第16話 戦闘訓練なんかしていられるか!以下略!




「ダンジョンに行くにはまず事前に戦闘訓練を受けてもらうわ。ダンジョンでは何が起こるか分からないから…。それと実地授業、必ず最初は教員に同行してもらわないといけないわね。合格が出たらそこからは個人なりパーティなりでダンジョンに潜ることが認められるわ」


 翌日、やっとジョブを取得出来たのだから早速ダンジョンでレベル上げがしたいと相談してみたら、返ってきた答えがこれだった。


 ちなみに相談相手というのは昨日俺のジョブ計測の時に担当してくれた女性教員だった。

 フィリス先生というらしい。

 大人の女性に限りなく近づいてはいるものの、まだスーツに着せられている感が残る、あどけなさを持った美人の先生だ。

 

 朝、わざわざ貴族舎に寝泊まりしている俺の下に寮に置いてあった荷物を届けに来てくれた方々の代表とのこと。

 まだ二十歳くらいの見た目なのにしっかりしていると感心する。


 ついでなので、聞きたいことが割と積もっていたので訊いておくことにした。


「でもそれって来月、本格的に授業が開始されてからですよね? 今すぐダンジョンに潜ることは出来ないんですか?」


 新入生全員がジョブを獲得し足並み揃えて授業が開始されるはずだ。

 正直それまで待てん。


「申請すれば可能よ。やはり自分がなりたいジョブを早期に獲得してしまった生徒は時間を無闇に消費させてしまうから、申請があれば空いている教職員が指導を行なっているの」


 それは朗報だ。

 早速フィリス先生に頼んで申請の手続きを組んでもらった。

 今日の午前中から空いている先生がいるとのことなのでそこに参加させてもらえることになった。


 いやあ、こんなにトントン拍子に進むなんてラッキーだぜ。








 そんなことを思った事もあった。

 今は絶賛後悔している。


「そら、外周100万周だー! レベルなんて鍛えればすぐに上がる! 安心して俺についてこい!」


 と、めちゃくちゃなことを言っているのは王国軍で少佐の官位に着いているダビデフ教官だ。

 この世界では軍務の一環として、学園での臨時教官に配属されることは珍しくは無く、ダビデフ教官も今年度から〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉の教官として配属されたのだという。


「いやいやいや、そんなの無理ですって、時間的にも体力的にも不可能ですよ!」


「ガハハハ、人間不可能なことは無い。鍛えていればレベルも自然とついてくる! さあ、共に走ろうではないか!」


 お気づきかもしれないが、ダビデフ教官は生粋の【筋肉戦士】だ。

 浅黒い肌、ツヤッツヤなボディ、そして溢れんばかりの力こぶ。

 これぞマッスル。

 そんな筋肉マッチョな体型をしたダビデフ教官は筋肉こそが最強と本気で信じているようだ。


 ヤバい。

 本気マジでヤバい。

 どう見ても俺もマッスル漬けにする気満々だぞこれ。


 逃げるか?

 いやダメだ。せっかく俺のために時間を組んでくれたのだから今更放棄なんて出来ない。

 マジで今日はこのまま訓練を受けるしかなさそうだ。


 え、嘘だろ?



 こうして今日、俺は地獄の訓練が決定した。




 ……




 ………




 …………




 結局10周でリタイアした。

 いや無理だって。どんだけ広いと思ってるんだよこの学園。


 一日掛けて訓練に勤しんだ結果、上がったレベルはたったの1だった。


 やっていられるかこんな訓練!

 俺はレベルを上げるぞ!





 ―――――――――――



 そもそもの話だ。

 何故こんな戦闘訓練(戦闘まで行ってもいないが)をしているのかというとレベル上げのためなんだよな。


 例えばネトゲなんかでもクエストをクリアすれば報酬に経験値が貰えるゲームがあるが、〈ダン活〉の戦闘訓練も似たような物である。

 ダンジョンでモンスター倒してレベル上げをしなくても、戦闘職なら戦闘訓練をする、生産職なら物作りをすることで僅かに経験値が貰えレベルが上がる仕様だった。


 〈ダン活〉では職業ジョブを取得すると5月まで時間が進み、自動的にレベルが5まで上がる。そこからチュートリアルダンジョンへ向かってスキルを獲得したりステ振りをして実際にダンジョンを攻略するストーリーだった。

 そしてチュートリアルダンジョンを何回かクリアすればレベルが10に上がる。

 次の初級下位ダンジョンの入場制限がLV10からなので、そうやってストーリーが進むわけだ。


 でだ、調べてみたらチュートリアルダンジョンの入場制限はLV5以上だった。

 〈ダン活〉にはそこまで書かれていなかったから知らなかったよ。自然と上がってたし。むしろLV5からスタートだったし。


 つまりはあのアホみたいな戦闘訓練はレベル5にすることを目的にしているのだから、先にレベル5になってしまえば戦闘訓練を受ける必要も無いじゃないか。という理屈に行き着いた。


 くそう。そんな事に気がつかなかった少し前の自分をひっぱたきたい。

 明日は筋肉痛決定だぞこれ…。


 とにかくレベル上げをする!

 ダンジョンに入らず、戦闘訓練もせず、レベルを5まで上げる。

 そんな方法があるのかというと、あるじゃんか身近なところに!


 そんなわけで……。


「それで呼ばれたの?」


「そういうことだ。これからスラリポマラソンを開始する。協力してくれ」


「まあ、いいけれど…」


 ハンナに召喚いただいた。

 目的は言わずもがな、『錬金』を利用したスライム無限リポップレベル上げのためである。

 スライムゼリーは学園に来る道中に立ち寄った町で多くを売ってしまったが、その後の道中も馬車内でスラリポをやりまくっていたので大量にある。時間だけは無駄にあったのだ。


 スライム自体はモンスターとしての格が恐ろしく低く、経験値も微々たるものしか貰えないがレベル5までは届くだろう。


 〈ダン活〉ではレベル差が開けば開くほど倒したときに貰える経験値量が少なくなる仕様だった。

 スライムのレベルは1なので、キャラのレベルが6以上になると経験値を貰えなくなってしまうが、レベル5まで上げたいだけなら十分だ。


 貴族舎に召喚されたことで居心地悪そうに戸惑っていたハンナだったがスラリポマラソンにハマっていたためすぐに前向きになった。

 ハンナからすれば金を生み出す魔法みたいなものだろうからな、そりゃハマる。


 俺たちはもう一つの素材である泥水を入手するため移動した。




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