第20話 初めてのダンジョンで、ナイスショット!!




 切る、斬る、キル!


 ぶよよん。

 ぶよよん。

 ぶよよん。


 ヤバい。リアルダンジョン。すっごく楽しい。


 俺は早くもリアル〈ダン活〉にハマっていた。


 出会った瞬間モチッコに突撃、一瞬で距離を詰めて逃げる前に斬る。


 リアル戦闘のコツを掴んだらもう試したくて仕方ない。


 手に残る感触、戦っている高揚感、でも〈ダン活〉。

 全てが新鮮すぎた。


 もう一度言う。これ、すっごく楽しい!


 ぶよよん。




「はい。そろそろ交代しましょう。ゼフィルス君は戻ってきてハンナさんと交代してください」


 しかし楽しい時間というものは瞬く間に過ぎていくものだ。

 フィリス先生の交代宣言で残念に思いつつもハンナとポジションをチェンジした。


 仕方ないので今のうちに戦利品でも確かめておこうか。

 ふむ。米、餅米、トウモロコシ、稲、小麦、大麦と、…見事にイネ科ばっか!




「はい、頑張ります!」


「あまり気を張りすぎないようにね?」


 隣でフィリス先生がハンナにアドバイスをしている。


 ハンナのジョブは【錬金術師】。戦闘スキルは無い。無いったら無い。

 しかもハンナはどう見ても戦闘には向かない体型をしている。

 身長はおそらく140台前半しかないだろうし年齢も2.3個下に見える。

 ハッキリ言って、ハンナはロリッ子だった。


 先生の心配は尽きない。


「やっぱり戦闘スキル、取っとく?」


「うーん。いえ、一度このまま試してみます。ダメだったらまた考えますから。それにゼフィルス君だって戦闘スキル一度も使っていませんでしたし」


 ハンナは俺の戦闘を見ていたうえ、相手はモチッコだ、余裕だろう。

 フィリス先生、むしろ心配無用です。ハンナのことは俺が一番よく知ってます。

 安心して見ててください。


「では行きます。ていやーっ!」


 可愛い声で気合いを入れるハンナ。


 ハンナは武器である両手メイスを振りかぶって、近くに居たモチッコに近づき、まるでゴルフスイングのようにショットした。


 まるで躊躇のかけらも無い、見事なスイングだった。


「はえ?」


 フィリス先生の気の抜けた声と、

 ぱひゅんっと空気的な何かが抜けるような音が響き、

 モチッコが放物線を描きながら吹っ飛んでいく。

 そして米をドロップして消滅した。


「ナイッショット!!」


「やったー!」


 思わず叫ぶとハンナも喜んだ。

 ハンナの初戦闘(?)も無事勝利に終わる。

 戻ってきたハンナとハイタッチだ。


「ちょっと待って。ナイッショットではありませんよ、どういうことですか!?」


 フィリス先生がなんとか復活してくるが、今見た光景が信じられないようだ。

 まあそれも仕方が無い。

 だってハンナってどう見ても戦闘と無縁のロリッ子だし。

 初めての戦闘でモンスターを躊躇無く撲殺ショットするとは思っていなかったのだろう。


 普通のロリっ子なら、いや普通の女子でもモンスターを殺すなんて少しくらい躊躇するはずだしな。


 でもね。こいつハンナ、俺よりモンスターの討伐数が圧倒的に多いんだよ。

 相手はスライムだけど。



 そう、ハンナはスライムキラーになっていた。



 ハンナは〈『錬金LV1』の腕輪〉を持っているのでどこでも『錬金』が可能だった。


 そして俺と離れている間、一人でコツコツこつこつスライムを増やしては狩り続けていたらしい。


 完全なスラリポ中毒者だ。


 金が湧き出るような感覚に止められなくなる奴はいるが、ハンナは顕著だった。


 ついさっき聞いたら「ドロップの魔石(極小)が15万個を突破してからは数えてない」とか抜かしていやがった。


 『錬金』には魔石素材をよく使うので持てるだけ持っておきたいという気持ちは察するが、そのうち寮の部屋が素材で埋まりそうだ。

 いや、すでに埋まっているのかもしれない。


 まあそんなわけで、スライムをサンドバッグにしていたハンナにとって、見た目がスライムに似ているモチッコなんて敵ではなかった。躊躇も無かった。

 むしろ遊ぶ余裕まである。


 初めて会ったあの森で、スライムに襲われてビビッて動けなかった少女はどこにもいなかった。



 なんでこうなったんだろうな?

 俺は教えちゃいけない奴に教えてしまったんだろうか?


 若干後悔しかけるが、魔石が大量にあるのは良いことなので良しとした。

 ハンナには、俺がギルドを作った暁にはその中毒性を生かしてたくさん生産してもらおう。とポジティブに考えよう。



 結局フィリス先生には「ハンナって意外と運動も行けるんです」と言ってごまかした。


 残念ながらスラリポマラソンの事は説明出来ない。

 ハンナが恐ろしい目力めぢからで見つめてきたからな。

 くわばらくわばら。

 ハンナってあんな目が出来たんだな。幼馴染なのに知らなかったよ。付き合い二週間程度だけど。


 その後数回、ハンナが率先してモチッコをショットした。


 フィリス先生はすぐに慣れた。そういうものだと思ったらしい。


 そうこうしている間に一階層が終わる。

 チュートリアル中のチュートリアルモンスター、モチッコの出番もここまでだ。


「ドロップは合計23個溜まったな。帰ったら一緒に食べるか?」


「うん!」


 〈初心者ダンジョン〉一層はモチッコしか登場しない。

 ドロップはイネ科各種。まあ料理アイテムの素材だな。

 さすがはダンジョンで全ての資源が揃う世界〈ダン活〉。

 主食も当然モンスタードロップです。


 しかしだ、ゲーム時代は満腹値も無かったのでこれらはほとんど売ってしまっていたわけだが。

 この世界、リアル〈ダン活〉には空腹が起こる。

 つまりは食に関してこれらはそれなりの価値ができたというわけだ。


 これは、ゲーム〈ダン活〉時代の価値観を一度見直さなきゃいけないかもしれない。

 価値無しと断じた素材やアイテムが化ける可能性があるとか…。

 ふはは、今後が楽しみだ。




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