陣営把握


 「さて、まず初めに俺の自己紹介でもしましょかね。俺の名前は成田遊賀、年齢は29。元1番隊所属のエリート様よ。ちょっと問題があってここでリーダーする事になったんだが……まあ腕は確かだから安心して頼ってくれ」


 移動してすぐに自己紹介をしたリーダー、成田は親指を自身の顔に向けて指さしながら自身の経歴を話してくれる。


 「浜碧廉です、これからよろしくお願いします」


 成田の容姿は碧青と紅金のヘテロクロミアで183cm程のマッシュスパイラル。元1番隊という事もあってか引き絞るように鍛え抜かれていて所々が頑丈だがすらっとしているモデルのような体格をしている。


 「廉君か。ま、よろ。人それぞれ色々と癖が強い奴がこの隊多いんだけど、頑張って話してったら誰とでも仲良くなれるさ。つってもまだそうはいかないだろうけど」


 「そうですね、段々とここに慣れるように頑張ります」


 成田によって案内されると真っ先に目に止まったのはその部屋の多さだった。


 「こんなに部屋があるんですか」


 「まあ、みんなここに住んでるからね」


 「え、そうなんですか?」


 「ここが一番安全だからね」


 言われてみれば確かにそうだ。今まで気にした事もなかったがここが一番安全だろう。


 この場所は謂わば本部直属の敷地内で何か危険があった時にはすぐにひとが集まる事が出来るので考えてみれば納得がいく。


 「隊の人って何人、居るんですかね?」


 「廉君で九人目だ。おめでとう!!」


 大袈裟にわざと祝福をされる事を軽く受け入れつつ他の隊との人数差について予想をすると一つの疑問が出てくる。


 「どうして俺はここに配属されたんでしょうか?」


 「あ、それ聞いちゃう。まあ言うつもりだったけど。それはね、ウチが廉君と戦った奴らと同じように特別な力を使える能力者達の集団だからさ」


 能力を使える集団。確かに俺が戦った反乱軍の敵にもそのような能力を使える集団があったのだからこちらにもそれに対抗する集団が居ても不思議ではないと腑に落ちる。が、同時に先程の答えになってない事に触れる。


 「俺は能力者じゃないですよ」


 「廉君と同じ無能力者もいるよ。ほらさっき廉君に話し掛けたデカい人居たでしょ?」


 先程の事なので記憶で振り返らずとも覚えている。


 「………ポテンシャル採用?」


 「大体そんな感じだよね。まあそれは廉君もなんだよ?能力者と戦って初めて生還した無能力者、戦いに於ける実力はこれ以上と無いよねこれは」


 あの仲間が死んだ数日前の戦いを思い返すが、振り返るには辛過ぎる内容でつい心が締め付けられる。


 「奴は、本気じゃありませんでした。恐らくはあと何個か必殺技みたいなのがあると思います」


 「リュウキ、とか言ってたんだっけか?報告をさっき来る前に見てね、よくそんな危険な奴とまともに戦えたもんだ」


 指を顎に当てながら考え込むポーズを取る成田は少しだけ苛立ちを露わにしていたのはあの惨状を見たからだろう。


 「次に会った時に冷静に戦えるとは思いますが、俺が勝てる事は出来ないかもしれません」


 「それは大丈夫、つぎは俺たちが居るから負けないよ。それにウチは復讐は本人にさせるって決まってるから」


 最後の一言で成田の顔付きが一気に暗くなる。それは独自の方針だった。もしかすると自分と同じように不幸の境遇に遭っている者達が集う場所なのかもしれない。


 「案外合ってるかもですね、この場所は」


 「だろ?同意してくれて良かった!ま廉君の拒否権は無いんだけどねぇーい」


 「全く、酷いところだ」


 歩きながら話をしていると目的の場所に着いたようだった。先程の他の人達の部屋と似ている事から自分の部屋とかだろう。


 「ここ俺の部屋、これから簡単な質疑応答の面接を行います。おk?」


 「え?」


 「悪い、ごめん。廉君の部屋はさっきの集まってるところにある部屋の端にあるから」


 自身の部屋じゃない事も驚いたが、推薦で新しい0番隊に入っていたと思っていたのはどうやら早とちりだったみたいだ。


 成田の部屋に入るとモダンスタイルでもシンプルさを統一した控えめな部屋だった。家具は無地で派手なものは無い清潔感のある部屋で自分が以前に使っていた部屋と比べてしまう。


 広さは寝室と書斎が別の2LDKでキッチンやリビングが割と隔離されている感じの空間で静かに過ごす事に向いている場所だった。


 「すごい綺麗な部屋ですね。会議室とかじゃ無いから面接って感じはしないけど」


 「まあそんな堅苦しい事はしないから寛ぎながら話に付き合ってくれるだけでいいよ」


 そう言って成田が奥の椅子を反転させて背もたれの方を抱え込むように座ったのを見てから自身も手前の椅子に座る。


 「じゃあまず、何か聞きたい事はある?こういう時ってさ。事前に話しておかなかったから後で分からない事が起きた時に面倒だからちゃんとしておきたいんだよね」


 確かにそうだ。状況が変わった時に知っているのと知らないのでは雲泥の差である。


 「わかりました、なら初めに能力者って何なんですか?どこからその人達が発生したんですか。俺はその起源が知りたいです」


 ここに来るまでにずっと疑問に感じていた事だ。想像上のものだけだと考えていた人間には行使する事の出来ない不可思議な力の出所を知らなければ進まない。


 1番の疑問とも言える質問をぶつけると悩む様に成田は呻る。


 「うーん、明確に誰が始まりってのは断言出来ないんだけど俺の場合は突如として現れたから後天的、何か影響力があって能力者になる現象が起こったのかもだけど割と特殊なれだからなぁ。すまんが力になれん」


 「他の人だとどうだったんですか?」


 「あー、人為的にって奴もウチの中にはいるよ。それについてこの後話す予定ではあるんだけど」


 「人意的に……」


 そのケースだろうと考えていた為に存在していた事にそこまで驚く事はなかった。


 「基本的にはみんな後から何かしらの理由で付くんだ。だから特殊で人数も少ないんだよね」


 「なるほど。じゃあもう一つ、この0番隊はいつ出来たんですか?」


 「一年前だね。多分そろそろもう半年経つのかな?」


 という事は一応自分が7番隊に配属されてから出来た事になる。


 「なるほど。最後、他の敵についての情報は何か知ってますか?」


 「ああ、知ってるよ。少ないが能力が完全に明らかになっている者もいる」


 成田の瞳が復讐者の目に変わる。ヘテロクロミアでのその目に少し怖気付くが聞いておかないと後々後悔しそうなのでそのまま続ける。


 「じゃあそいつらの情報を教えて下さい」


 「一人は記憶を改竄する奴がいる。奴は他の味方の記憶やウチらの記憶も弄った可能性がある非常に警戒しないといけない奴だ。顔と名前はわからない。しかしそいつがいるという事を覚えておかないといけないというのが一番大事なんだ」


 「もう一人は硬度を変化させる奴だが、コイツは今能力を封じて監獄で拘束している。能力を使えなくした時に殺そうとはしたんだが最後に厄介な能力の使い方をしてな。実質放置だ」


 既に敵を捕らえていたのは驚きではあったが、得られた情報は少なかったようで成田は少し頭を抱えている。が、唐突にふと辺りの温度が少し下がったような錯覚を覚える。


 「最後に、温度を操る奴だが……奴は俺の獲物だから取らないように」


 冷静な状態な筈なのに強い殺意が成田から漏れ出していて彼の復讐の対象がそいつだということがよく分かる。


 「わかりました。見つけたらすぐに教えますから」


 「そーしてもらえると助かる。まそんなもんかな」


 また成田はすぐにいつもの気楽な態度に戻るが既に自分の中で彼を見る目は変わっていた。

 話題を逸らそうと何か探ると先程の自分を庇ってくれた女性を思い出す。


 「そういえば他のメンバーは?」


 「ああ、メンバー構成は能力を秘密にしてる者も居るから全員は会えないだろうけど大体は次に会ったら教えてあげるよ」


 「はい、ありがとうございます」


 お互い、というか。こちらが一方的に聞く形だったのだが一先ずはこれで終わりらしく成田が席から立ち上がる。


 「さて、今日は色々と忙しかっただろうし荷解きもあるから今日はここで解散!お疲れ様、また明日昼頃にラウンジでね」


 「了解です」


 生活感がまるで無い同じ復讐者の部屋を後にして自身の部屋へと足を進めた。


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る