第12話 震えろよ。このジョブ一覧に




「次の方どうぞ」


 【筋肉戦士】とかいうネタジョブがこの世界では人気職と聞いて憤慨し、今後正しい〈ダン活〉を広めてやろうと決意している間に俺たちの順番が来たようだ。


 そういえばジョブ計測のため列に並んでいたんだったと思い出す。


「じゃあハンナ、行ってこい。そんで【錬金術師】になってこい」


「うーん、うん。分かったよ。もしあったらなってくる。【錬金術師】に!」


「絶対あるから安心しろって」


 明るくハンナを送り出してやる。


 ハンナが竜の像の前に立ち教員の指示に従い恐る恐るといった感じに手を伸ばすと、竜の頭に手を置いた。

 そして、


「わぁ! 本当に【錬金術師】があるよ! 信じられない、かなり才能に左右されるって聞いたのに!」


 竜の像の上に表示された一覧を確認したハンナが振り返って満面の笑顔で伝えてくる。


「だから言っただろう。さっさと【錬金術師】を選べ、間違ってももっと良い職業が出るまで保留なんてするなよ」


 ジョブの選択は一生を左右する。

 故にこの世界ではジョブ選びには慎重になるんだ。


 ジョブの発現は生まれた身分に加えて普段の生活習慣、行動、思想、信念、知識など様々な条件によって解放される。


 期限は一ヶ月あるのでギリギリまでジョブ選択を保留にしてなんとか良いジョブを獲得したいというのが一般的な考え方だった。


 だがそれをされると俺たちの今後の行動に支障を来すので今すぐ決めてもらう。


 というか錬金系のジョブでそれ以上だと【闇錬金術師】くらいしか無い。そちらは邪悪な物特化なので今は要らない。


「う、うん。じゃあなるね」


 ハンナが【錬金術師】を選択したのだろう。

 選択肢一覧が消え、【錬金術師】という文字がズームして表示された。

 これでハンナは【錬金術師】だ。


覚職かくしょくおめでとう。心よりお祝いするわ。これから頑張ってね」


「あ、ありがとうございます!」


 担当してくれた女性教員の方に祝福され元気よく頭を下げるハンナ。


 ちなみに覚職かくしょくとは職業を初めて取得したという意味で、おめでたい時などに使われる言葉だ。

 俺はお赤飯的な感じと認識している。

 今日からハンナは大人の仲間入りだな。


 上気した顔をして列から出るハンナを見送ると、次はいよいよ俺の番だ。


「良いジョブに巡り会えると良いわね」


「はは、任せとけ。最高のジョブを引き当ててくるからな」


 後ろに並んでいるシエラに自信満々に宣言し、竜の前へ移動する。


 その傍ら、また別の列で【筋肉戦士】を引き当てた奴がいたらしい、歓声が聞こえてきた。


 そんなもんネタジョブで大騒ぎすんな。


 俺が今から教えてやる。


 本当に優秀で、本当に最強なジョブが何かって言うのをよぉ!


 刮目せよ、これが〈ダン活〉の職業群、俺のジョブ一覧だ!


 ―――――――――――――

低位=星無し 中位=☆ 高位=★

【戦士】   ☆【ウォリアー】

【重戦士】  ☆【重装戦士】

【剣士】   ☆【ソードマン】 ★【大剣豪】

       ☆【双剣士】

【大剣士】

【細剣士】  ☆【フェンサー】

       ☆【魔法剣士】

       ☆【ブシドー】

【木こり】

【斧士】   ☆【トマホーク】

【拳闘士】  ☆【モンク】

       ☆【剛力闘士】

【弓士】   ☆【レンジャー】

【狩人】   ☆【ハンター】

【盾士】   ☆【双盾士】

【大盾士】  ☆【シールダー】

       ☆【属性盾士】

       ☆【魔法盾士】

       ☆【城塞盾士】

【回復術士】 ☆【白魔導師】  ★【ホーリー】

【魔法使い】 ☆【黒魔導師】  ★【ウィザード】

                ★【大魔道士】

【複合術士】 ☆【灰魔導師】  

       ☆【呪魔道師】

【神官】   ☆【祈祷師】   ★【司祭】

【薬師】   ☆【メディック】

【宿主】   ☆【ハウスキーパー】

【整体師】  ☆【エステ】

【占い師】  ☆【シャーマン】

【斥候】   ☆【シーフ】   ★【密偵】

【料理人】  ☆【パティシエ】 ★【シェフ】

【獣魔使い】 ☆【トレーナー】

       ☆【錬金術師】

       ☆【鍛冶師】

       ☆【合成師】

       ☆【細工師】

       ☆【クラフトマン】

       ☆【木工師】

【針子】   ☆【裁縫師】

       ☆【収集家】   ★【コレクター】

【運び屋】  ☆【ポーター】

       ☆【冒険者】

       ☆【商人】

       ☆【指揮官】

       ☆【チーフ】

【吟遊詩人】 ☆【演奏家】

【マスク人】 ☆【怪盗】    ★【仮面秘人】

       ☆【探偵】

【中二病】

                ★【勇者】

                ★【英雄】

                ★【ヒーロー】

 ―――――――――――――




「えっ!」


 俺を担当してくれていた女性教員が表示された一覧表を見て思わずと言った風に声を上げた。

 その反応にニヤリとする。


 長い長い学園までの道中、暇を持て余してジョブの発現条件を満たしまくったからな。


 未だかつてこれほどのジョブ群を見たことが無かっただろう。

 女性職員の動揺は激しかった。

 見ていて気持ちの良い反応だ。


「何事かねミス・リアクトネー?」


 その様子をいち早く見つけ近寄って来たのは、思わず目が行ってしまうサンタ髭を持つご老公。この学園本校の最高責任者の一人、学園長だった。


「が、学園長。そのこれを――ぁ―」


 動揺のあまり表示された職業ジョブ一覧を指さしてしまった女性職員はしまったという顔をした。

 生徒の中にはジョブを公開したくない人だって居る。

 これが王侯貴族ならめんどくさいことになっていただろう。


 完全な彼女の不注意だった。


 しかし、問題ない。

 俺は村人だし、むしろ職業一覧を見てほしいと願う者だから。


 指さされた物がジョブ一覧だと見た学園長は、その持ち主である俺に視線で求めてきたので手でどうぞ、と了承する。

 すると、


「何! これは……」


 学園長も大きく目を見開き驚愕した。

 それを見て周りに居た教職員や学生がなんだなんだとこちらに注目し始める。


「おい、なんだよあの数!」


「嘘でしょ。高位職まであるわよ」


「おいおいおい、聞いたこと無い物まであるぜ」


「何者だよあいつ」


「ちょっと【大剣豪】があるわ! 平民でも高官職が約束されるって言う」


「それだけじゃない【大魔道士】に【司祭】も」


「なんなんだいったい!?」


 この体育館全体をどよめきが支配する。


 そうだ。もっと見ろ。


 ふるえろよ、このジョブ一覧に。


 そして知れ、〈ダン活〉っていうのはな。ジョブの宝庫なんだよ!

 一周や二周プレイしただけじゃ、見ることも知ることすら出来ないジョブっていうのが山ほど有るんだ。

 こんだけジョブが載っていてもまだまだ全体の一部に過ぎない。

 だからさ、目指せよ、【筋肉戦士】なんかに惑わされずに。


 〈ダン活〉には【筋肉戦士】なんかより強力なジョブなんかたくさんあるんだぜ?




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