ビーイング・エクセプション

ヒラナリ

Lost human being of World

Encounter with the unknown things(仮)

同胞への追悼


   蒼く視える海がそこにあった。


 雲が存在しない空も同じで辺り一面が全体的に一色に近い。けれどもそれはそう見えるだけで、実際はどちらも透明である。


 「夢か」


 一日の中で太陽が一番高く見える日差しが眩しい昼終わりの正午の教室。

 昼寝をするには絶好の気温と日和で他にも多くの生徒がサボり寝をしている状況で少しだけ呆れてしまう。


 「あーあ、災害でも起きて人類減少しねぇかなぁ」


 夏休みが近付きつつある初夏の天候を感じながら外の景色を眺める最も窓側の後ろから二番目の席にいる学生がそんな事を言った。


 今し方記憶に出てきたあの光景を見て連鎖的に出て来た言葉だけど、本当は本心じゃなくて学校を休みたいだけの方便だ。


 「何言ってんだよお前、そんなん起きるわけねぇじゃん。どうせ学校休みたいとかそんなんだろ?夏休みももうそろなんだから少しは耐えようぜ?」


 思っていた事はバレていたし、痛い所を突かれてしまい少し不貞腐れる。


 「まあそれはそうなんだけどなー。やっぱ勉強とかはだりぃからさ」


 「それはそう。働かずに生きていきたいよなぁ」


 気が合う友人と何となく何も考えずに会話だけする日常。そんな毎日は悪くない生活だった。



 しかしその会話から僅か数十秒後、甚大な被害を記憶しながら俺は意識を手放した。





 ………何が、起きたのだろうか?


 地震が起きた所までは覚えている。けれどもその後が何も記憶が無い。そこで止まってるって事なのか?

 分からない。いつもと同じように友達と話していた特に何の為にもならない下らない話をしていた筈だ。それがあんな大きな地震が起きて………本当に大きいだけだったのだろうか?


 身体が動かないし、目も覚めない。目の前が真っ暗に感じてて感覚がない。もしかして死んでしまったのだらうが?


 いや、死んではないのだと思う。本当に死んだのなら考える思考能力すら無くなる筈なのだから。


 では植物状態?


 もしかすると当たりどころ悪くて目が覚めないのかもしれない。だとするならば


 「ざまぁないな、あんな事言ったからこんな事になったのか。生きて目が覚める事を祈るしかないか。アイツら無事なら良いんだけどな」


 家族にも迷惑掛けた事だろう。目が覚めた時にお礼をしないといけないと心掛けてしばらく将来について考えることにした。


 「これからって時にどうしてこうなるもんかなぁ」


 高校二年の夏前だった事もあり、進路希望表なんてものを貰っていたがこんな事になってしまったので寝ている期間によってはもう普通の道では難しいだろう。


 勿論、それが悪い事ではないのは分かっているし成績が良くない自分にとっては寧ろラッキーだったのかもしれないと前向きに感じつつある。

 ただやはり年齢や後遺症などの問題も気になる所なのでこればかりは起きてからでないと判断出来ないし、最悪このままずっと起きない可能性だってある。


 今までがあまり良くない人生だったからこれから良くしていくには良い経けn



 『なぁ、人間って生きるべきなのか?』


 

 突如として何者かの声が聞こえてきた。



 自分の意識下でそんな事が起こったって事はただの妄想?それとも自分の意識下の空間ではない何処かということになる。


 『生命を淘汰するのを選ぶ事はしてはいけないけど、でも人間は明らかに生命を淘汰してるよな?』


 違う、多分これは今の場所とは違う何処かで姿形の知らない誰かが誰かと話している。ただ単にたまたまこちらに聞こえてきているだけみたいだ。


 『しかしそれは生きる為に仕方のない事だから仕方がないと人間は考えているらしい。他の肉食獣も他の動物を殺して生き残っている』


 『だが人間は理由もなく生命を殺す傾向もある。そして環境破壊もし続けている。これはもう居ない方がこの星は救われるのではないのか?』

 



 『なら、一つ提案がある』




 ………居ない。話している途中でどこかに居なくなってしまった。ちゃんと聞こうと耳を傾けていたら終わってしまった。聞かれてたのがバレたのだろうか?


 幻覚だったのだろうか?しかしながら声ははっきりと耳に聞こえてきた。あれは一体なんだったのだろうか?


 


 「ん、っつう」


 目を覚ますと知らない天井がそこにはあった。久しぶりの光に目が眩しく、何回かゆっくりと瞼を開く。


 意識を戻してから少し今まで疲れもあってしばらく呆然とする形になったが確かめたい事を思い出す。


 「そうだ、今の日付はいつなんだ?」


 思っていた以上に窶れていて声があまり上手く出ない事に驚きはあったが、辺りを探して時計を見つけてテレビと見た順番の後にたまたま近くに置いてあった新聞を見つけると日付けの部分だけを真っ先に確認してみる。


 「8月26日。なんだ、今年のままで1ヶ月半くらいしか経ってないのか」


 でも1ヶ月半って意外に長いな。何があったんだろう。


 目が覚めたばかりの状況ではあるが、すぐに医師に呼び出されて診察室に移動すると神妙な面持ちをした先生がそこにはいた。何かこれから重要な事を話そうとしているかのような。


 「葵くん、落ち着いて聞いて欲しい。君のご家族は今現在行方不明になっている。身元の連絡が付かなくて親戚の方にだけ連絡がついている状態だ」


 「………え?」


 頭が真っ白になった。いろんな事を考えていたがその言葉で一気に考えてた事が分からなくなり以降の先生の話があまり耳に入って来なかった。


 「ニュースは………そうか、昏睡状態だったから知らないのも当然だ。一つずつ順を追って説明しよう」


 それから先生の口から話された事は地震が起きて津波の被害から奇跡的に生き残って発見されたこと。重症者として搬送され意識不明の状態だったので都内ではなく県外に搬送されたというまでが今までの状況だと教えてくれた。


 あの地震の後、建物の倒壊や火災、有毒ガスや深層崩壊などが非常に多くの地域で起きたらしく、被害は尋常なものではなかったらしい。

 そして太平洋沖からの巨大な津波が直撃して首都圏は機能を停止した。国の代表である総理大臣などの内閣官僚や皇族の死によって指示を出し、統率を執る立場の者が居なくなり、日本は大狂乱に陥ったらしく、今現在もあらゆる事が問題になって国民を困らせ続けているらしい。


 話はよく分からないが、初めの医者の一言でなんとなくは分かっていた。


 もう親はこの世にいないという事。


 一通りのこれまで説明をした所までは聞いていたが、後はもう耳に先生の声が入って来なかった。


 ああ、こんな……こんなに呆気ないものなのか。ついさっきまであったかのような出来事がもう二度と無くなるってのは。


 頭の整理がつかねぇよ、何なんだこれ。意味が分からない。考える事がいっぱいで何もかもがおかしくなりそうだ。


 「少し風に当たってきます」


 気が付かない内に立ち上がって診察室から退出していた。


 どこか外の景色を見て落ち着きたかった。


 あの夢で見た眩しくて景色を綺麗にしてくれる太陽が見たい。空が青く雲とのコントラストが目に気持ちいいあの光景が、欠け落ちた心の穴を埋めてくれるような気がした。


 足早によろよろと階段を上がり屋上へ飛び出して、一望出来るフェンス越しまで足を運ぶ。


 「なん、だよ、これ。本当に、全部……めちゃくちゃじゃねぇか」


 喋っている途中で座り込んでしまった。あまりにも受け入れたくない光景が目に見えたから、見た事が無い光景でもあった。


 太陽と雲、空の景色はとてつもなく良い。あの日窓から外を自分が見ていたモノと一緒だった。


 しかし遥か彼方に移るその光景は余りにも全てが壊れ過ぎていた。


 街が倒壊し、壊れている姿。自分が搬送された被害の少ない地域ですらここまでの荒れ果てた場所へと姿を変貌させている。

 病室に戻り、テレビを見てそのダメージの深刻さを目の当たりにして更に精神を追い詰められる。


 そういえば、ここに入院していた人々の殆どが浮かない表情していたと思う。そもそもそんなに人の徘徊を見る事も無かったのだけども。


 先の事が考えられないのだろう。自分もその一人だから。

 同じように家族を亡くし、友人を失くし、人との関わりを切断されたような悲しみが当たり一帯に広がっている。


 ここからどう生きていくか?そういう新しい選択を求められていて自分で道を切り開かなけらればならない。一体どのくらいの人達がその行動を取れるのだろうか。


 けれど誰かから救って貰った命だ。少しでも救った人達が喜ぶ生き方をしていきたい。

 そんな思いが密かに心の中に現れていた。

 

 ★


 あれから軽いリハビリをして、退院するまでに3日を要した。1ヶ月半寝たきりという事もあって少しまだ動くのがキツイ部分もあるが今はそんな事をどうこう言っている場合ではなかった。


 退院してすぐに葬式に行かなければならなかった。喪主は親戚が行ってくれるのだが、あまりにもピッチが早いので心の整理が付かなくなっている。

 ウチは父と母と姉ががいたのだが、全員が行方不明で詳細が分からなかったそうだ。


 それもその筈、今回の地震と津波、その他二次災害による死者・行方不明者の総数は凡そ500万人と言われている。現段階でこの人数なので完全に落ち着いた頃にはもっと増えていると言われていて、間違いなく世界で一番の災害になってしまった。


 しかしその数ヶ月後、人類はその記録を塗り替える絶望的な出来事が到来した。


 そう、感染症の流行である。


 事の発端は日本のとある魚市場から始まった。鮮魚を媒介として突如として人に感染したそのウイルスはベザデグと呼称され、瞬く間に世界中へと観戦の輪が広がっていった。


 ベザデグは感染力が非常に高く、かつて世界でも数多くの人間が感染していったウィルスの数十倍の猛威で多数の死者を出した。


 特に日本は酷く、大災害で国力が皆無に等しい状態だったのもあって中々柔軟に対応が出来ず、ほぼなす術なく恐ろしい人数の日本人が亡くなっていった。


 幸い特効薬の開発に早めに着手していた為そのワクチンの生産、量産に至る事が出来たので長い年月苦しめられる事無く、最近なってからようやくなんとか政治が機能するレベルまでには回復した。


 しかしその爪痕はかなり酷く、ワクチンが完成するまでの二年で世界人口が五十億人まで減少し、世界は現在様々な国がそのベザデグの被害の後処理をしている。


 特に日本は劇的に国力を落としていて日本人自体が七割も減少していた為、もはや国が無くなるのも時間の内だと周りの国からは言われている。



 あの家族を失った災害から約三年が経過した。



 この間に内乱も起きた、治安も随分と悪くなった。テロや強盗も日常茶飯事だ。感染症のリスクも大きく、沢山の同胞が死んでしまった。


 そんな中、今の俺が何をしているかというと、人と戦う仕事をして生きている。


 あれから高校を半ば中退させられたような状態であったままだったので高卒認定試験を受けることにして懸命に努力した。そしてその勉強の甲斐あって試験は無事合格し、目標であった当時政府が募集していた反社会勢力鎮圧部隊ASFRCT(アスフレクト)に応募して厳しい訓練と試験の後に見事に合格し晴れて一員になれたのだ。




 昔の思い出に少しだけ浸りつつも当初の行動を思い出し、止まっていた足と口を動かして他の仲間に状況を知らせる。


 「敵戦力、右斜め方向に進行中。三十メートル先で接敵します」


 「了解」


 そして今、その反乱分子の掃討作戦に参加している。


 配置に着くと即座に姿を見せて作戦を開始するが予測通り、途中で敵に気付かれてしまう。


 「なんだコイツらは!?」


 「敵だ!ボサっとすんなすぐに構えろ」


 まとめ役が声を上げてからハッとした彼らは咄嗟に銃器を構えようとするがそれをみすみす見過す我々ではない。即座に包囲銃撃戦をして数多くの敵の息の根を止める。


 数多くの同胞を殺される敵だが、未だにその瞳だけは諦める事を決してしない。


 「包囲網は突破出来ないか、ならせめて!一人でも多くの敵を殺してやる!!」


 雄叫びと共に銃弾をバランスよく放ちながら包囲網の綻びを探して暴れ回り、隙を見つけるとこちらに向かって近付いて来た。


 「ハッ!よく見りゃ抜け道ちゃんとあんじゃねぇか!このガキを殺して、ッ!?」


 意地を見せようとしていた彼の言葉はそこから先に続く事はなかった。

 何故ならその相手に頭蓋骨を撃ち抜かれたからである。


 男は最後に声を出す事もなくその場に倒れ込んだ。


 


 

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