第15話 勧誘合戦開幕。チヤホヤチヤホヤ、ヤンヤヤンヤ




 俺が【勇者】のジョブを取得したという噂はその日のうちに学園中に広まったようだ。


「ねえ勇者君、私たちのパーティに入らない!?」


「待ってよ! 今私たちが勧誘してたのよ! 割り込まないで!」


「まあまあ落ち着きたまえ、彼は我々〈狼の刃〉ギルドがもらい受け――ぐはぁ!」


「ちょっと黙っててよ!」


「勇者君、勇者君、あたしたちの〈はな閃華せんか〉に来なよ。女の子しかいないギルドだからさ、ハーレム作れちゃうよ?」


「そこ! 卑怯よ!」


「わはははは、我が〈筋肉は最強だ〉ギルドに来ないか? 筋肉の素晴らしさを教えてやれるぞ?」


「げ! マッスラーズのリーダーよ! あんな高位ギルドが勧誘しに来るなんて!」



 次々と押し寄せてくるパーティやギルド勧誘で道はごったがえしていた。


 チヤホヤチヤホヤ。

 ヤンヤヤンヤ。


 お断りの話をする暇も無い。

 でもハーレムギルドは興味あります。


 参ったな、有名人って辛いわぁ。

 皆が自分を求めている光景に俺はとても気分が良くなった。


 というか女強いなぁ。男はみんな弾かれているか近寄ることも出来ないかだ。

 バーゲンに強いのはどこも変わらないと言うことか。


 唯一割り込んできたのは筋肉が溢れてはち切れそうな大男だけだ。

 というか今〈筋肉は正義だ〉ギルドって言ったか? ハンナをムキムキの世界へ勧誘したのはお前か!

 ぐっ、周囲に女の子で囲まれている状況に動けない! 誰かそいつを潰してくれ!



 そんな勧誘合戦、というか俺の取り合いは学園の警備兵さんたちが来たことで収束してしまう。


 ああ、女の子に囲まれていた素晴らしい時間が終わってしまった。


 恨めしげに警備兵を見つめるとフイッと目を逸らされた。

 おのれ。



 しかしながら勧誘が終わったわけではなく、依然として俺から距離を保ちつつも隙あらば近づこうと様子を覗っているため、今日は警備兵の方が数人護衛に付くことになってしまった。

 へたをすればさらわれる危険があるからと言われれば受けるしか無い。

 【勇者】になったとは言え俺はまだレベル0でまったく能力が上がっていないからだ。

 さすがに上級生に襲いかかられたら今の俺では抵抗は難しい。


 周りを見渡すと目をギラつかせた女の子ばっかりが目に入る。

 ちょっとさらわれてみたいと思ったのは内緒だ。





 その日は寮は危険だからと、セキュリティの充実した貴族舎に泊まる事になった。

 というより当分勧誘合戦は終わらないだろうからしばらくはここで寝泊まりすることになるのだろう。

 荷物は明日にでも学園の方が全部持ってきてくれるそうだ。今日は…、まあ学園側は忙しいだろうからしょうが無いか。


「パーティやギルドに入る予定は無いし、自分でギルドを立ち上げるまではこのままかもしれないなぁ」


 宿舎に備え付けられていた貴族様用のふかふかベッドに身を沈めながら呟く。


 ちなみにパーティとはそのままダンジョンに一緒に潜るパーティの事を指す。

 〈ダン活〉では5人のパーティを組んでダンジョンに挑む仕様だ。


 ギルドとなると少し話が変わって、多人数が所属するチームみたいな感じになる。

 最低5人、最高で50人からなり、ギルドもまたダンジョン攻略に力を入れている。



 このゲーム〈ダンジョン就活のススメ〉の世界はダンジョンで溢れている。

 文明はダンジョンの資源に支えられ、ダンジョンの資源で経済が回っている設定だ。


 故に16歳になり、ジョブを獲得出来る年齢になった少年少女は、まず学園でジョブを獲得し、ダンジョンに関わって自分の将来を見つめていく形になる。

 学園には80近くのダンジョンが設置されていて、学園が管理し、生徒の成長のために使われる。


 さらに言えば、この世界はレベル主義である。

 レベルが高い方が基本能力は高い。当たり前であるが、この世界では生活レベルでそれが響いてくる。


 例えば就職活動。レベル2の人とレベル10の人が応募に来ました。どちらを採用しますか?

 と聞かれたとき。当たり前にレベル10の人が採用される。

 だって能力が高いから。


 当然、レベルが高ければ就職活動は上手くいきやすくなるし、地位も高く、給料も高く、それだけ裕福な暮らしも出来やすくなる。

 努力は報われる世界と言えば聞こえは良いだろう。その代わり努力を怠れば簡単に負け組人生が待っている世界でもある。

 故に学生は、学園滞在中のダンジョン攻略に貪欲になる。

 全ては自身を磨き上げるためだ。



 そして【勇者】なんてジョブのメンバーがいれば攻略はめざましく前進するだろう。

 それだけレベルは上がりやすくなるのは目に見えている。という背景もあって、今俺はもんのすごい数の人たちから勧誘合戦に遭っているというわけだ。


 だが、俺に参加する予定は無い。

 俺は自分でギルドを立ち上げたいのだ。


 理由はいくつかあるが、一番はその方が楽しいからである。

 仲間が高レベルのギルドに入り、パワーレベリングをしていきなり高ランクダンジョンに挑むとか全然楽しくない。ワクワクを感じない。


 〈ダン活〉は育成型ゲームなのだ。

 ジョブのレベルを上げてダンジョンを攻略する。そして職業ジョブの数は1021種類。

 とても全ては育てられない中でどれを採用し、育成していくのかを考え実践していくのが楽しいのだ。


 それにレベル0から仲間を集めてダンジョン攻略するって、ゲームをやっている感じでワクワクする。


「ギルドを結成するにはちょっと足りない物が多いな。明日からその辺進めていくか。あ、でもゲームだとジョブ決めたら一ヶ月後にスキップだったけどリアルだと待たなくちゃいけないのか?」


 ゲームではジョブを獲得すれば、新入生がジョブを決める期限日までスキップする仕様だった。そこからチュートリアルが始まり、ギルドの立ち上げ、クエスト受注、ダンジョン攻略、メンバー募集などが解禁される。

 もしかすれば一ヶ月ダンジョンに潜れないかもしれないと思い至り眉をひそめる。


「その辺明日にでも聞いておかないとな」


 今後の予定を組む上で重要なことをピックアップしつつ、その日は過ぎていくのだった。




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