第7話 このロリッ子、16歳だったのか!?
リアル〈ダン活〉を始めた翌日。
今日は学園出発の日だ。
俺はすがすがしい朝日を浴びながら、ゲーム時代からおなじみの主人公の自宅を見上げていた。
〈ダン活〉の主人公に親は居ない。
この家も身元引受人だった村長の物らしいが、今日から俺は独り立ちするので全ての家財は村長へ返却されるそうだ。
自覚は無いけど随分と村長にはお世話になっていたらしい。後で改めて礼を言わないとな。
荷造りはすでに終わっていた。
ゲーム時代詳細は書かれていなかった生活用品が入った荷物は昨日帰宅したときには玄関に綺麗に纏められておいてあった。
ちなみに今日の朝になって大急ぎで中身を確認した。さすがに何が入っているのかは把握しておきたかったしな。
準備も終わったので、とりあえずハンナの所にでも行って別れの挨拶でもしようかなと思っていたところ、前から今考えていた人物が歩いてくるところだった。
こいつは奇遇だ。
しかし、なぜハンナはそんな大荷物を持っているんだ?
「お、おはようゼフィルス君」
「おう。おはようハンナ。元気そうで何より。しかしすごい荷物だな…どっか行くのか?」
「え、えと。私も今日から学園に行くんだけど? だから一緒に行こうと思って」
「え゙っ」
学園。
そこは16歳(数え年)になった少年少女たちが、ジョブを獲得し、ジョブを学び、ジョブを使いこなすために入学する場所。
つまり――。
「え? ということはハンナって16歳なのか! こんな小さいのに?」
「小さくて悪いかーっ! なんで知らないの! 私たち幼馴染だよね!?」
いや知らんがな。
というか小さいの気にしてたのか、ごめんな。
でも俺は小さいのも嫌いじゃないぞ? うん。
ゲームの〈ダン活〉だと確かに何人か同い年の村の子どもたちと一緒に出発するシーンがあったけれど、さすがにそこまで見てなかった。
学園でもハンナらしき人物は登場しないから、てっきりあのクエストの固有キャラかと思っていたんだよ。
まさか幼馴染で同い年とか、そんな設定あるんだったらゲームでももっと取り上げればよかったのに勿体ない。
いや、ひょっとしたらこれはリアル特有の現象なのかもしれない? リアルだからこそ幼馴染設定が加わったと見るべきなのか?
そんな考察をしていると少し不安げな顔をしたハンナが話し出す。
「どうしたの黙っちゃって。もしかして言い過ぎた?」
「……いや。悪かったよ。あと俺は小さいのも嫌いじゃないぞ」
「なな! べ、別に聞いてない、から。……もう、もう。行くよゼフィルス君、村長さんの所に行かないとでしょ」
「あいよ。一緒に行くか」
フォローしたらハンナが照れた。
これはこれで可愛いな。
急かすハンナの横に並び村長宅へ歩き出す。
村長宅前には学園に向かう馬車がもう停まっていた。
村長へ今まで世話になった事の礼をして深々と頭を下げる。
村長からは「楽しめ」とだけ言われた。
ああ、
ハンナと馬車に乗り込んで出発。
村の同乗者は俺とハンナだけだった。
ハンナは何故かずっと隣に座っていた。
どうやら俺と話をするのが面白いらしい。
時々景色を眺めたりしながらのんびりする。
うん、悪くない。
そういえばどのくらいで着くのか聞くのを忘れていた。
ゲームでは30秒もしなかったシーンだ。
しかしここはリアル〈ダン活〉、ゲームと違うこともある。
「なあ、学園にはどのくらいで着くんだ?」
「え? うーん、えーと、確か10日くらいって聞いた気がするよ」
え。10日も掛かるの? 冗談だろ? え、マジで?
ヤバい。マジで舐めてた。移動するだけで10日だと?
なげぇ!
スマホを、ゲーム機をください!
マジでお願いします!
村を出て10日が経った。
現代人にスマホの無い10日の拘束はキツかった。
予想以上にキツかった。
話しかけて気を紛らわせてくれたハンナには感謝しか無い。
「もう大丈夫ですよゼフィルス君、学園が見えてきました。もう少しの辛抱ですよ」
ハンナが思わず丁寧な話し方になってしまうほどには今の俺はヤバいらしい。
「ああ、やっとこの地獄が終わるのか」
すでにテンションが下がりきって危険水準に達していた俺にはその声は福音だった。
端から見たらロリッ子に看護されているバカ者にしか見えなかっただろうが仕方ない。
暇は現代人を殺すとはよく言ったものだ。
マジで暇に殺されるかと思ったよ。
誰かスキップボタンください!
「ハハ、ハハハハハ! 私は帰ってきた――――っ!!!!!」
学園に到着して馬車を降りた瞬間、俺は気勢を上げて笑い叫んでいた。
〈国立ダンジョン探索支援学園・本校〉通称:迷宮学園。
校舎を見た瞬間、一瞬で回復した。
ゲームの画面でしか見たことが無かった〈ダン活〉のメイン舞台に俺は今、たどり着いたのだ!
「ゼフィルス君、恥ずかしいから叫ばないで。元気になったんなら行くよ。まずは寮で荷ほどきしなくちゃいけないんだから」
しかし、この最高の感動を分かち合えないハンナによって、俺は引きずられるようにして連れていかれてしまう。
ぐっ、くやしい。
この感動をもっと味わいたかったのに。
しかし、ハンナには馬車では世話になったのでおとなしく寮に向かうしかなかった。
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