第29話 勇者にとって欠かせない? デザインペイント変更屋
「ほな、取ってきてほしい素材一覧がこれな」
そう言ってマリー先輩に差し出されたメモを受け取る。
マリー先輩の所属ギルド〈ワッペンシールステッカー〉にお邪魔し、数人のギルドメンバーに顔合わせした後にマリー先輩が纏めてきてくれたメモだ。
予想通り、納品クエストで間違いなさそうだな。
屈強な【筋肉戦士】たちが待ち構えていて高額な絵画のローンを組まされる、なんてことが無くてホッとしたぜ。〈ダン活〉にローンなんて無いけどな。
メモを読むと中身は、やはり初級下位ダンジョンの素材ばかりだ。しかし…。
「ずいぶん多いな…。しかも3箇所の
「へえ。兄さん一年生やろ? まだ入ったばかりで
俺がメモを一目見ただけでどこのダンジョン素材かを見抜いたことに感心したようにマリー先輩は言う。
ちなみに〈ショッカー〉とは初級下位ダンジョンの通称だ。
他に初級中位なら〈ショッチュー〉、初級上位なら高難度の意味を籠めて〈ショッコー〉と呼ばれている。
しかし、俺がまだ
「ふふふ、不思議そうな顔やな?
「マジっすか」
「おお、マジっすよぉ」
どっから洩れたか知らないけど噂広がるの早いなっ!
有名人はこれだからな。ふふ、参っちゃうぜ。
「なんやうれしそうやな。兄さんは大物になりそうや」
おっと顔に出ていたらしい。出されているお茶を頂き空気をリセットする。
「さて依頼の品については了解だ。おそらく問題なくこなせるぜ」
「せやな! 普通なら素材がどこのもんか調べるのが手間なんやけど、兄さん全部分かってるみたいやから話が早くて助かるわぁ」
マリー先輩いわく、依頼を受けておいて指定の素材がどこで手に入るのかどういう物なのかが分からず失敗する人間は割と多いらしい。
素材の名前を見ただけで分かる、というだけでかなり信頼が置けるとのことだ。
そりゃあなあ、一般的なゲームと違って〈ダン活〉はドロップの種類も異様に多かった。
一種類のモンスターから10種20種の素材・資源がドロップするなんて当たり前だったので、どのモンスターから何がドロップするか調べておかないととてもめんどくさいことになる。
闇雲に探して見つけられなかったなんて当たり前の世界が〈ダン活〉だった。
「さて次は――」
「分かってるでぇ。報酬な、うちのギルドが出すもんは、これや」
視線で問いかけるとマリー先輩は待ってましたと言わんばかりにソレを見せてきた。
「うちらの〈ワッペンシールステッカー〉の利用権10回分、どや!」
利用権、つまりはタダ券だ。マリー先輩が10枚のタダ券を見せてドヤ顔を決める。
「なるほどなぁ」
「ふふふ、【勇者】の兄ちゃんには今後絶対必要になるやろ?」
「だな!」
この〈ワッペンシールステッカー〉は生産ギルドだ。
では何を主体にしているかというと、装備用の〈デザインペイント変更屋〉。つまりはコーディネートである。
他のゲームでもそうだが、装備の能力は良いけど色のデザインや姿形が気に入らないなんて事は日常茶飯事だ。
性能重視か見た目重視か、〈天空シリーズ〉のように両方取りという装備はかなり少数派だ。
そこで登場するのが〈デザインペイント変更屋〉だ。主に【色変術士】や【装飾技師】、【理容師】などの
文字通り、性能そのままで自分の気に入る見た目にカスタムすることが可能なお店のことだな。これがかなり重要になる。
誰だってかっこ悪い装備なんて着けたくない。リアルならなおさらだ。
この店を利用すれば、シリーズ装備ではない寄せ集めのごちゃごちゃした装備もばっちりコーディネートできる、と言えばどれだけ重要かがわかるだろうか?
この迷宮学園では、服装は学園指定の制服で固定だが、装備は自由だ。
ファッションを楽しみたいなら〈デザインペイント変更屋〉は欠かせない。
まあカスタムできるとはいえ、ベースが分からなくなるくらい違う見た目には出来ないのだが、それでもカラーやデザイン、ワッペンなんかを入れるだけでも装備の印象は大きく変わる。
【勇者】を取得して注目度がやたら高くなったオレにとって、これは今後必要な出費になってくる。間違いなく。
現在の戦力を伸ばす類のものではないが、今後を考えれば悪くない。
デザインペイント変更はかなりミールが掛かるからな。その金額を考えれば10回はタダというのはかなり美味しいクエストだ。
しかし、マリー先輩、可愛い顔をしてやることが中々したたかだな。
【
有能だなぁ。
これは是非今後とも付き合っていきたい。
『クエスト〈流通が滞っている品を納品せよ〉を受注しました』
俺は二つ返事で依頼を受けることにした。
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