第16話 好きだったんだよ。

スポーツ大会も終わり季節は夏へ。

期末試験という頭の痛くなるイベントもあるけど、各部は夏の大会へ向けてのラストスパートの時期でもあり、私も涼真君もそれぞれの部活で練習に励んでいた。

会える時間は少し減ってしまうけど仕方がない。

でも、その後は夏休みもあるしね♪

少し遠出するのもいいかな。海とかプールとかお祭りとかもいいよねぇ~。


ということで色々とお楽しみな妄想をしつつ、今日も部活の後は佐和達と居残りで自主練してたんだけど・・・


「降ってきちゃったなぁ。。。」


バスの時間があるので佐和達より少し早めに上がったんだけど外は土砂降りの雨。

天気予報では今日は曇りって言ってたのに・・・傘持ってないよ。

でも、この雨の中を傘なしで帰るのも嫌だし、家に電話して迎えに来てもらおうかと思い始めたところで背後から声を掛けられた。


「梅雨の時期に傘持ってこないとか、相変わらず抜けてるな」

「ゆ 雄二!」


そう言いながら雄二は私に折り畳み傘を差し出してくれた。


「え?貸してくれるの?でも雄二は?」

「置き傘があるから大丈夫だよ」

「ほんと!助かる~」


傘を借りた私は久しぶりに雄二と帰宅の途についた。以前は良く一緒に登下校してたけど、なんだか久々な感じだ。

ちなみに雄二も自主練で遅くなったらしいんだけど、先輩達含め家が近い人達はまだ残って練習しているらしい。バスケ部も頑張ってるんだね。


そして、バスに乗る駅までの道。

雄二とは、部活の話やお互いのクラスの話とか他愛もない会話で盛り上がった。

以前はこれが日常だったんだよね。

つい数ヶ月前の日常なのに随分前の事の様にも思える。

そんなことを思ったりしながら歩いていると、ふいに雄二が立ち止まった。


「どうしたの?」

「あのさ、萌に話したい事があるんだ」

「私に?」


珍しく真面目な顔をしている。

何の話だろう。


「萌。今更なのかもしれないけど・・・僕は萌の事が好きだったみたいだ」

「・・・・」

「下北さんとのデートも確かに楽しかったけど、何か違和感があったんだ。

 それに萌が山里と付き合う様になったって聞いたとき・・・何だか寂しかったというか・・・ただ、自分の気持ちもよくわからなくて何て言っていいのか・・・」


そっか・・・そういう話か。

でも・・・遅いよ雄二。

その言葉はもっと前に聞きたかったな。


「ありがとう・・・でも前に言ったよね。私、雄二の事が"好きだった"って」

「あぁ・・・過去形だったよな」

「うん。雄二に異性として見たことなかったって言われたときね、凄くショックで悲しかったけど、そういう答えも予想できたというか・・・何だか冷静な自分もいたんだよね。だからあの時"だった"って言ったの」

「・・・・・」

「それでね。色々思うところもあったし、少し一人になりたいなとか思ってたんだけど、涼真君に告白されて、最初は軽い気持ちで付き合い始めたんだけど・・・段々涼真君が好きになって・・・私も思ったの。

 涼真君に対する気持ちと雄二に対する気持ちって何か違うなって。

 涼真君と一緒に居るとなんだか幸せな気持ちになるし、涼真君を見てるとドキドキして・・・だから、私の雄二に対する思いも雄二と同じだったんじゃないかって思ったの。雄二への気持ちも幼馴染としての"好き"だったんじゃないかなって」

「そっか・・・」


そんな悲しそうな顔しないでよ。

でも・・・これだけは言わなきゃ駄目なんだ。

頑張れ私!


「雄二の事が嫌いになったわけじゃないけど・・・雄二の今思ってる"好き"も多分違うんだと思う。多分今までと関係が変わって戸惑ってるだけだよ。

 だから・・・雄二の気持ちは嬉しいけど・・・私はこれからも涼真君と付き合うつもりだよ。涼真君が好きだから。

 だから・・・雄二とは・・・幼馴染以上にはなれない」

「・・・そう・・・だよな」


うん。これでいいんだ。

お互いに・・・だからそんな暗い顔しないでよ・・・私まで辛くなるよ。


「ほら、そんなに暗くならないの!」

「・・・萌」

「まぁそんなに寂しいなら前みたいに登校位は一緒にしてあげるからさ♪

 あ、でも下校は涼真君とだから♪」

「う うるせぇ!人の心配するよりボロ出して山里に捨てられない様にしろよ!あいつって結構モテるんだぜ!」


そうそう。それくらいの方が雄二っぽいよ。


「あぁ言ったなぁ~ でもご心配なく♪

 涼真君は、そういう私の事も含めて好きって言ってくれたし~」

「ふん。惚気やがって」

「悔しかったら雄二も彼女でも作りなよ♪噂によると雄二も結構モテるらしいよ?」

「そ そうなのか?」

「そうなの。ま とりあえずこれからもよろしくね。雄二」


そう言いながら私が手を差し出すと雄二は照れながらもその手を握り返してくれた。こうやって手を繋いだのって何年振りだろ?

そう考えると・・・やっぱり恋人とは違ったんだね私達。


「その・・・山里と仲良くな」

「ありがと雄二。そう言ってもらえると嬉しいよ。

 あ、それからお互い県予選頑張ろうね!応援行けたら行くから」

「おぅ!萌も頑張れよな!」


雄二とはこの先もご近所さんの幼馴染という関係は続く。

もしこの先、雄二に彼女が出来たら私も"おめでとう"って言ってあげたいな。

ん?というか佐和とはどうなったの?

佐和も何も言ってこないけど。

あ、ビシっと言ってやるんだった私!


「ちょっと雄二!聞きたいことがあるんだけど!」

「ん?なんだ?」




******************************

あとがき


ここまでお読みいただきありがとうございました。

エピローグをもう1話書いて一旦本編は完結とさせて頂きます。

元に戻らず"もう遅い"的な展開のお話でしたが、別に喧嘩別れではなく友達関係は続く的な終わりとしました。

実際幼馴染同士が必ずしも付き合う必要があるわけでもないですし、たまにはこういうのもいいかなと思い。


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