ASFRCT7番隊



 敵を掃討した後、死体の後処理を軽くしていると横からちょっかいを軽い出される。


 「ガキって言われてやんの。お前ほんと見てくれで騙してるよな」


 「うるせぇよ、さっさと次のポイントに移動するぞ」


 「ヘイヘイ、分かりましたよ。お子様の言う通りに」


 こちらのことを煽るように茶化す青髪のベリーショートのコイツは同じ班の仲間である仁道斎賀だ。色々腹が立つ所はあるものの腕が立つというのが厄介だ。おかけでこっちとしてはそんなに馬鹿に出来ないのが難点だ。


 見た目は比較的大柄で184cmとか抜かしていてよく俺の事をチビチビと煽ってくる。確かに平均身長より1cm足りない170cmだが全国的に見たら平均くらいだと感じている。


 最もこの隊の中ではダントツで一番小さいので浮いているのは仕方ない事だとは日頃から常々感じているが。


 「そういや、今回のミッションって誰が大ボスなんだ?」


 「お前聞いてねぇのかよ、対抗勢力くらい把握しとけよ。トップは現場に居ねぇぞ」


 「まーじかよー!やる気失せたわ、ほんましょうもなこの現場」


 見るからにあからさまにやる気を失くした仁道はすぐさまその場に寝そべって職務放棄をする。


 「お前、少しは警戒怠るなよ。このエリア制圧したからって安全とは限らないんだからな」


 「はいはい、ったく一々指摘がだるいなぁお前は。なんなら俺が心配ならお前が俺を見張ってろよな」


 「誰がやるかよ、自分の身は自分で守りやがれ」


 寝転んだ状態で少しこっちを見ていた仁道は前から自分に感じていた事をぽろっと口から溢す。


 「お前ってさ、ほんと訓練の時の硬さが抜けてねぇよな。少しは俺を見習えって、そんでもって俺を敬え」


 「誰がお前なんか敬うかよ。冗談は口だけにしとけ。それに、俺はこの硬さを悪いって思った事はねぇよ」


 実際に仁道は見習いたくない人間の良い例である。休日は日がな飲みに行くわ夜の街に繰り出すわ、パチンコに麻雀にカジノと賭け事ばかりしていて貯蓄を全くしていない。


 「そうかねぇ、お前そんなに硬すぎると人生楽しくねぇだろ?」


 「余計なお世話だ。別に今は人生楽しむ為に生きてねぇよ」


 生き方のスタイルに大きな違いがある為に今仁道が口を開いて驚いているがこいつとお前を比べたら確かにそういう反応をしても不思議ではないだろうと思う。


 「マジか、お前正気かよ。そんなんでよく人間やってんな、もっと欲求満たせよ」


 「欲に溺れてる奴が人間語るなよ。はぁ、お前と話すと疲れるわ。見張り任せた、休憩してくる」


 仁道の返事を聞く前に勝手に持ち場から立ち去っていく。すぐさま後ろで仁道が『はぁあ!?』と言って何かを言おうとしていたが興味ないので無視して制覇していたエリアの端に来た。


 「アイツの言う事も分からんでも無いけどな。そんな事をしてる暇はねぇんだよ」


 「まあまあそう言うなって」


 後方から声を掛けて来たのは我が班のリーダーである大源誠さん。今の日本人にしては190cm近い身長と恵まれた体格をしていて染めてからしばらく経った茶髪の硬さが有名なサイドフェードの短髪で如何にもうちの組織に多いタイプの見た目をしている。


 二、三年前に結婚して最近子供が産まれたなんて話を耳にした覚えがある。このご時世に逞しいもので自分からしたら少し眩しく見えてしまう。


 「うす、お疲れさまです。6班の様子はどうでしたか?」


 「順調に進んでるようだが少し消耗しているようだ。まあそれは一旦としてあいつも言ってたが廉、少しお前は真面目が過ぎる。もう少し肩の力を抜いた方がいいぞ」


 「そう、すかね?一応気を付けてはいるんですけどやっぱり選ばれた者としての責任を果たさないと行けないってつい考えてしまうのかもしんないです」


 「まあ気を張るのは悪い事じゃない、寧ろいい事だ。ただ、あまり続けると廉自身が疲れちまうって話だ。疲れないようにほどほどにな」


 「了解です」


 崩壊した街を呆然と眺めていると何年か前の事を思い出しそうになる。


 いかんな、今はそういう感情に浸る時じゃない、後にしないと。


 「なあ廉、どうしてこんな世の中になっちまったんだろうな」


 心臓を掴まれたような感覚がした。


 それは単なる大源さんの疑問で責めている訳じゃない。別に今の世の中は俺のせいでなったのではなく自然に変わっていっただけなのだから。


 だから口から出る言葉というのは決まっている。


 「……どうして、でしょうね?」


 こんな疑問、今の世の中を生きている誰もが感じている事だ。ほんの数年前までみんな平和に殆ど幸せに生きていたのにいつの間にか環境が変わってしまった。それで一体何人もの同胞が居なくなって逝ったものか。


 「俺、思うんだよ。確かに前は平和な世界だったと思う。けれどこんな世の中でも自分達が真剣に生きれば幸せに暮らせると思わないか?」


 「そう……っすね、相変わらず隊長には俺の問題点が筒抜けですね」


 「だろ?まあ俺はみんなをちゃんと見てるからさ。廉は自分が幸せになれるような努力をしろよ?」


 「うっす」


 用と休憩が終わり、先立ち上がってその場を去って行く隊長に少しだけ距離を感じた。



 勝手に置いて行って休憩した事を忘れて拠点に戻ると案の定その様子を見て仁道がキレていた。


 「おい、お前のせいで俺全然寝れなかったじゃねーか!俺の休息返せ!」


 先程まで一緒に居たこともあり、ここで少し隊長が庇って仁道にお叱りを行う。


 「斎賀は気が緩み過ぎだ。もっと気を付けて事に対処しなさい。少しは廉の事を参考にするといい」


 「コイツなんか参考にしたくないっすよ、こんなん参考にしたら俺の生き甲斐無くなりそうじゃないすか」


 指を刺して何の躊躇いも無く人を罵倒する仁道に対して流石に苛立ちを覚えたので近くで腕の関節を鮮やかに決める。


 「こんなんで悪かったな」


 「あー!分かった!すまんすまん!今のは失言だった!」


 「いつもだろうが」


 同時に腕の拘束を解放してあげるとすぐ様を距離を取って溜め息を疲れる。


 「はぁー、これだから無駄に能力が高いエリートは嫌なんだよ」


 「能無しよりはマシだろうが」


 「俺は能無しじゃねぇ。さっきも三人俺が仕留めたしな」


 「アホくさ、作戦でたまたまやったのがお前ってだけだろうが。それに………人の命を自己顕示欲の道具に使うな」


 最後に言葉を切って語尾を強めた為、仁道が少し狼狽える。


 「はいそこまで。それじゃあ次の作戦会議を始めるぞ」


 ピリついた空気を手を合わせて隊長が静止させると同時にメンバーを集めて作戦会議の時間になった。


 うちの小隊はリーダーの隊長である大源さんを中心に自分を含めた合計14人の大きめの小隊である。

 本当は中隊でもいいのだが、出来て日が浅い為に出来るだけ中隊にするまでに練度を上げておきたいとの事らしい。


 「いいか?次の作戦は極めて重要な部分だから皆気を引き締めていくように。まずは内部の構造についてだ。先程戦闘があった地点から約150メートル離れた先にあるこのビルは昔企業などのオフィスが複数入っていた複合商業建築施設だったので構造的に敵が隠れやすい出来ている」


 「なるほど、つまり俺達はさっきまでの挟撃する形でじわじわと攻めていくスタイルじゃ勝てないって事だな」


 「他にも問題がある」


 「ああ」


 隊長も俺も仁道とは違ってその他の問題点を把握していた為に奴だけ置いてかれる状況になっているのでより隊長が詳しく説明してくれる。


 「内部に入った際の銃火器の使用がある程度制限されてしまう。具体的にはサブマシンガンやカービン、ショットガンも怪しいところだが敵側はこれらを使用してくる可能性は高い。こちらはPDWで様子見しながら隙をみてアサルトライフルを使えるようにする形で侵攻する」


 説明が伝わった時点でどういう攻撃をするか考える為に仁道が基本的な事を確かめる。


 「敵さんの人数は分かってるのか?」


 「偵察機によれば凡そ30人。この隊よりも人数が多いので出来るだけ戦力は削っておきたい。廉、先攻頼めるか?」


 「了解です。出来る限り削って有利にしときます」


 「作戦の要としては確かに廉かもしれんが皆も今回はいつもよりも戦闘が激化すると思われる。充分に注意するように、では各員準備を行った後に作戦開始だ」


 その隊長の言葉の後に各々は散開して準備をし始めた。



 作戦開始までの準備を進めながら少し仁道は廉について考え込んでいた。


 あいつは躊躇う事をしない。命を投げ打ってる馬鹿だと言えばそう捉える事も出来るがそうではない。恐るべきは本当に躊躇が無いというところ。同じ隊の常人ならば怯んだり臆する場面で奴はとことん冷静に有利な立ち回りをしてみせる。


 戦いに於けるスキルが群を抜いて高過ぎるのが今日まで成果を上げて生き抜いて来た証拠で強さのポイントである。戦闘の天才というのは正直奴の為にあるようなものだ。

 さっきの戦闘での相手は運が付いてなかった。よりにもよって一番勝てる可能性低い敵に挑んだのだから。


 うちの隊が他の隊と比べて成果を上げ続けているのもあいつの影響が大きいだろう。そのおかげで今回は割に合わない任務を受けさせられてしまった気がする。このレベルの任務は本来ならあの化け物揃いの一番隊がやるような内容だ。


 正直ビビっている。今まで幾度となく敵の猛攻を凌いで来たが今回はそれだけでは不十分だ。

 大体切り込み役を一人で任せる作戦自体が大分無茶がある。本来なら絶対にしない選択だ。リーダーとして仲間を多く死なせることよりあいつ一人で肩を付けさせようとする方が良しと判断した訳だ。


 何か違和感がする。


 皆が作戦を鵜呑みにする中で仁道は一人、作戦に疑問を抱いていた。


 


 武器の点検をしている時に前に誰かが立ち塞がるが気にせずに作業を続ける。


 「おい、廉」


 声に疑問を覚え顔を上げると更に驚いた。


 「どうした、んですか?仁道さんらしくないですよ」


 普段からお前とかこいつとかあいつとかしか言わないものだから急に名前を呼ばれてびっくりしてこちらも敬語になってしまった。


 「いんだよそんなこと。んなもんお前も変になってんじゃねぇか。それより、お前今回の作戦アレで良いのかよ?」


 「いいっすよ、寧ろありがたいですから。こんくらいしないと目標の一番隊には入れないし」


 「やっぱお前おかしいわ。さっさと偉業でも出して一番隊にでも行っちまえよ」


 「言われんでも勝手に行っとくよ」


 既に武装の準備を完了させてた仁道は先に歩き出しながら前に行き、途中でこちらに振り返る。


 「死ぬなよ」


 「死なねーよ。戦いに出る前に変な事言うなよお前」


 仁道との変なやりとりを後に準備を終わらせると皆が既に周りに居なくて自分が遅れている事に気付くと急いで全体の集合場所へと走って移動した。


 「よし、これで全員が集まったな。それではこれより作戦開始だ」


 到着するや否や隊長の掛け声と共に俺達は一斉にターゲットがいる施設へと入り込んだ。

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