第19話 チュートリアルを開始します。リアルって長い…
ドアを開けるとフィリス先生がいた。勧誘合戦を回避するためわざわざ部屋に迎えに来てくれたフィリス先生には感謝しかない。
フィリス先生は先ほどまでの出来る女のスーツ姿ではなく薄い青を基調とした袴姿をしていた。
これは中級上位ダンジョンのレアドロップ「女武士道シリーズ」の装備だな。
VITの数値はあまり高くはないが、特性効果で〈刀を使っている時 STR・AGI補正〉が中々に優秀な装備だった。
シリーズ装備を全部そろえればシリーズ特性も付くはずだが、フィリス先生は篭手と足袋を装備していなかった。多分ドロップしなかったのだろう。
どうやらこれはフィリス先生のダンジョン戦闘装束のようだ。
聞いてみると驚いたことにフィリス先生は迷宮学園本校の卒業生で、しかも俺と同じ〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉に所属していたらしい。
ちなみに
ほー、フィリス先生は先輩だったのか。世間は狭いな。
そんな話をしつつフィリス先生と共にダンジョンへ移動する。
学園には80ものダンジョンが存在するが、その内最もレベルが低く、ダンジョンランク最低値に位置する、生徒が最初に挑む練習用ダンジョンが存在する。
その名は〈初心者ダンジョン〉通称:チュートリアルダンジョン。
学園のほぼ中心にあり、このダンジョンがあるからこそ学園はここに作られたとも言われているらしい。
歩いて数分で見えてきたのは、まるでドーム球場を思わせる外装を持つ施設。
この中にダンジョンの入口はある。ダンジョンの門と呼ばれる施設だ。
正式名称を〈ダンジョン門・初伝〉。俺たちは、通称:〈初【しょ】ダン〉と呼んでいた。
〈初ダン〉の中に入ると天井は開閉式屋根になっていて今は青空が見える。日の光が入り込み、ダンジョンにしてはなんとも明るい印象を醸し出していてとても見栄えがよかった。ゲームのメインステージの1つだ。絵の力の入れ方が半端ではない。
そして〈初ダン〉の中、奥には10の門がある。ダンジョンに繋がる門だ。
扉は無く異次元空間へ繋がる門だけが建ち、挑戦者を堂々と待ち構えるように鎮座している。
この門を潜り、通った瞬間からダンジョンに飛ばされる仕組みだ。
異次元への入口といった言い方のほうが近いかもしれない。
まあ、ゲームだな。
〈初ダン〉に入るとフィリス先生は迷うことなく一番左にあった門の前へ進んでいった。
「ここが〈初心者ダンジョン〉の入口よ、準備はいいかしら?」
「いつでも行けますよ」
「はい。大丈夫です」
門の前で立ち止まると振り返り最終確認をしてくれる。
問題なく頷いた。
ハンナも事前にどこからか情報を入手していたのか問題無いという。
フィリス先生が門の前から横にずれたので俺が門の異次元空間に手を乗せた。
多分慣れさせるためにダンジョン門へ触れさせてくれたのだろう。
だが、俺はゲームの画面上で何百回、何千回、何万回もこの門を潜っている。
リアルになったとしても今更臆【おく】することはない。
この門も久しぶりだ。
二週間前までは毎日画面上で見ていた異次元へ通じる門。
触ってみると少しひんやりしてゾクゾクする。
ちょっと押すと簡単に指が入っていく。
心の中で叫んだ。
ダンジョンよ、俺は帰ってきたぞーーーー!!!!
そして気が付けばダンジョンの中にいた。
「ふえ。本当に一瞬で景色が変わるんですねぇ」
後ろにいたハンナが急に変わった景色に驚いてキョロキョロ見渡していた。
「ふふ、そうね。私も最初同じ事を思ったわ」
フィリス先生がハンナの言葉にクスクス笑いながら同意する。
どうやら全員、一緒にダンジョンへ来られたらしい。
「…………」
「あれ? ゼフィルス君? どうかしたの?」
ずっとだんまりな俺を心配してハンナが近づいてきたようだ。
だが、ちょっと待ってほしい。
俺は今、この感動を感受するので忙しいんだ。
「スー、ハー」
深く息を吸い込み、そして満足してゆっくり吐き出す。
これがダンジョンの空気。
やばいな。感動だ。
妄想で何度訪れたか分からない、夢にまで見たリアルダンジョン。
俺は今、感動をこれでもかと噛み締めていた。
喜び狂って踊りださなかったことを誰かに褒めてほしいくらいだ。
「Foo!――っ――!」
あ、やべ。ちょっと
「こら、ゼフィルス君。ボーっとしてないの! 先生の授業なんだから聞かなきゃダメだよ」
「ふにゃ?」
肩を引っ張られて振り向くと、プリッと怒っています感じなハンナがいた。
何故かそれだけで感動が口からふにゃっと出てしまった。
端的に言えば現実に戻された。
「ハンナー……。おいハンナー……」
「な、何?」
がっくり。もうちょっとこの感動を味わいたかったのに、残念だ。
「もう。フィリス先生がせっかく時間を作ってくれたんだからしゃんとしないと! ほらゼフィルス君しゃんとする」
君は俺のお母さんか?
いえ、幼馴染です。
「わかったよ。悪かったって。―――すみませんフィリス先生。お願いできますか?」
「ふふ。大丈夫ですよ。反応は様々ですがダンジョンに初めて入ったらみんな驚きますからね。落ち着くまで待ってあげるのも授業のうちです」
さすがフィリス先生、懐が広い。
フィリス先生に礼を言ってダンジョンでの実地授業をしてもらう。
これに関してはほぼ知っていることなので(〈ダン活〉の時とセリフがほぼ同じだった)省略するが、要は「モンスターが出てくるので気をつけましょう」ということだな。
その後、実践に入る。
先頭は俺で後ろにハンナ、フィリス先生が最後尾について〈初心者ダンジョン〉を進む。
〈初心者ダンジョン〉はチュートリアルという事もあって何も無い一本道だ。宝箱も何も無い代わりに迷う心配もないし罠も無い。
「フィリス先生モンスターを発見しました。斬ってもよろしいですか?」
さてダンジョンで初となるモンスターは、〈モチッコ〉だった。
お餅型モンスター、全身白くてぷくっと膨れているモンスターだ。当然攻撃力はほとんど無い。
おいスライムと被ってんじゃねぇか!? と何度もツッコミを受けたモンスターだが、何故かこいつの方がスライムの三倍経験値がもらえる。さすがはダンジョンモンスター。
ええ! じゃあスライムの立場は!?
スラリポあるので安泰です。
よかった。スライムの立場は守られた。
とアホな事を考えている間に許可が出たのでショートソードで一閃する。
一瞬、ぶよよんっと感触が手に響いた気がしたが問題なくワンキルできたので初戦闘(?)は勝利に終わった。
餅米がドロップした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます