居る者と居ない者と
部屋に着き、荷解きを半分程終わらせた後に床に就く。目覚めてからの1日が早くも遅くも感じた不思議な経験をしたがふと忘れていた今日何度目かの現実が再び己の心を蝕んでいく。
仲間は死んだ。帰って来ないという単純な真実を受け止めてはいるがやはり辛いものは辛く立ち直るまで数日はかかりそうかもしれない。
ここにいる彼らは自分と同じように誰がを失ったり、殺されたりしているのだろうか?
ただ次に自分が何をしなくてはならないのかがハッキリした。巡り合わせの運ではあるがこれは逆にチャンスとも言える。
「とにかく、明日だ。今日はもう寝よう」
瞼を閉じてから段々と考える事をしなくなり、やがて意識を手放した。
★
朝になり、朝食を食べずに身支度をして早めにラウンジに向かうと先に一人既に先客が居た。昼前なので誰も居ないと思っていたのだが予想とは違ったようだ。
テーブルに座っていたのは昨日自分の事をラックマンと呼んだ男を糾弾した女性で0番隊の成田さん曰く、うちのメンバーらしい。
「こん、にちわ。昨日はわざわざ庇って頂いてありがとうございました。ここ、座ってもいいですか?」
テーブルに近付いて手前にある椅子に指を刺して手を触れると彼女は首で頷きながら答えてくれる。
「あなたの居場所でもありますから許可なんて入りませんよ」
「ありがとうございます、そう言ってもらえると気が休まります。そのいきなり隣とか座られたら嫌かなって思って」
「私は……良い、ですよ?」
「じゃあ機会があれば座りますね」
一人で待機してる予定だったから緊張からか、あまり落ち着かずにどこかそわそわしてしまう。
中々人も集まらないので少し沈黙があったのだが、目の前に座る彼女がこの前の出来事に触れてきた。
「7番隊の皆さんは遺恨を残す形になりましたね。もっと早くに助けられなくて申し訳ないです」
「いえ。聞いてるとは思いますが、仲間が救援を求めた時には既に壊滅していましたから。その仲間も俺の力不足で、死にました」
仁道が死ぬ瞬間がフラッシュバックする。あの抱き締められて体温が低くなっていく生々しい感覚は今でも忘れる事なんて出来ない。
「能力者なんて存在も初めて知りました。もっとやり方があったんじゃないかって少しは考えてしまうんですけど、多分あれが運命だったんじゃないかって思います」
「仁道さん、でしたよね。救援を要請した方って」
「はい」
「直接は聞いて無いんですが、本部に連絡を入れたらしくてこう言ったんです」
直後、彼女の言葉が仁道が言いそうなセリフだったのでイメージが勝手に出てきて幻想の光景が目に入る。そう、あの時の廃墟の施設から外に出た場所のイメージが。
『頼む!無礼とか無理とか全て承知の上で一回だけ願いを叶えてくれ!一つだけだ!どこでもいい!出来るだけでいい!一番強い奴をここに寄越してくれ!俺が生きてたら全てをやる!アイツが助かったら何でもやる!だから俺の仲間を助けてやってくれ!!』
イメージが記憶と共に弾けて割れる音が聞こえた。
現実に戻されて息を呑むと、自然と顔が解けてきてしまった。
「なんだよ、それ。お前、そんな事。ぜってぇやんなかったじゃねぇかよ」
切り替えようとしていたのにそんな事を教えられたらやっぱり辛い気が勝ってしまい感情がぐちゃぐちゃになる。
「アイツは、俺を庇って死んだんです」
「はい。直接は見てないですがリーダーから教えてもらいました」
最初に俺を見つけたという成田さんから聞いたという事ならば間違いはないのだろう。
「俺が冷静じゃなかったんです。仲間を殺されて激昂して、戦力差も分からないうちから飛び込んでそんでもって負けて。あの対面は間違いなく逃げるのが先決だったのに報復に気を取られてしまった。あんな事しなければ、アイツも生きてたかもしれないのに……俺は」
「ダメですよ、その考えは」
「え?」
浸るように後悔ばかり語っていたら怒られたのか?
始めにそんな事を思ったがそうではなく彼女には何らかの持論があるみたいで大人しく続きを聞く。
「良くないです。誰かを亡くした時に自分を責めるのはしてはいけないとまでいいません。でも自分が悪いだけで結論付けて終わらせるのしてはいけません。それはその後のあなたの人生を乗り越える時に大きな枷になってしまいます」
「でもそれは背負うなり、付けるなりして乗り越えるべきだと思ってて」
反論をしたかった、しかしそれが本当に正しい事か分からずに途中で口が止まってしまう。
「いいえ、それではまた同じ様な苦しみ型をしてしまいます。こういう時はどう受け止めるかではなく、これからどうするかが重要なんです」
彼女が遠くを見つめる。しかしそれは外の景色を見ているのではなく記憶の光景を振り返っている様子だった。
「私も過去に仲間を失ってます。他にもっとやり方があったんじゃないかや力があればなんて思いましたけど、結局は考えても何も解決しなかったです。それは自分がその原因から何も学ぼうとしなかったから。行動に移すという事をしなかったから私は前に進めなかったんです」
「そう、だったんですか」
この隊に居る人は大体何かしらの復讐を抱いている。隊長である成田さんの言葉が頭から離れずにいたが、こうして前に進む人に中にはいるのだと感心する。
「私も実はリーダーから教えられたんで実は受け売りなんですけどね」
照れ隠しの様に誤魔化す彼女だがそんな人に対して思った気持ちは感謝だった。
「いや。それでも、あなたから聞けて良かったです」
「そ、そうですか。なら、良かったです」
また少しの沈黙の後に体を浮かせて前に出ながら立ち上がる。
「あの、名前。聞いても良いですか?」
「水無月紗依。この隊では後方支援をしています」
こちらを真摯に見つめて答えてくれた水無月さんは何故だかとても眩しくて
「一応言うと、ミナちゃんが廉君の事を助けたから覚えておくようにねー」
「うぉっ!?」
いきなり後ろに成田さんが現れて驚いたが思い返せばここで待ち合わせをしてるから来るのは当然である。
「いきなり来ないで下さいよ。心臓に悪いです」
少し不貞腐れる水無月さんに対して話が逸れない内に頭を下げておく。
「ほんと水無月さんには頭が上がりませんね。何とお礼を言ったら良いか」
「し、心臓に悪いです」
何故か少し俯いてボソボソと話す水無月さん。すると成田さんが近付いて来てこちらに耳打ちをする。
「ちなみにミナちゃん意外と面食いだから気を付けてね」
直後急いで立ち上がって成田さんの方に近付いて来て背中の皮膚を強く抓る。
「痛い痛い痛い!!ごめん!聞こえてるとは思わなかった!わざとじゃない!今の言葉は撤回するから!!」
「し、信じてないですから隊長の言葉なんて。それに俺はあまり人と話す事ないから大丈夫です」
慌てて自分もフォローすると抓る手を離して席に戻ろうする。
「よ"がっだねぇぇい」
隊長が抓られた所を摩りながら某子供向けテレビ番組のとあるキャラみたいな喋り方をしていてまたふざけていたのですぐに違う場所を水無月さんに抓られる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!ごめんって!ほんといつもと違うから揶揄いたくなっただけであーっ!?」
身を削ってでも揶揄いたいのだという成田さんの新しい一面を知ったのであった。
★
時間を決めていなかったからそこら辺は凡そではあったものの、大体のメンバーが集まると成田さんは椅子から立ち上がって全体を取り仕切り始めた。
「さて、本当は昨日に廉君が来ていたんだが色々としないと行けない事があるから今日になった訳だが」
成田さんが辺りを見渡すと空席が何席か存在していて少しそこを見つめる。欠席している人に何か思うところがあったのだろう。
「まあ居ない人はしょうがないよね。出て来れない奴も中にはいるし、サボりや寝坊するなんてのもあるから何れって事で。第一回廉君会議を始めたいと思います!」
「なんですかそれは」
あまりの雑なタイトルに呆れて聞き返すと成田さんはファッションメガネを着用してノリノリでメガネの縁を指で押し上げてアピールをする。
「これはウチに伝える大体伝統の通過儀礼なのだよ。嫌だから参加してない奴も居るんじゃないかな?環刻とか」
その人の名前を聞いた瞬間に水無月さんが少しだけ不機嫌な態度に変わる。
「あの人は来て欲しくないです」
「お前、昨日は珍しく怒ってたもんな」
「それは浜碧さんにあんまりな名称をいうから」
「センスがないよなぁ」
間に入って発言する人が一人。165cmくらいで自分より短い背丈で身体の所々はちゃんと鍛えられているが机に突っ伏して顔だけ上げてる怠け者状態でどこか話しやすそうな雰囲気を感じる。
「はい、そこ!後で話させて上げるから話を聞いて!」
雑談に変わりつつあった場を取り締まる為に手を叩いて成田さんが止める。
「でも具体的に何をするんですか?」
「会社で言う歓迎会みたいなもんだよ」
机に上半身を乗せている彼が顔だけこちらを向いて答えてくれた。それに合わせて成田さんが補足を付け加える。
「始めた理由は隊を作った時にあまりにも葬式みたいな雰囲気だったってのを改善するためにやり始めた訳。だから大事なイベントだって言ってんのによぉ!こいよ!バカタレどもがぁ!半分しかいねぇじゃねぇか!!」
途中から腹が立ち始めて、怒り始めて虚空にキレてる成田さん。手が付けられない状態になってしまったので先程この会議の具体例を言ってくれた人が代わってくれる。
「まあ、じゃあ切れてるアイツは放って置いてまずは俺から。俺は飛伊加俊介、能力は付与を使える。エンチャンターって奴だ」
付与、具体的に何が使えるかとかまでは分からないが応用が効くというのは確かだ。
「私は水無月紗依、能力は糸を使います。戦闘向けに使ってるつもりですけど一応これで傷の修復をしたり出来ます」
実際にその場で指の先から糸を出すのを見せながら机を切ったり治したりを行なってみせる。
「相変わらず器用だよなぁ」
「最近は回復役の方が多いもんな。特に狂刻とか」
成田さんが褒めるのに反して飛伊加さんは逆に揚げ足を取る。それに対しては何とも感じてなかったみたいだが狂刻の名前が出た直後にまた不機嫌になる。
「あの人は能力も無いのに前に突っ込み過ぎなんです。対した事もしないのに毎回私が後始末ばかりさせられて」
不満が募っていた水無月さんは溜まっていたストレスを吐き出す。
「まあまあ、助けられてるのはアイツも分かってるとは思うから。今度礼をするように俺から言っておくよ。じゃあ次!」
成田さんが半ば強引に次の人に回すと水無月さんの隣に座っていた女性が口を開く。
「私は立河」
「……え?終わり?」
成田さんがあまりの紹介の短さに思わず唖然としてしまうが彼女は言い分を用意していた。
「入ったとは言ってもまだ彼の事を信用してる訳じゃないから」
「ちょっと」
冷たい様にも感じるその言い方に水無月さんが口を挟もうとするのを静止させる。
「いや、まだ余所者だからそれは最もだと思います」
来ていない人達の中にも歓迎していない人がいるのかもしれない。同じ無能力者でもこちらの力を信じていない狂刻さんとかが良い例だ。
「さて、後は最後のお前だけだな」
成田さんがトリを任せるべくとその人の肩を叩くと、その者は顔を上げて目を見開いてこちらを目に穴が開くくらいしっかりと見てくる。
あえて触れて来なかった相手ではあるのだが、正直今自分はかなりの臨戦体勢になりつつあった。
昨日会った狂刻さんよりも更に1回りか2回りも大きな彼は歴戦の猛者の様な威圧感を出しながらこちらを警戒しているように見える。多分彼も歓迎していない内の1人だと本能的に理解する。
慎重に言葉を選ばなければならないと思うと息が詰まりそうになるがその息を飲み込んで様子を見守る。
「ぼ僕は福永陸斗、能力はちょっと言えないけど仲良くしてくれるとあり、ありがたいな。よろしく」
「あぇ……」
見た目のギャップが違い過ぎて数秒間硬直してしまった。
話し始めた瞬間に先程までのオーラが一瞬で消えて弱々しい喋り方をしていたのでかなり驚いてしまった。こちらに対する威圧感は緊張感が変に伝わってしまっただけらしい。
しかしながら声は見た目通りの厳ついような声をしているのでイマイチしっくりこないというのが最終的な結論である。
「まあそういう反応になるよな。大丈夫みんなそういう反応してたし俺もなかったからよ。それに見た目の割に小心者だから優しくしてやってくれ」
飛伊加さんがフォローをしつつ仲介役を担ってくれる。おそらくは俺だけでなくて福永さんの事も気遣っての事だろう。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こちらが頭を下げて挨拶をすると、身体を動かさずに手首だけで小さく手を振る福永さんは少し可憐だった。
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