第42話 ウィル

勇者たちは一斉にエレベーターを飛び出した。

「ヴァルグゥアッ!」

一体のソウルイーターが侵入者に襲いかかる。それを、勇者は踏みつける。

「エレベーターは封鎖されています!階段を目指して!」

魔物たちを踏み越えて賊は走る。

「ヴゥアアアアァアッ!!」

汗が迸る。魔物たちの叫びを聞きながら、ニナナは自らの内にえも言われぬ感情の正体を探そうとした。

「危ない!」

ニナナは自分の足首を掴むデッドイーターの存在にようやく気づいた。

「ヴァグッッツ!!」

ワンルーの魔法がデッドイーターを吹き飛ばす。

「考え事なんかしてると、持ってかれますよ!」

「す、すみません!」


「歯を食いしばって下さい、ね!」

ワンルーの衝撃波。彼らは敵を蹴散らしながら着実に進んでいき、ついに地下1階、つまり地上100階にたどり着いた。

大魔王軍元・幹部、ヨセフ・ガーディン・ヴォルフワークスの能力は、血液操作。

流血を操るのは勿論、体内の血を操作して体そのものに効果を与えることもできる。例えば敵を吹き飛ばすことも。

B班と名付けられた3人の勇者と協力者たちは各階で魔物の足止めをしている。

「この先に、大魔王がいるんですか?」

「ええ。このロビーの大階段を登った屋上に・・。」


その時だった。

「待チナサイ。」

勇者たちは立ち止まる。ワンルーが答える。

「あなた達の相手をしているほど暇じゃないんですがね。」

床が割れた。

「コノ先ヘハ行カセマセン。」

地面が迫り上がってくる。現れたのは4体のロボットだった。

社長の被造物だというアンドロイドたちだ!

4体は変形をしながら声を合わせて語る。

「我々ハ大魔王様ノ番犬。」

3体の首が横一列に連なる。4体は合体し、それは一つの生命体となる。

「魔獣ケルベロス!!」


ワンルーの血液操作は機械には効かないか。

「皆さんは行ってください!ここは僕に任せて!」

ニナナは声を張る。

「しかし!」

ニナナは変身できない。攻撃手段を持っていない。

「大丈夫ですから、先に行ってください。」

ワンルーたちが頷いて立ち去るのを、1人と1匹は見送った。


「見逃すんですね。」

「社長ノゴ意志デスカラ。シカシ我々モ舐メラレタ。生身ノ人間ガ私ニ挑ムト?」

ゼロワンの口調だ。

ニナナは深呼吸をした。これが、ワンルーに報いる最後の機会。ニナナはこれまで、逃げて逃げてここまで来た。でも、旗を翻すなら今だ。ワンルーは自分をウィル・ファルソンとして認めてくれたのだから。彼はその獣を見つめた。

「ゼロワンさん。あなた、僕にくれましたよね。《BLACK》。」

「エエ。ソレガドウカ?」

「あの時、僕は嘘ついたんです。」

「ハイ?」

ケルベロスは唸り声をあげる。

「手違いがあったってのは嘘。1本余分に貰ったんです。」

「マ、マサカ!」

ニナナは懐から《BLACK》を取り出し、ボタンを押した。

「大昔の欠陥品も悪くない。隠して持ち運べるのは《BLACK》だけですから。」

黒の光が暴れ出す。

「暴れないでください。殺したくはありません。」

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