第10話 告白するよ

<日吉 雄二Side>


朝。

走り去っていく萌を僕は追いかけることが出来なかった。


それに追いついたとして僕は何て声を掛けたらよかったんだ?

明るくはしていたけど多分萌は泣いてたと思う。

あいつ泣き虫のくせに変なところで意地張るから・・・だけど今回は僕が泣かせたようなもんだよな。


確かに萌は僕にとって大切な人ではあるけど・・・異性として萌の事が好きかというと・・・正直わからない。

この間下北さんとデートして思ったけど、萌とは一緒に居て楽しいし変に気を使わなくていいから楽なんだけど下北さんとのデートとは感じ方が違った。

その感情が恋愛感情なのか・・・いつも一緒に居たから家族的な親愛なのか・・・正直そういうの意識したことなかったんだよな。


放課後、部活終わりの時間に恩田を迎えに来た富田さんから聞いたけど萌は珍しく部活も休んだらしい。

心配だけど会いずらいよな。



翌日。

僕は1人で学校へと向かった。

萌は先に学校に行ったらしい。

あの朝以降、萌とは話をしていない。

廊下等で何度か見かけたけど声を掛けにくいというか・・・何となく萌も僕を避けている様にも思えた。

ちょっと寂しい気もするけど今は仕方ないのかな。


下北さんとはデートはしたものの大きな進展はない。

今まで通り楽しく話は出来ていると思うけど萌の事もあって告白までは出来ていない状態だ。

それに下北さんも萌と仲が良いからか何となく萌に遠慮している様にも見える。

萌の僕への気持ちを下北さんは知ってるんだろうか?

下北さんへの気持ちに変わりはないけど何だか少しモヤモヤする感じだ。



そして放課後。

部室へ向かうため渡り廊下を歩いていると後ろから珍しい男に声を掛けられた。


「日吉!」

「山里?珍しいな。今日テニス部の練習日だっけ?」


中学からの同級生の山里だ。

高校に入ってからは同じクラスになったことは無いけど望月と仲が良いこともあって何度か一緒に遊びに行ったりしている仲だ。

それに山里と望月が所属しているテニス部とバスケ部って先輩達の代から仲良かったからな。

夏休み中は合同でバーベキューイベントもする予定とか恩田が言ってたな。

でも、確か今日はテニス部は部活無かった気がしたけど。


「いや。ちょっと日吉に用事があってな」

「僕に?」

「あぁ」


そう言いながら山里は辺りをキョロキョロ見回している。

山里が僕に用事なんて珍しいけど、あまり人に聞かれたくない話なのかな?


「人が居ないところの方がいい話か?」

「あ あぁそうだな。出来れば」

「じゃ、そうだな部室棟の裏庭にでも行くか?この時間なら誰も居ないだろ?」

「裏庭か。そうだな。助かる」


そう言いながら僕は山里と部室棟の裏庭へと向かった。

部室棟は体育館横に建てられたその名の通り各部の部室が入った建物だ。

各部共通で使えるミーティング用の会議スペースやトレーニング用のジムスペースなども完備している中々充実した施設だ。

で、その建物の裏がちょっとした休憩スペースも兼ねた庭園になっている。

校舎から少し離れているので人もあまり来ないし、今日部活があるのはバスケ部だけのはずだし多分人も居ないなずだ。


予想通り誰も居ない裏庭に着くと僕達は休憩用に設置されているテーブル席に座っり山里に話しかけた。


「で、何の用だ?」

「・・・日吉。その、お前って石橋さんと別れたって本当か?」

「え?」


僕と萌が別れた?なんだその話?

っていうか、そもそも別れるとか以前の問題だよな。

僕が驚いた表情をしているのを見て不安に思ったのか山里がさらに聞いてきた。


「違うのか?」

「い いや付き合うも何も萌とはそもそも付き合ってないから驚いて」

「そうなのか?」

「あぁ幼馴染って事で家族ぐるみの付き合いはあるけど、それ以上はないよ」


僕が付き合ってないことを告げると目に見えて山里は明るい表情をした。

それが何だって言うんだ?


「そうか!そうなんだな悪い。僕が変に勘違いしていたみたいだ」

「確かに一緒に居ること多かったし付き合ってるように見られても仕方ないのかもな。でもそれがどうかしたのか?」


そう言うと山里は真剣な表情になって僕に告げた。


「・・・僕さ。石橋さんの事が好きなんだ。中学の頃から好きだったんだけど日吉と付き合ってると思って諦めてた。

 でも・・・付き合ってないなら・・・告白しようと思う」

「!!?」


山里が萌の事を好き?告白する?

今までそんな素振り全然気が付かなかったけど・・・

萌に恋人が・・・


「付き合ってないなら構わないよな?僕は日吉の事も友達だと思ってるし裏切るようなことはしたくない」

「・・・あ あぁ。急な話でちょっと驚いたけど付き合ってるわけじゃないし。

むしろ相手が山里なら僕も安心だし・・・応援するさ」


僕に山里の告白を止める権利なんて無いし、それに山里はお世辞抜きにいい奴だ。


「本当か!ありがとう。話はそれだけだ。悪かったな部活前に時間取っちまって」

「あ あぁ・・・・」


そう言うと山里は自転車置き場の方へと走っていった。

僕に話があるから残っていただけの様だ。


山里が告白したからって萌とすぐに付き合うようになるかはわからない。

でも・・・





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