EX-第1話 私はゼフィルス君と一緒に居たい。




 私は〈名も無き始まりの村〉に住むハンナといいます。


 この村は、名前は無いけれど楽しい村です。

 武器屋、防具屋、薬屋、道具屋、服屋、楽器屋、錬金術屋とたくさんのお店があります。

 村人は少ないけれど皆明るくて良い人たちばっかりです。


 私の家は錬金術屋で、お父さんが作り、お母さんがお店で売る姿を幼い頃から見て育ちました。

 私も将来【錬金術師】になって店を継ぐんだって、自然と考えていました。


 10歳の時にお父さんに〈『錬金LV1』の腕輪〉をもらったときはすごくうれしかったのを覚えています。お父さんいわく「修業しなくちゃ【錬金術師】にはなれねぇ」とのことで、それ以来ずっと『錬金』の修業をしてきました。

 それでも【錬金術師】になれるかはお前の才能しだいだと言われました。お父さんは【錬金術見習い】にしかなれなかったそうで、子どものころ遊んでないでもっと修業しておけばと、後悔していたみたいです。


 私はちゃんと【錬金術師】になるため修業しますよ!


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 そんな村で16年間すくすく育ててもらった私は、この国の方針に従いダンジョンを多く持っている学園に通うことになりました。

 よくわからないのですが、村長さんがどこかの知り合いに口利きをして、本校? というところに通うのだそうです。

 いよいよ私が【錬金術師】になれるかどうかが決まります。


 ですが、学園に出発する前日とても怖い事がありました。

 学園に持っていく用に回復薬ポーションの素材を取りに森へ入ったらスライムに襲われてしまったのです。いつもならモンスターなんて森の奥深くにしかいないはずなのに。


 職業ジョブの恩恵を持たない16歳以下の子どもにとって、モンスターとの遭遇は死を意味するといっても過言ではありません。

 私もその時は腰が抜けて動けなくなってしまい、もうダメだと思いました。


 でもスライムに襲われる直前、助けてくれた人がいたのです。

 彼は幼馴染のゼフィルス君でした。同じ村の出身で、小さい頃両親を亡くしてからは村長が後見人になって育ててもらっていたため、あまり村で自由に遊んでいるところを見た記憶はありません。私とも挨拶をするくらいの仲でした。


 颯爽と駆けつけてくれたゼフィルス君は職業ジョブの恩恵も無しに一瞬でスライムを倒してしまいました。


「大丈夫か? 危なかったな。スライムは倒したからもう安心だ」


 あの言葉を掛けられたとき、今までの不安が嘘のように晴れ、不意に顔が熱くなるのを感じました。

 すごく胸が高鳴ったのです。あんなことは初めてで、しばらく声も出ませんでした。




 ゼフィルス君は不思議な子でした。

 戸惑いながら家に招待すると、いきなり〈泥水〉と〈スライムゼリー〉を渡されて『錬金』してほしいと言うんです。


 絶対大失敗デザートファンブルするって言ったのに、ゼフィルス君はむしろ望むところという姿勢でした。訳が分かりませんでした。ドキドキもすっかり治まってしまいます。

 しかし、その訳が分かったのは、ゼフィルス君にスラリポマラソンを教えてもらってからでした。


 職業ジョブの恩恵すら持っていないのに簡単にモンスターを倒す手段を教えてもらい、私は新天地を見た気分でした。

 なんでゼフィルス君はこんな方法知っているのかとか、どうでもいいと思うほどに…。


 スラリポマラソンは一度始めたら止まりませんでした。

 うちは錬金術屋でしたが、素材はいつもカツカツでした。私も修業したくても店売りの素材なんて扱わせてももらえませんでした。

 その反動でしょう。〈魔石:(極小)〉がドロップするスラリポにどっぷりハマッてしまったのです。


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 学園に出発する日、せっかくだから一緒に学園へ行く事になっているゼフィルス君の家を訪ねました。村長の家まで一緒に行きたかったのです。


 ですが、信じられない事にゼフィルス君は私の年齢を知りませんでした。

 あまつさえ私の事を小さいなんて言ったのです。小さくて悪いかぁ、もう。

 確かに私の身長はここ数年伸び悩んでいます。ですが胸とお尻なら結構自信はあるんです。立派なレディだと思うのですが。さすがに恥ずかしいので言えません。



 学園に着いて、制服や学生手帳、ダンジョンで使う武器などが支給されました。

 私はスライムを殴りやすそうだなと感じた両手メイスを選びました。

 これがすっごく快感で、スラリポマラソンにさらにハマってしまいました。

 ゼフィルス君には感謝しかありません。


 学園はすごく広かったです。

 ここ数日一緒にいたゼフィルス君とも、寮も校舎も分かれてしまうそうです。

 なんだか胸が苦しくなって、なんとかゼフィルス君と一緒にいる時間を増やしました。

 そうすると、胸のつかえが取れるんです。


 ジョブ計測では念願の【錬金術師】を取得する事が出来ました。

 長年の夢が叶ってすっごくうれしかったです。ゼフィルス君がハンナならなれるって励ましてくれたおかげかな?


 でもゼフィルス君もすごかった。伝説の【勇者】の職業ジョブを取得したって学校中で話題が持ちきりになりました。

 その日のうちにダンジョンのパーティを組もうって勧誘がひっきりなしに訪れていて、私は近づく事も出来なくなってしまいました。

 胸がモヤモヤします。



 あまりの人気にゼフィルス君は寮を移動するそうです。

 男子寮ではなく、貴族舎へ移る事になりました。


 こ、これは逆にチャンスではと考えます。貴族舎は男女で寮舎が分かれていません。階で分かれてはいるそうですが、部屋に異性が尋ねても問題になりにくいのだそうです。

 ゼフィルス君の荷物を取りに来たフィリス先生に手伝いを申し出て、私も貴族舎へ付いていきました。そこで寮母さんに話をつける事に成功。今後、私はゼフィルス君を訪ねるとき限定ですが貴族舎の出入りを許可されました。


 これでゼフィルス君と一緒にいられる機会は増えます。さすがに勧誘も貴族舎には来られませんから。


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 今日はゼフィルス君に誘われてダンジョンに行きました。

 フィリス先生がとても美人なのは分かりますが、ちょっとデレデレしすぎではないでしょうか?

 よし、今晩部屋に突撃しようと決めます。


 ダンジョン素材と資源を一部売った後、そのまま一度帰ってシャワーを浴び、ゼフィルス君の部屋に晩御飯を作りに向かいました。使うのは今日ダンジョンで手に入れた食材です。

 私は料理上手なお母さんに教えてもらっていたので料理の腕前には自信があります。

 案の定、ゼフィルス君はとろけた顔で召し上がっていました。

 ふふ、そんなに喜ばれると作った甲斐があります。


 その後、『錬金LV10』と『調合LV5』について、ゼフィルス君から実地指導を受けました。

 何故そんなレシピを知っているのでしょうか。まあゼフィルス君ですから今更ですね。


 特に驚いたのが〈魔石:(極小)〉2つを『錬金LV10』で錬金すると〈魔石:(小)〉が出来る事でした。知りませんでした、〈魔石:(小)〉を使えばポーション各種を作る事が出来ます。

 〈魔石:(小)〉はとても万能に使える素材ですがドロップ率はそんなに高くありません。

 まさかこんなに簡単に手に入るやり方があっただなんて、感動でした。

 明日からはもっとスラリポマラソンに励もう、そしてゼフィルス君の助けになろう。

 そう決意しました。




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