未知との邂逅
内部に入ると月の光が少ないので暗さが一気に強くなり、念の為に暗視ゴーグルを装着する。
「では、我々は計画通り1階を制圧し、廉は安全地帯にする間に上の階を頼む。敵勢力が確認出来次第連絡をくれ」
大源隊長に言われて了承をしようとした時に隣に居た仁道から待ったの声が掛かる。
「隊長その話だが。先行、俺も同行して良いか?一人だとやられた時に連絡が付けられない」
やけにいつもより真面目な態度の仁道に対して周りのみんながザワついているが割と平常運転である。
「いや、いらねぇよ。わざわざ俺に食っ付いてくんなって」
「お前が頼りないから仕方なくこの俺が付いて行くんだろうが、少しは俺に感謝でもするんだな」
「うっせぇアホ」
確かに言ってる道理はあるが、逆に言えばあまり信用されていないとも言える。だが隊長にも日頃から感じる部分があったようで少し唸る。
「ウチの隊は普段から廉に期待し過ぎている節がある。居なくなった時のリスクも大きく、作戦に影響も出るだろう。分かった廉、斉賀。頼んだぞ」
「「了解」」
事前に装備は整っているので俺達はすぐに出発した。
けれども正直、この後にあんな事になるなんて思っても居なかった。
★
本隊と分かれ、仁道と二人でどんどんと上の階の潜入に向かうと階段の中腹に落ちている武器を見つける。
「武器が落ちている。この武器は……KACのSR-635、ウチの隊にも同じ型の銃があるって事は他の隊がここに?」
「いや武器だけで判断するのは早計だ、敵がその装備だったって可能性だってある」
一人で決めようとした事に対して別の線の可能性も提示する仁道。こういう時、自分だけで勝手に判断してしまう事があるので話せる相手は居た方が良い。結果的に仁道が付いて来たのは正解だったと感じる。
「そうだな。とりあえず、上に進んでどんどん見てみるしかないな」
しかし数階登れども以前として敵が現れずで少し焦りのようなモノを感じてしまう。
「居ないな。誘われてる可能性もあるがこうも何もないと下手に動けない……っておいちょっと待て何処に行く!」
「目的は安全の確保だ。早めに確認して本隊に合流した方がいいだろう。報告するネタが出来たとでも思えばいいから同じ箇所に留まらない方がいい」
「それもそうか……分かった、まずは上層階まで行って敵を減らして行こう」
半分まで到達して時点で敵の部隊の死体を発見する。既に他の誰かと戦った後なのだろうか?武装したまま倒されている。
6人か、敵も恐らく対応出来るようにここに人員を割いておいたのだろう。
「敵がど真ん中で仕留められている、随分と滅多撃ちにされてるな。敵ではあるがこんなやられ方は溜まったもんじゃないな」
「ああ、でもその割には随分と周りがやけに綺麗だな。死体だけここに置かれたと考える方が妥当かもしれない」
そう、違和感がある程に綺麗に死んでいて弾もどこにも落ちていない。
「一体どうなってやがる、もっと乱戦になると思っていたんだがこうも手薄だと何処かに潜んでるのか?」
「可能性はあるが囮の線もある。本隊の方に合流してからそれも伝えておこう」
エレベーターは壊れて居るので必然的に1段1段と階段を登っていくが重装備をしていて何しろ20階以上ある為、体力をエラく消耗させられる。
1階ずつ確認していく作業を繰り返し、最上階にたどり着くと奥に横になっている人を仁道が見つける。
「おい、1人いるぞ。こいつは、6番隊の隊員だぞ!どうしてこんなところに?」
仁道の言う事は尤もである。今回この施設の作戦は7番隊だけで行う内容で6番隊は違う施設の鎮圧だった筈。
「もしかすると隊長が虚偽の情報を伝えられていた?」
「いや、もしかすると隊長がウソをついたのかもしれねぇ。が、今は判断材料が足りないから戻ったら確認しない事には多分わからねぇ」
理由はともかくとして隊長は意図を持って行動する人間だ。裏切るような事をするタイプでもない。
「問題は何故ここに6番隊の奴が居たかが重要だ」
自分が考えようとする前に仁道が思っていた事を口に出していた。
「推測だけど、今回の作戦自体がどっか怪しいと思う。6番隊ってウチとそんなに仲良くないから内通者があっちの隊にいたとかもあるかも」
「やめろ、そんな疑いしてたら何も信用出来なくなる。ちゃんと状況判断してからでも遅くない」
見渡すと屋上出口付近で生き絶えている反乱軍の者が一人居た。恐らくは相討ちか何らかの争いがあったのだろう。
「それにしても何でコイツだけ?警備をさせてた奴も人一人だけってのはおかしい」
否、それよりもより変な事がある。普通、6番隊が上から来るなら俺らが仕留めたコイツは真っ先に死んでるのが普通じゃ
「戻れ!敵は地下に居る!」
「何言ってんだ!上に敵が居るって隊長も言ってただろ。大体、地下だって事前に確認しただろ!」
「上に居るのは敵じゃなくて味方だ!そしてその味方はもう死んでる。とにかく考えるより先に合流するぞ!」
仁道がその言葉に対して何かを言う前に俺の体は勝手に階段へと足が伸びていた。
★
廉と仁道が異変に気付く数十分前。
既に調査して人が居ないことを確認していた地下の階段を登ってくる足音に大源は一瞬気付く事が出来なかった。
「誰だ!?」
隊の一員が恫喝した声に遅れる形で大源が後ろを振り抜くと何1つ武装をしていない1人の若い青年がそこにはいた。
その青年は青髪に白髪メッシュのスパイラルマッシュウルフという一般的には目立つ見た目をしていて影が薄いというタイプではない。
しかし気付けなかったという事はやはり意図的に気配を消していたのかもしれない。
「お前は何者だ?」
確認するが返答が全く無く、自然と銃を構えたまま膠着状態になる。背丈は180cm近いくらいだろうか?体付きは少し鍛えているくらいでそれ程筋肉は付いていない。
こちらに歩いてくる彼は我々を見てから急に妙な事を口に出し始める。
「あれ〜?全員で上に来る様に誘導させた筈なんだけど………なんでいるのかな?まあ人間どいつも一緒ってわけじゃないし、さっきと同じようにはならないか〜」
「しまった、上は陽動か」
言われてすぐに無線通信を繋げようとするが何故か妨害されているのか仁道達に繋がる事は無かった。
「通信は使えないよー?他の隊の人に君達は仲間に裏切られた訳だ」
「何を言っている。我々はこれから1階から順に制圧して」
「上から屋上から攻める隊と合流するんでしょ?」
冷や汗が出た。自分しか知り得ない漏洩防止の為に自身の隊にも隠していた情報を目の前の相手が得ていたからである。
「何故、それを知っている?」
「え、分からないかなぁ?俺が知ってるって事はもう理解出来ると思うんだけど」
恐るべき状態を考えた時、真っ先に出て来たのは上の6番隊を全滅だったが、そんな事は1人で出来る筈が無いと目の前の敵を見ると顔がニヤけていた。
「ま、まさか既に」
「うん、殺しておいたよ。もしかしたら生きている奴もいるかもしれないけど、まあ大方目的は果たしたから気にしないけど」
思い掛けない暴露に隊の皆が動揺するが、ここで隊長である大源がすかさず静止させようとする。
「狼狽えるな!今ここで倒すべき敵が明らかになったのだ!総員」
「ねぇ、誰に言ってるのそれ?」
「は?」
物音が無くなり静まり返った場所で彼が後ろを向くと
★
下に降りてきた時、真っ先に聞こえてきたのは隊の中にいた誰の声でもなかった。
「お、いたいた。君達がこの人達の仲間だよね」
まるで知人に会う人かのように接しながら隊長の死体を足で転がす名も知れぬ誰かに顔が青褪めて行く仁道とは反対に頭に血が昇って顔が昂揚していく感覚がした。
目の前の奴が何か話す前にアサルトライフルを雑に連射するが何かよく分からないモノに阻まれる。
「⁉︎⁉︎遮蔽物に隠れろ!」
得体の知れぬモノに阻まれて、直感的に驚いて勢いよく離れたが少し経過すると銃弾が落ちる音が聞こえて様子を見て恐る恐る正面に出る。
「やあ、随分と普通の反応を取るんだね」
即座にセミオートショットガンで目の前の相手に確実に連続で撃ち込むが相手には何の傷もなかった。
「ふむ、銃弾を7連続で全く同じ場所に当てるか。さっきとは少しだけ違うタイプみたいだね。というか、人が喋ってる途中に銃撃っちゃダメでしょ〜。さっきの子といい君の隊は教育が成ってないね、こんなんだから隊長がダメなのも当然か」
無意識に煽っていて仁道はその挑発のようなものに釣られてしまい、アサルトライフルを連射する。
「テメッ、このやろう」
「ハハハ、無駄無駄。そんな事しても効かないのはさっき見て分かっただろう?それとも分からなかったのかな?」
「テメェが俺を馬鹿にすんじゃねぇ!」
仁道が怒りながら銃を撃ち込んでいるのを放置しながら少し考えに耽る。
弾が、当たらない?さっきの膜のようなモノで防がれているのは変わらないが同じ所に全て打ち込んでも貫通強度が足りない。
確認する形で自然と仁道と包囲して銃の種類を変えながら銃弾を撃ち続けるが結局一発も貫通する事はない。
「クソッ!なんで一発当たらねぇんだこの屑に!」
激昂して支柱に殴って八つ当たりする仁道に対して目の前の奴は愉快と言わんばかりの笑い声をあげる。
「無駄だよ、いくら銃を変えようが弾を替えようが俺に攻撃が届くことはない。君らも諦めて仲間の後を追うんだな」
こんな敵は今まで存在しなかった。組織の敵とはまた違うのだろうか?分からない事が多くてつい相手に訊ねてしまう。
「お前は何者だ?」
「君もさっき死んだ彼と全く同じ質問をするんだね。いいよ、また答えてあげる。ーーーーーなんで俺が興味の無い人間に自己紹介をしないといけないんだ。嫌だね♪」
物凄い殺意の後に緩急を付けて拒絶された事に隣の仁道は動揺と困惑をする。しかし隣で何食わぬ顔をしながら装備を着々と外す廉に対しそれ以上の衝撃を受けて止めに入る。
「おい廉!何をする気だ」
静かに準備を整えたは息を整え、自然と構えをしながら仁道の質問に答える。
「こいつには銃が効かないんだろ?だったら肉弾戦で倒すしかないだろ」
「いいね、興味無いけど君みたいなのは殺し甲斐がありそうだ」
目の前の奴が前にゆっくりと歩き出し、その場の空気は2人だけの戦う空間に作り変えられた。
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