第5話 俺は大失敗がしたい!
「よっし着いた! 早く早くっ、俺作ってほしいものがあったんだよね。あ、俺ゼフィルスって言うんだ。よろしくね」
「ええっ、あ、うん。ゼフィルス君。知ってるけど? 同じ村だし。というか幼馴染だよね? なんで今更自己紹介??」
無駄にテンションを維持しながら例の錬金術店にたどり着いた俺は、そういえば後でここに来ようとしていたことと後自己紹介もまだだった事も思い出したのでテンションの赴くままに自己紹介したのだが、少女はすでに俺を知っているみたいだ。
むっちゃハテナを浮かべた顔をしてる。
彼女は、俺が彼女の名前を知らないことを知らないのだ。
そりゃあ訳わかんないだろう。
問題ない。こういう時は勢いでごまかす。
「おいおい、自己紹介されたら自己紹介を返さないと、村を出たら通用しないぜ?」
適当なことを言って押し通すと彼女はそれっぽい理由を見つけたのか何かに納得したように話し出す。
「あぁ、学園の練習とか? そういえば挨拶回りをしているとかってさっき……。えっと、ハンナです、よろしくお願いします?」
「おーけーおーけー、そんな感じそんな感じ」
少女はハンナちゃんっていうらしい。
ゲームではこの子に名前は無かったからな。
〈ダン活〉そのままのようで俺の知らない〈ダン活〉がそこら辺にたくさん転がっている。
ハンナの名前一つとっても新鮮だ!
うまく押し切れたようなので一緒にハンナの家兼錬金術店に入る。
店の奥に案内されて入ると、懐かしい部屋が目に入った。
ここはちゃんと〈ダン活〉のままだ。
最初の〈名も無き始まりの村〉の錬金術店なんて、「はじめから」をやり直したときしか入らないからとても久しぶりに感じる。
「えっと、お茶はいかがかな?」
「お、じゃあいただきます!」
なんか挙動が不自然なハンナがお茶を勧めてきたので速攻でいただくことにした。
そういえば敬語だったのがいつの間にか抜けている。さっきの強行軍のせいか?
俺の返事を聞いて家の奥に消えたハンナがしばらくすると戻ってきた。
どうも緑茶っぽい緑色のお茶のようだ。
これもゲーム時代には見たことは無い。
ズズッといただけば完全に緑茶の味がした。
この世界に来て初めての飲食。
ちゃんと味がする! 香りもする!
「あの、どうかな?」
「…感動した!」
「そんなに!?」
ハンナが大げさに驚いているが俺にとっては冗談ではない。
マジ感動。
そして今後に馳せてきた思いが再燃焼するのを感じる。
この世界には料理アイテムがあるのだ。
画面上で食テロされて「やべ食いてぇ」と思ったことも一度や二度ではない。
リアルになったからには料理アイテムは全部制覇しよう。
心に決めた。
さて、堪能したところで本題だ。
「ハンナ、そういえばご両親は? 店閉まっていたみたいだけど?」
「あの、あのね。今両親いないみたいなんだよね」
うん、知っている。両親は別場所でサブクエスト発生させてるから。クリアしないと錬金術店は開かれない仕様だったんだよね。ここでも同じのようで安心した。
「それはちょうどいいなぁ」
「ちょ、ちょうどいい!?」
俺の発言にハンナが一瞬でボッと顔を赤くした。
そんな挙動不審なハンナをスルーして俺はある物を取り出した。
「こいつを使って『錬金』をしてほしい」
「ふへっ?」
何か思い違いでもあったのかハンナは俺の顔を見て、俺の手を見て、また顔を見て、さっきより5割増しで顔を赤らめた。
「どうした?」
「べ、別にどうもしにゃい、していない! れ、『錬金』の依頼よね…。早く言ってよもーっ」
カミカミしながら何かをごまかすように捲し立て、俺の手にあったスライムゼリーを奪い取る。
このスライムゼリーはさっきのスライムを倒したときのドロップアイテムだ。
このリアルで初のドロップ。これまた少し感動した。
初めてのドロップアイテムは、なんかヌメヌメしてた。
「そ、それで? これで何を作るの? 私が作れるスライムゼリーを使ったアイテムなんてスライムこんにゃくくらいよ?」
「いや、スライムこんにゃくはいらない。とりあえずこれを混ぜてみてほしい」
「……………何、これ?」
「泥水」
「見れば分かるよ!? こんなの混ぜたら大失敗しちゃうよ!?」
「いいんだよ、俺は大失敗がしたい」
「意味わかんないよ~」
さっきそこで回収してきた泥水を見せるとハンナがまた混乱した。
混乱耐性の装備はありませんか?
それはともかくだ、いつまで経っても動きそうに無いハンナに命を助けてやったのはどこの誰だと言って背中を押し、ようやく渋々〈錬金セット〉を取り出してきたハンナが『錬金』の準備を進める。
「ぜったい大失敗よ、こんな組み合わせ」
「ああ。絶対に大失敗だな!」
「うー、わけわかんないよー」
「何、見てれば分かる」
『錬金』は素材と素材を錬金することでアイテムを作り出すスキルだ。
しかし、物作りにはレシピが有り、それと違う素材が使われたときなどに
そして
それこそが俺の狙いである。
ハンナは「うーうー」唸りながらも錬金の準備を進め、小さい土鍋のような物にスライムゼリーと泥水を入れた。
そして『錬金』のスキルが埋め込まれた〈『錬金LV1』の腕輪〉を装備し準備が完了する。
「あの、本当にやっちゃうの? 今ならまだ――」
「よっし、やれ!」
「わーん! どうなっても知らないから。『錬金』―!」
ハンナの『錬金』が発動した瞬間、土鍋型の錬金釜が緑色に光り出し、瞬間黒く濁ってボフッと煙を噴出した。
よし、見る限り完全に大失敗だ。
そして数秒後、錬金窯の中からヌルッとした物が這い出てきた。
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