第30話 初めての初級下位ダンジョン。(でも無双中)




「よ、っと!」


 スパン、という感触が腕に響くと同時に俺に斬られたアリクイ型モンスター〈クイール〉がエフェクトと共に消える。


 残されたドロップを確認して俺はガッツポーズを取った。


「よっしゃ! やっと〈クイールの毛皮〉出たぜ。これでこの階層も終わりだな」


「お疲れ様ゼフィルス君。ちょっと休憩する? 飲み物だそうか?」


「あー、助かる。お言葉に甘えて休憩するわ…」


 目的だった素材がやっとドロップしたら、急に疲れが襲ってきたのでハンナの言葉に甘えることにした。


 〈ワッペンシールステッカー〉でクエストを受注した日の午後、俺はハンナを連れて初級下位に分類されるダンジョンの一つ、〈熱帯の森林ダンジョン〉に来ていた。


 〈初心者ダンジョン〉と同じフィールド型ダンジョンではあるが、こちらはより鬱蒼としたジャングル地帯といった風景だ。通称も〈ジャングルダンジョン〉だしな。


 ダンジョンの道を少し逸れれば3mを超える下草がわんさか生えている。間違って踏み込んでしまえば道に戻ってこられるかかなり怪しい。ゲームでは侵入不可エリアだったんだがリアルだと普通に入れちまうから。


 道自体は刈り込んだ芝のようにちゃんと整備されていて、動きにも支障は無い。

 時々木々の枝から〈クイール〉やナマケモノ型モンスター〈ナマル〉が襲ってくるが、今のところ天空の剣の通常攻撃で問題なく一撃で屠り続けている。


 〈熱帯の森林ダンジョン〉は、先のクエストの素材が多くドロップする事に加え、モンスターのAGIが低い敵ばかりなので初心者にもやりやすいダンジョンだ。

 今回ハンナが初級下位ショッカー初チャレンジのため、ここを選択した。


 とはいえ今回、ハンナは運び屋ポーター役だ。

 ハンナのSUPステータスアップポイントはDEXとMP、RESに振っているため攻撃力はその両手メイスにほぼ依存している。


 ハンナの両手メイスは〈初心者用両手メイス:攻撃力12、魔法力8〉という名称で、名前から察するとおり武器として最下級の位置づけのものだ。

 正直初級下位ショッカーのモンスターでも、STRに1Pも振ってないハンナの攻撃ではほとんどダメージは通らない。


 そのため、運び屋ポーターの役をやってもらっている。

 俺がモンスターを倒し、その素材をハンナが〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉に収納する流れだ。


 それだけでは悪いと思ったのか、ハンナは自ら積極的に俺のサポートを進んでやってくれている。

 どうも俺に依存している形で経験値をもらうのにとても抵抗があるらしい。

 そんな事言ってもハンナは俺のギルド員第一号になることは決定事項なのでこれは先行投資だ。後で色々頼むと思うのであまり気にしないでほしい。


 今後そうしてもらうとしても、スキルが揃っていない初期は生産に集中するのはあまり良くない。

 まずはスキル二段階目が開放される職業ジョブLV20までは初級下位ショッカーでレベル上げするのが正解だ。

 生産で貰える経験値なんて最初はかなりしょぼいんだ。ある程度スキル揃ってからやる方が効率が良い。



 ちなみに俺の武器は〈天空の剣:攻撃力85、魔法力51、聖属性〉である。

 さすが中級上位ダンジョンで戦える武器なだけあって初級下位ショッカーのモンスターでは相手にもならない。

 おかげで今、リアル無双が楽しいです。


「さて休憩はそろそろ終わるか。一階層はモンスターが少なすぎて毛皮がなかなか集まらなかったけど、次の階層からはモンスターが二体以上の集団で現れるようになるから早く集まるだろうぜ」


「そうなんだ。ねぇ、ゼフィルス君はなんでそんな事知ってるの? 授業はまだでしょ?」


 休憩を終わらせてこれからの予定を聞かせると、ハンナが首をかしげてそう訊いてくる。


「調べりゃ分かるからなこれくらい。〈学園の大図書館〉行けばダンジョンの事なんて大体載ってるぞ?」


 これは本当のことだ。

 〈学園の大図書館〉は設定資料集の山と呼ばれるほど様々な本が保管されていて、ダンジョンについて、モンスターの情報各種はもちろん、ジョブの獲得条件のヒントやその性能。

 武器防具アイテムのレシピに至るまで、本当に大量の情報を仕入れることが出来た。無論基礎的なことにとどまるが。


 俺もゲーム〈ダン活〉やってた初期は〈学園の大図書館〉で猛勉強したっけ。

 懐かしいな。今度はリアル大図書館を覗いてみるか。全てを網羅したけどリアルでは読んだことの無い資料があるかもしれない。


「うーん? ゼフィルス君って勧誘合戦のせいで昨日までお外に出られなかったよね? 大図書館になんて行けたの?」


「さて、話は終わりだ。夜には帰りたいからな。続きを狩るぞ!」


「あ、ゼフィルス君待ってぇ!」


 普段鈍いハンナが珍しく鋭いことに気づきやがったのでボロが出る前に話を終わらせて第二層に挑むことにした。

 ハンナは何故かダンジョンだと頭冴えるし調子が良くなるんだよな。




 スパンッ! ザンッ! シュタンッ!


 今日は五層まで進んだが、そこのモンスターでも〈天空の剣〉の一撃に耐えられた奴はいなかった。

 順調にレベルも上がって、俺の職業ジョブはLV11になり『アピール』をLV5にした。

 『アピール』はスキルLV5から範囲がかなり広くなるため魔物を呼び寄せる事にも使えるんだ。


 『アピールLV5』を使い、モンスターを呼び寄せて斬る。移動して『アピールLV5』を使い、モンスターを呼び寄せて斬る。このループでだいぶ効率よく素材を確保出来るようになった。


 夜になる前に引き上げる。

 その時には俺は【勇者LV12】にハンナは【錬金術師LV14】になっていた。

 ハンナの方がレベルが高いのは職業ジョブの格の違いのせいだな。【勇者】の方が強いので必要経験値が高い法則っていうアレ。


 


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