第14話 学園長、今日のジョブ計測を振り返る




 ジョブ計測という大行事を終えた日の夜。


 学園長室ではサンタ髭が目立ちすぎる学園長ヴァンダムド・ファグナー公爵と、今話題の【勇者】のジョブを取得した生徒を担当した若い女性職員フィリス・リアクトネー侯女が向かい合って座っていた。


「ご苦労じゃったのフィリス」


「いえ、これも経験です。それに無理を言って参加させていただいたのは私ですから」


 ヴァンダムドは二人の時彼女をフィリスと呼ぶ。

 それはこの二人が祖父と孫の関係だからだ。


 ヴァンダムドはここシーヤトナ王国で公爵の地位を預かり、〈国立ダンジョン探索支援学園・本校〉を統括する大貴族だ。

 フィリス・リアクトネー侯女はリアクトネー侯爵の長女に生まれ、彼女の母がヴァンダムドの娘に当る関係だった。

 フィリスは幼い頃から祖父に可愛がられていたし、学生の頃はここ迷宮学園本校に通っていたため仲は良好。


 フィリスが卒業するときヴァンダムドに迷宮学園本校に勤めないかという誘いを受けて、今年から教師として就任していた。


 フィリスの家の格からすると貴族塔や貴族学舎を担当する事になるのだが、しかしフィリスが選んだのは〈ダンジョン攻略専攻〉部門、しかも〈戦闘課〉だ。

 ジョブを学び、ジョブを使いこなすことを念願に持つ学園では花形の部門だが、新任から担当するにはなかなかハードな場所だ。


 しかしフィリスは数年も経てば嫁に行く身ということもあり、なるべく早く〈ダンジョン攻略専攻〉で働いてみたかった。無理を言ってヴァンダムドに席を用意してもらった形だ。


「しかし驚いたの。まさか【勇者】を取得する者が現れるとは」


 ヴァンダムドが唸る。

 【勇者】のジョブとはほぼ伝説の存在だ。

 記録によれば最後に現れたのは500年も前の事で、非公式ながらも【勇者】を含むパーティが上級上位のダンジョンを攻略した記録が残っている。

 その記録も真偽は不明なのだが、しかし別の記録によれば【勇者】が非常に強力なジョブであり、攻撃、魔法、防御、回復にも優れると書かれており、こちらは王家がその情報を保証していた。


 それはつまり、少なくとも【勇者】という職業の強さを王家が認めているということだ。



 ヴァンダムドの脳裏に浮かぶのは周囲の雑音に惑わされず、実に自信に満ちあふれた不思議な魅力を持った青年。


 ヴァンダムドの経験上、あそこまで突然注目されればどんな王侯貴族の子息とて多少は萎縮し緊張するものだ。

 しかし、かの青年ゼフィルスはまったくそんなそぶりは無く、むしろ当然のように受け止めていた。

 貴族ですらない者があれほどの胆力を持つとは、どんな生活を送ってきたのか気に掛かる。


 また、この道60年見てきたがあれほど大量のジョブを有していた人物は初めて見た、中にはこのヴァンダムド学園長でも見たことも聞いたことも無いジョブも多数含まれていたのだから驚きを隠せない。

 しかも、それほど多くの可能性を持っていながら躊躇せずに【勇者】のジョブを選ぶ豪胆さ。


 ヴァンダムドは、彼が何か世の歴史に残るような大事を起こす気がしてならなかった。


「はい。私なんて新任して初めてのジョブ計測での出来事でしたから。あまりのことに声も出ず。おじいさまに代わってもらい助かりましたわ」


「はは、運が良かったのか悪かったのか……。〈ダンジョン攻略専攻〉では時折このような思わぬ出来事が起こることがある。精進しなさい」


「わかりました。今回のことは良い経験になりました」


「うむ。それとの、ゼフィルス君だが〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉に所属するそうだ。偶然にもフィリスの後輩だ。クラス教員はこちらの手の者を付けたいと思っておるのだが、フィリスよ、やってみるか?」


 フィリスが目をパチクリする。

 彼女は学生の時、というよりついこの間まで〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉に所属していた。


「……よろしいのですか? もっと他に優秀な人物が担当した方がよろしいのでは?」


「もちろんフィリスだけじゃない。もう二人副担任を付ける。まずはその者にノウハウを学ぶがよい。どのみち【勇者】を担当した教師なんておらんからの、さほど変わらんよ。年が近いフィリスの方が、より親身になり生徒の視点で彼を導くことが出来るかもしれんと期待しておる」


「…なるほど。かしこまりました。その話お受けしたく思います」


「うむ。フィリスよ、頼んだぞ」


 こうしてゼフィルスの担任は、若き新任の19歳美人教諭に決まった。




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