第6話 スラリポマラソン!




「キャーーーッ!」


 ハンナの悲鳴再び。

 それもそのはず、『錬金』に大失敗デザートファンブルした錬金釜から、ヌルッとスライムが這い出てきたのだから、しかも4匹。


 これこそが俺の狙いであり、やりたかったこと。

 その名も、〈人工スライム無限リポップ〉。通称:スラリポだ。


 ハンナの悲鳴をスルーしてスライムをすぐに剣で薙いだ。

 4匹のスライムはほとんど移動していなかったのでその一薙ぎだけで全てが倒され、消滅した。残されたのは〈スライムゼリー〉が2つと〈魔石(極小)〉2つのドロップアイテムだけだ。


「あ、れ?」


「終わったぞ」


 またもやあっと言う間、いやキャっと言う間に片付いてしまい呆気にとられるハンナ。


 しかし、そんな呆けている暇は無いぞハンナ。


 これ、最初の資金調達に便利なんだよね。ということで今ドロップしたスライムゼリー2つと泥水2つ分を持ってハンナに近づく。

 ハンナはそれを見て「ほえ?」と呟いただけだ。


「さ、マラソンの時間だ」


 なんか分かっていなさそうな彼女に俺は地獄の宣言をした。








「ううっ。なんだかスライムさんが可哀想になってきましたよ」


「何、相手はモンスター。資源の塊だ。きっと俺たちに使ってもらえることを喜んでいるに違いない」


「そうかなぁ」


 夜も更け、ハンナのご両親が帰ってきたところでスラリポマラソンはお開きになった。

 最終的に〈スライムゼリー〉721個、〈魔石(極小)〉1439個がドロップした。

 売ればそれなりの金になる。ダンジョン学園出発の準備金としてはまずまずだ。


 スライムはじゃんじゃんリポップするうえ、数が何故か4倍に増えるし動きはノロノロなので纏めて増やして纏めて一掃が出来る、お手軽に稼ぐことが出来るためゲーム時代も初期はよくやっていた。


 惜しむらくは職業を得ていないのでレベルが上がらない事とスライムがザコ中のザコであり、これだけのドロップアイテムがあってもたいした金額にはならない点だな。

 もっと纏まった金になるならずっと狩っていたいんだけど、まあ所詮はスライムだ。


 最後は俺もハンナも作業に飽きてモグラ叩きゲーみたいにして遊んでいた。

 いやワニワニパニックの方かな? このラインよりこっちにきたら叩きます。


「そうだ、このスライムゼリーってここで買い取ってもらえるのか?」


「え? い、いやあ。そんなにたくさんは要らないかなぁ。簡単に増やせる方法知っちゃったし……」


「ほう?」


「あ、べ、別に自分で生産しようって考えているわけじゃないよ!? うん。ほんとほんと」


「まあ、別に良いけどなこんなの。ダンジョン行けばスライムゼリーよりよっぽど稼げるし」


「ええ! いいの?」


 どうぞどうぞ。

 むしろ俺としてはこんなの生産出来たくらいでそんなに喜ぶのかと不思議に思うんだが…。

 まあ買い取ってもらえないなら仕方ない。これは学園で売りさばこう。


 その時、俺の腹が「グー」と空腹を訴えた。


 「……」


 空腹。

 食べ物があるんだから当然空腹にもなるだろう。

 ゲームでは満腹値なんてステータスは無かったのに料理アイテムはあったのですっかり忘れていた。


 そういえば食事はどうすれば良いんだ?


「ゼフィルス君お腹減っているの? 良かったら夕ご飯食べていく?」


「!!」


 夕飯のお誘い。

 料理アイテムではない、普通の食事がこのリアルにはあるのか!


 何を当たり前なことをと思うかもしれないが、全てがゲーム基準な俺はこの時本当に驚いていたのだ。緑茶が出てきたとき以上の衝撃だった。

 故に速攻で「食べる!」と宣言し、今日はハンナの家の夕ご飯に招待されたのだった。







 夕ご飯を食べ終わりしばし呆然。


「旨かった…」


「ふふ、良かった。頑張って作った甲斐があったよ」


 ハンナが俺の呟きを拾ってはにかんだ。

 どうやら夕食はハンナの手作りだったようだ。

 まだ中学生くらいに見えるのに料理ができるとは驚いた。

 ちょっと上気した頬が可愛らしい。


 食器を洗いに調理場へ向かうハンナを見届けながらこの感動も噛みしめる。

 ちなみにハンナの両親は夕食前に帰宅した後、お父さんは品物整理のため夕食が終わったら店に行き、お母さんの方はハンナと一緒に食器洗いをしている。


 ゲームでは夜は自宅に戻らなければいけなかったのでこういう日常的な風景は描写されていなかった、すごく新鮮だ。


「しかし、そうか。今後は生活費が掛かるのか…」


 ゲームの〈ダン活〉は当然ながら生活費なんて物は無かった。宿代くらいはあったが、基本食事代すら掛からない。

 先ほどハンナがスライムゼリーごときで喜んだのも生活費が掛かると考えれば納得だ。

 いくら安くても数があればそれなりの金額にはなる。つまりは食っていく分には困らないのだ、スラリポごときでも。


「あれ? 俺明日から学園に向かうのに交通費とか食事代とかどうすんだ?」


 ゲームと違うとなればそこら辺も金が掛かる可能性がある。

 へたをすれば入学金の支払いすらあり得るかも。

 今更その可能性に思い当たりスッと嫌な汗が流れる。


「ハンナに相談してみるか。何か良い案がもらえるかもしれない。あとは村長にも聞きに行くか」




 幸いにして、交通費と入学費は国の負担で出してもらえるということを村長に聞くことができ、ホッと安心して帰宅したのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る