第28話 〈Cギルド通り〉でツインテール少女と出会う。




 名も知らない王女と分かれた後、予定通り買い物に向かった。


 やってきた場所はギルドの拠点が集まる通りの一つ、〈Cギルド通り〉だ。

 通称:Cどうと呼ばれている。


 ギルドはその強さやダンジョン攻略によってランク分けがされており、ここはCランクギルドの拠点が集まった通りだな。


 ギルドは最低Fランクからスタートするが、Cランクを超えるギルドには特典として大きな拠点が学園から与えられ、店も構えることが出来るようになる。

 そしてこのCどうではCランクギルドの人たちがダンジョンから取ってきたアイテム、素材、資源、そして生産した物品が売られている。

 学生なら誰でも利用可能だ。


 ここに来た目的は色々あるが、市場調査とコネ作りが主だ。


 昨日は〈総商会〉に売ってしまったが、あそこは定価でしか買い取ってくれないのでなるべく避けたい。

 高く買い取ってくれそうなギルドを見つけるのが今回の目的だった。


 では、高く買い取ってくれるギルドなんか有るのかというと、ある。

 というのも〈総商会〉で買い取られた物は、また定価で学園の購買に並ぶからだ。大体買い取り額の5倍で並ぶ。むちゃくちゃ高い。


 ギルドとしても、定価で購買から買うよりかは学生から直接売ってもらった方が安く済むので買い取りは歓迎されている。


 とはいえだ、〈総商会〉のようになんでも歓迎というわけにはいかない。

 ギルドが欲しくない物は当然買い取ってはくれないからな。

 逆になにがなんでも欲しいというときは買い取り金額を大幅に値上げして買い取ってくれたりもする。

 その辺MMOゲームと変わらない。


 故にたくさんのギルドで顔つなぎしておけば、どのギルドがなにを欲しがっていて何が要らないのか、その傾向が掴めるし教えてもらえる。


 それはダンジョンで荷運びに制限のある〈ダン活〉ではかなり重要だった。

 持ち運べる物は有限なので買い取り金額が高いものを優先して持ち帰るために必要なテクニック。

 〈ダン活〉ってドロップの種類がアホみたいに多いから…。あと憶えるの大変。まあそこは慣れた。〈ダン活〉のデータベースと俺の頭には全てのアイテム名が入っている。


 メモ帳を片手にC道を探索、カリカリと買い取り情報をカキコしていく。

 みんな何が欲しいか、店頭に買い取り表を貼りだしているのでそれを確認してメモを取る。


 ふむふむ。


「初級下位ダンジョンのドロップ買い取りの相場は、やはり高くなってるなぁ。二年生にとっては卒業して久しいだろうし、わざわざ低レベルダンジョンに素材を取りに潜る奴は少ない。それにそろそろ新入生が潜る頃だから買い取り額上げて一年生から買い取った方が時間短縮になるってことだろう」


 稼ぎ時だなぁ。

 これから潜るダンジョンの素材は売る場所に困らなさそうだ。

 とは言ってもこれは一時的なもの、流通量が増えれば自然と値段も下がっていく。


 スタダ決めておいて良かったぁ。

 早めにダンジョン資格を取ったおかげで今なら初級下位ダンジョンに潜っているのは俺たちしかいない状況。

 一年生はまだ誰も〈初心者ダンジョン〉を合格しておらず、二年生以降はわざわざ初級下位ダンジョンに潜らない。つまり独占状態だ。


「よし、ハンナ誘って早速ダンジョンに潜るか!」


 コネ作りはまた後日にしよう。今はミール稼ぎに専念すべきだ。


 しかし、きびすを返そうとしたところに俺の行く手を阻む者が現れた。



「なあなあ今の話詳しく聞かせてくれへん? 兄さん初級下位ショッカーに潜るん?」


 どうやら今の独り言を目ざとく聞いていた女子学生が話しかけてきたようだ。


 独特のなまり口調で話すのは学園制服を着たハンナ並に小さい少女。スカートに刺繍された緑色を見るに二年生の様だがとてもそうは見えなかった。

 原因と思われるのは明るい茶髪、ツインテールにしていてそれがロリ度を加速させているように見える。


 少しだけ犯罪臭を嗅ぎ取った俺はすぐに辺りを見渡した。くっ、角に警備兵が見える!


「迷子かな? 親御さんはどこだい?」


「待ちなぁ」


 無害な善良青年風にボケたら鋭い口調で待ったが掛かった。割とガチな声だった。


「ふふふ、兄さんお上手なんやから。私マリー言うねん。そこのCランクギルド〈ワッペンシールステッカー〉のメンバーでな、少し兄さんに相談があるんよ。少しだけ話させてくれへんかな?」


 ちっさな先輩が指さす先には、様々なロゴやらキャラクターの絵がそこら中に貼られている派手な店があった。ギルド名から察するに生産職に力を入れているギルドなのだろう。多分。

 そこのメンバーを名乗るマリー…先輩は、俺が初級下位ダンジョンに潜るという話を聞いて頼み事をしたいという事らしい。なるほどなぁ。


 先ほどから俺を【勇者】と呼ばない事からギルド勧誘という線は無さそうだ。


 となると、これはあれだ。〈納品クエスト〉だな。

 〈ダン活〉には突発的に「流通が滞っている品を納品せよ」というクエストが起こる事があった。

 依頼主は基本的にギルドからだ。

 クリアすると、ギルドから報酬が出るのだが、戦闘系のギルドならミールが多く、生産ギルドなら生産品が報酬になることが多い。


 ギルドのランクが高ければそれだけ報酬の支払いも良くなるが。

 しかし、生産ギルドは何をメインに生産しているかで報酬品が変わるため注意が必要だった。変な報酬の時はスルー推奨だ。


 とはいえ今回の場合、Cランクギルドのクエストであり、おそらく初級下位ダンジョンの素材納品クエだ。これは結構美味しい。

 報酬がCランクギルドで生産された品なら今の俺たちにとって強力な装備、またはアイテムであることは間違いない。それにこれから行くダンジョン攻略のついでに済ませられるというのも大きい。

 なら話だけでも聞いといて損は無い。


「了解。とりあえず話を聞くだけな」


「兄さん話分かるわぁ、ほんなら付いてきてぇ」


 マリー先輩はにっこりと子どもみたいな笑顔で店に入っていき、俺もそれに続く。

 本当に見事なツインテールだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る