第5話

 一週間が過ぎた。オオカミは夜行性である。夜にならないと深い山からは降りて来ない。四人は前の場所よりも、もっと登ることにした。それも夕方から山の奥深くと登り始めたのだ。今夜の空には雲一つなく濃紺の空をバックに星が全天に瞬いていた。新月の夜の月は太陽の光を反射しないので輝いていない。凍りつくような空気が四人の全身を包み込んだ。

山の頂きまで後百メートルという所まで来た時だった。黒い影が十数メートル先にいくつも動いているのが分かった。オオカミの群れに違いない。

「ジョージ!」

と、母親アンナが叫んだ。

「ウオーオーオー」

ジョージの叫び声だった。

と、同時に、

「グルルルー。グルルルー」

と、低く震えるような音も聞こえた。オオカミのボスが警戒して唸っているのだ。

「ジョージ、こっちに来るんだ」

と、ロイが叫んだ。

「ウオーオーオー」

切なく声がした。また、それを押さえるかのように、さっきより低くて太い唸り声が聞こえた。

「グルルルー。グルルルー」

ジョンが叫んだ。

「ジョージ、勇気を出してこっちに来るんだ。迷わずおれの腕をかむんだ」

と、その瞬間、暗やみから、わずかの差で二つの影が飛び出した。一つの影はジョン目がけて、もう一つの影はその影を追って飛びかかって来たのだ。

「ロイ、打て」

ドンと鈍い音がした。追って来た影は横にそれた。オオカミのボスは体を翻し仲間の所に勢いよく戻った。ジョンに向かって来た影はジョンの腕にかみついていた。ジョンの腕には激痛が走り生温かく感じられるものがたれていた。血が出ていたのだ。

 ロイが用意してきた松明に火を点けて、ジョンのそばに横たわっているものを見ると今まさに、人間に戻ろうとしているジョージの姿があった。アンナとオリバーも近寄って来て、その姿をじっと見守った。そして、優しく声をかけた。

「ジョージ」

「ジョージ。ジョージなのね」

「ううっ・・・」

と、声にならない声がした。しばらくすると全身毛だらけのジョージの体から茶色の毛が引っ込み始めた。顔も耳も、もとの通りの人間の姿に戻ってきた。むき出した牙も普通の歯に変わってきた。しばらくして両足で立てるようになり、二週間前のジョージの姿にすっかり戻ってしまった。

 アンナはもって来たジョージの服を着せると、何も言わずに抱き締めた。ジョンが言った。

「ジョージ、よく耐えたな。辛かったろう。お前の勇気がおまえを救うことができたんだ。これからはこの辛さを忘れずに生きていくんだ」

ロイもやっと、いつもの調子に戻って陽気に言った。

「言い伝えはうそじゃなかったな。ジョージ、お前はそれを身をもって証明したんだ。人間に戻れなきゃできないことだったよ。これはわれわれ家族の秘密だ。だれも満月の夜にポテトチップスを食べるとオオカミになることなど、信じる者はいないだろうからな。それにしても3カ月前にこのけもの道でジョージが見つけたポテトチップスには、どんな意味があったんだろうな」

「そんなことは、もうどうでもいいじゃないか。ロイ。こうして無事にジョージが助かったんだからな」

「ジョージ、お母さんも悪かったわ。あなたのことを本気で心配していなかったのよ。もっと厳しくしていれば良かったのよ」 

「ジョージ、お帰り。寂しかったよ。人間に戻れて良かったね。僕もポテトチップスはもう食べないよ」

「ありがとう、みんな。悪いのは僕の方さ。十分反省しているよ。もうポテトチップスはこりごりだよ。満月の夜じゃなくてもね」

 松明の明かりに照らされた五人の表情には笑顔が戻ってきていた。

「さあ、今夜はポテトの温かくておいしい特性スープにしましょ。これだったら体があったまってオオカミなんかにならなくてすむわよ」 

 しばらく、明るい笑い声がけもの道に響き渡り、ずっと遠のいていったのだった。

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満月の夜にポテトチップスを食べるとオオカミになる @shunkotoku

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