第44話 バケモノの息吹
巨大な怪物の落下。
「銀狼・・ヴァイシア・・・!!」
ワンルーの知る銀狼の10倍もの大きさの怪物が音もなく着地した。口から漏れる白い炎がワンルーに過去を思い出させた。銀狼が言う。
「・・皆さん、ごめんなさい。」
「そ、その声は!」
その声は、ニナナのものだった。
周囲を取り巻いた白い炎が照らしたカムイの横顔は驚きと喜びに満ちていた。
「最ッ高じゃないか!バケモノめ!!」
すかさずカムイはニナナの背中に飛び乗った。
「ニナナ君!君の作戦は大成功だよ!二重スパイという作戦はね。」
「な、なんですって!」
ワンルーの驚きの声がニナナの白い炎にかき消される。
白が全員を取り巻いた瞬間、ビタリと世界が止まったように思えた。誰も動かない。炎も動かない。それは魔法でも機械でもない。ニナナとワンルー、2人だけの世界。
言葉を紡いだのはワンルーだった。
「その姿でその男を背に乗せると言うことが、どう言うことか分かっているんですか?」
ニナナは答えない。
「あなたが、襲撃の情報を漏らしたんですか?」
それでもニナナは答えない。
「あなたは、私たちを裏切ったんですか?」
ニナナは、首を縦に振ったように見えた。
「ずっと・・迷ってました・・・。」
ニナナも言葉を継ぐ。
「あなたに付くべきか、ダンジョンズに付くべきか。」
ワンルーはただニナナを見つめていた。
「何の取り柄もない僕が、強い人たちの気まぐれで人事部に入れられて。高い給料、居心地の良い寝室、毎日の仕事を約束されて。僕は怖かったんです!あなたにつけばそれら全てを失うことになる。最初から全てを奪われて、それでもようやく立ち上がれたのに!・・・僕は、僕はあなたみたいに強くないから!」
ワンルーはただ黙って、ニナナの言葉を聞いていた。聞いているのだと感じた。
「さっき、百〇一号室の前を通ったとき、あなたは言いましたよね?見なくて良いって。それが耐えられないんです!だって僕はあの事件の時、悲しかったんじゃない!辛かったんじゃない!怖くてたまらなかった。人殺しになるのが!そして今でも怖い!僕はあなたと共にいたら彼らのことを忘れてしまう。
人の面の皮を被ったバケモノになるくらいなら、今ここで僕は人間を辞めます。」
「そのために、大魔王につくんですか?」
強い雨。しかし銀狼の白い炎はかき消されない。
「そのために大魔王につくのかと聞いているんです!ニナナ!!」
「ごめんなさい・・。僕は、こっちに居なくちゃいけないんです!」
白い炎が勢いよく広がる。最後の瞬間、ワンルーは銀狼を睨んでいた。
ばしゅ。雨の中乾いた短い音を立ててワンルーたちの姿は炎に呑み込まれた。
雨の音が戻ってくる。カムイが口を開いた。
「はは、君。とっくに人間辞めてるよ。」
それからどれだけたっただろう。十数分かも知れないし、数日かも知れない。銀狼はのそりのそりと歩いていた。山を超え、国を超え、海を越えて。人の居住圏をも通り抜けながら、ニナナは自分の足元で文明と命が失われていくのを感じていた。
銀狼の背中に乗る男性がバケモノに囁く。
「ヴォルフワークス君に聞かなかったかな?僕は《WHITE》で姿を保っていたに過ぎない。」
銀狼は見向きもせずに歩を進める。一歩ごとに文明が失われ、命が消えていく。
「勇者たちは復活できる訳だし派手にやりたい気持ちは分かるけど、本社から離れると僕は戦えないよ?」
彼から女性的な面影はいなくなり、肌や髪の艶はなくなった。
「嘘つけ。カジノで客を吹き飛ばしてた。」
「はは、ばれた?ま、ちょっとは戦えるかな。」
「知るか。詐欺師め。」
銀狼の呟きに男性は苦笑した。
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