんでしまった。

 これ以上暑苦しい集団を見ていると、またとんでもない発言が飛び出してきそうだ。

 俺はハンナの手を引いて、早々に〈熱帯の森林ダンジョン〉へ逃げ込んだ。






「すごかったね。なんというか……、いろんな意味で…」


「ああ、素直に同意だ。同級生がダビデフ教官に染まりそうで怖い…」


 ダビデフ教官のような同級生とか…うん、嫌だ。


 俺は一ヶ月後にあるクラス発表と授業を考えて少しげんなりした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る