第26話 勧誘合戦余裕の回避。これが天空の力だ!(違う)




「おい。あれってもしかして一年生か?」


「わ、上級装備シリーズ!?」


「着てるのは誰だ? なんか見たような奴だが…」


「バカ! 今話題の勇者君よ! 一年生に突然現れた新星の!」


「ああ!!」


 ざわざわ。ざわざわ。


 ダンジョンからの帰り道、俺たちは今、最高に注目を集めていた。

 まあ主に注目を集めているのは白く神々しい〈天空シリーズ〉装備だけどな。


 この神々しい耀き、聖なる鎧と言われたら納得してしまいそうな神聖さ。


 それを装備した人がなんの前触れも無く突然現れたら、そりゃなんだなんだとなるだろう。

 もちろん知っていてやりましたさ。確信犯だよ。


 おかげで今、その神聖で近寄りがたいこの姿に、勧誘合戦は鳴りを潜めている。


 人除け効果は抜群だ。

 狙い通りだぜ、うはは。


「うう。すっごい見られてるよぉ」


 ダンジョンではあれほど頼れる貫禄を出していたハンナだったのに、帰ってきたらいつもの弱気が戻っていた。

 不安そうな表情で俺をチラチラ見ている。

 嫌なら先に戻れば良かったのに、浮かれて「ゼフィルス君と一緒に帰ります!」なんて言った事を早速後悔していそうだ。


 とはいえハンナを連れていることも人除けの一因になっているので今更先に帰れとは言わん。

 世は道連れだ。うはは。



 授業が終わったのだろう、帰宅途中と思われる学生が遠巻きに見つめる中を悠然と歩く。

 こういうのは堂々としているのが声を掛けられないコツだ。

 ビクビクしながら歩けばその隙を突いて助けを装って話しかけてくるからな。



「あれ、どこの装備だろう」


「見たことないよね。オーダーメイドとか?」


「でも見た感じ上級装備シリーズだよね。時期的に早すぎない?」


「ああ、そっか。彼、まだ【勇者】になって数日だもんね。そんなすぐに作れる所なんて無いか」


「オーダーメイドじゃないとしたらどこで手に入れたんだろう」


「まさか大企業がバックに着いたとか?」


「う、あり得そう。【勇者】だもん。スポンサーだってほっとかないと思うし…」


「パーティーの勧誘は難しくなりそうね。私たちにそんな出せる物なんて無いし」


「くぅ、やっぱ金の力かぁ」


 周りの声に耳を傾けると、良い感じに誤解してくれていた。

 ただの村人が【勇者】になった事はすでに学校中で知られている。

 村人がこんな高価な装備を購入出来るわけも無いので、誰かがバックに付いたのだと勝手に勘違いしてくれるって寸法すんぽうだ。

 上手くいったな。


 これで今後はこの〈天空シリーズ〉装備を着ておけば勧誘はほぼ回避出来る。


 女の子にチヤホヤされるのは気分が良かったけど、動けなくなるのは困るからなぁ。


 でも時々は勧誘合戦の中にあえて身を投じる事もあるかもしれない。




 さて、結局遠巻きに見られながら誰からも話しかけられることも無く目的地に到着した。


 ここは〈総合買い取り商会〉通称:総商会という、学舎の一つを丸々使って学園側が運営しているダンジョン資源の買い取り所だ。

 主に〈ダンジョン営業専攻〉の学生がここで働いており、資源の目利き買い取りから会社の経営方法まで様々なことを学んでいる。


 俺はゲーム時代、どこにも売れない売れ残りや、生産に失敗したゴミくず、在庫整理で出た不良品なんかの処分場に使っていた。だってなんでも買い取ってくれるから。


 ゲームでは、専門の商店や他ギルドなんかに売った方が高く買い取ってくれたのでここに来るのは希だった。

 買いたたかれるわけではないが最低値でしか買い取ってくれないからなここ。


 だが、今の俺たちには商店やギルドのコネが無い。

 そんな初級者が利用せざるを得ない施設、という感覚。


「買い取りお願いしま~す」


「はい。いらっしゃいませ」


 玄関ホールはそのまま買い取りカウンターがある。

 窓口は全部で32箇所あり、今日はそのうち8箇所が開かれていた。

 混雑時や休日でも無ければこんなもんだ。


 空いていたので一つの窓口まで行くと美人お姉さん系の上級生が対応してくれた。


「わぁ、あなたが今話題の勇者君ね! 会えて嬉しいわ」


 営業そっちのけで話しかけられた。まあ所詮しょせんは学生だ。


「俺も先輩に会えて嬉しいです」


 でも窓口が美人だったので大当たりだ。俺も嬉しいと伝える。

 名前はメリーナさんと言うそうだ。


「ゼフィルス君?」


 おっと、今はハンナを連れているんだった。あまりおふざけは出来ない。

 やはりハンナは先に帰らせれば良かったか。


「実は今日は初めてダンジョンで授業を受けたんですよ」


「え! 早いわね、まだ期限まで全然余裕あるじゃない」


「そこはほら、俺って【勇者】ですから」


「まあ! それでもう〈初心者ダンジョン〉に進んだのね、結果はどうだったの?」


「ふふふ、もちろん一発合格でしたよ」


「わぁ、将来有望ね!」


 メリーナさんと話し込んで仲良くなった。

 いやはや、さすがは営業専攻の学生、話しやすい話術につい喋りすぎてしまった。

 メリーナさんは聞き上手だな。接待かな?

 誰か大人のジュースとグラスください。


 俺と話している間も買い取りの手続きの手は止まらない。

 すばらしい手腕で作業するメリーナさん。


 今日のダンジョン探索で得た資源のうち、5割程度、俺たちでは使いようがない稲や羽、穂のついた小麦などを始め、さすがに食い切れないと感じるものをそれなりに買い取ってもらった。

 空間収納鞄アイテムバッグ内は時間経過が止まるとはいえ容量は無限ではないからな。なるべくスペースを空けておきたい。


 そして今回の稼ぎは3万4000ミールになった。


「お、思ったより行ったな」


 やはり三周したのと〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉で持ち帰れる量が増えたのが良かったな。

 思っていたより儲けが多かった。


 ちなみにミールは〈ダン活〉での金の単価だ。1ミール=1円と考えて違いない。


 初めてのダンジョン報酬をハンナと山分けして、俺たちはほくほく顔で帰路についた。




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