第43話 大魔王の弱点

勇者たちが階段を登ると花咲く庭園は強風に支配されていた。

「やあ、よく来たね。」

そして、その向こうには。

「大魔王シンラ!」

藤色の髪と黒のマントが音を立てて靡く。

いつも通りの姿のシンラが一輪の黒い花を手に振り返った。

「さあ、ツマラナイゲームは終わらせよう。」


すぐさまひとりの勇者がシンラに斬りかかる。しかし。

次の瞬間、シンラが勇者の側に移動したかと思えば彼は天空に打ち上げられていた。

「魔法!ライトニングフレア!!」

すかさずイノウエが魔法を唱える。シンラは斜め前方上空に瞬間移動したかと思えばイノウエ目掛けて落下する。3人の勇者がイノウエの前に出て立ち塞がるや残りの10人が一斉に迎撃の構えを取った。シンラは防御の体勢に。

「無敵と思えるあなたですが、結局はパワーとスピードが桁違いなだけ。」

シンラの後方からワンルーの言葉。シンラがそれを認識するよりも前に彼女の身体は屋上の外へと吹き飛ばされていた。

「瞬間移動に見えるその動きも着地しなければ繰り出せませんし、後ろからの攻撃は察知できない。」

「お見事だね。」

シンラは微笑む。

「そして、あなたも赤い血の流れる人間である以上、私の攻撃は不可避です。」

シンラはそのままビルの下方へと落下していく。

「皆さん、追いかけますよ。」

そして17人の勇者とワンルーはビルを飛び降りた。


「あなたにも大魔王ことシンラ社長の弱点を教えておかなければね。」

ニナナがワンルーからこの話を聞いたのは、昨日のことだった。

「弱点?」

「ええ。社長は多重人格という話を聞いたことはありますね?」

「は、はい。カムイとシンラっていう。」

「あれ、嘘なんですよ。」

「え!」

ワンルーはニナナの向かいの席に座り直して続けた。

「社長の主人格、というか本性は男性。つまりカムイです。」

「じゃあシンラの方は?」

「それは・・・」


雲を突き抜けて落下。巨大な衝撃音と共に、100階建てのビルから19人が落下した。

「さて、次のラウンドに移りましょうか。」

ワンルーは起き上がって言う。花畑には雨が降っていた。

「大魔王カムイ。」

ようやく起き上がったシンラの周りには白いノイズが漂い、カムイの面影が混ざり始めていた。

「シンラという姿はあなたの変身後のもの。本社の《WHITE》によって形作られた偽物です。」

ワンルーは剣を構える。勇者たちも内容を理解できないながら戦闘の体勢を整えている。

「そしてそうである以上、大魔王城からは出ることができない。あなたの弱点はこのビルそのものです!」

「ははは。」

カムイは手を顔に当てる。

「はははははは。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッハハハハハハハハ!!!!!」

カムイの高笑いが雨に反射する。

「流石だよ!ヴォルフワークス君!!計算通りって訳か!君はやっぱりツマラナクない。」

カムイは見上げた。

「でも。ここからはどうだろね。」


その時だった。ビルの上方で爆発音。全員が上を見上げる。

雲を突っ切って機械のパーツのようなものが落下してくる。

「あれは・・ケルベロス?」

ワンルーの声を合図にするかのようにもう一つの影が現れた。

「あ、あれは・・・!」

忘れもしない。ワンルーが10歳のとき、彼から全てを奪った怪物。

ゲルべロスの体の一部を咥え、銀の毛並みを雨に濡らし現れたそれは、巨大な銀狼だった。

「銀狼・・ヴァイシア・・・!!」

幕引く獣が、舞い降りた。

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