第36話 冷結の男たち

激しい鍔迫り合い。ハーグスタフの日本刀とカンダンサが瞬時に生成した氷の剣が火花を散らす。

到着が早すぎる。王城の警備を破ったのはたったの十数分前。襲撃が読まれていたのか?

「ヴォルフワークス殿が手引きしていらっしゃると仮定申し上げますと、彼の考えは簡単に察せます。」

逃げようとする客たち。しかし入り口はアイスプリズンの氷で塞いだ。

ハーグスタフは後退りした。

「剣技、朧月。」

カジノのステージの縁を蹴って突進。

「魔法!アイスウォール!!」

氷壁が刃を阻むが刹那、ハーグスタフは氷に刺さった刀を踏んで跳躍し氷壁を乗り越えた。馬鹿な!

ハーグスタフが懐から小刀を抜くが早いか、

「魔法!アイススパイク!!」

カンダンサの魔弾がハーグスタフに命中した。ように見えた。

「甘いですよ。」

ハーグスタフの姿が瞬時に氷壁を回り込む。

「まずは一撃でございます。」

小刀がハーグスタフの右手を踊り、カンダンサを捉えた。

「まほ」

言い終える前に、鬼の体はカンダンサを通り越していた。


大ダメージ。しかし致命傷ではない。

客たちは彼ら2人の攻撃から逃げ惑って一挙手ごとに右往左往していて戦闘に集中できない。なにより、この男は強い。1人で戦うべきじゃない。

「さて、もう一度同じ流れを繰り返しても私としてはよろしいのですが、どうなさいますか?」

カンダンサは剣を構えた。切りつけられて剣はボロボロだ。

「剣技、朧月。」

ハーグスタフが身を屈めた瞬間、そのまま地面に崩れ落ちた。


マイクを両手に持ってザムザことNo.363はその背後で息を枯らしていた。

「無理矢理変身すると衝撃に弱くなる。兄さんが確認済みだな。」

ハーグスタフの頭部に残ったマイクによる打撲の跡を見つめて、ザムザは、即ち勇者たちの協力者の1人でワンルーの弟、ワンハオは呟いた。

カンダンサとワンハオは互いを見つめて頷いた。

「やったぜ!幹部ハーグスタフを倒したぞ!」

何せこちらは1人とは言っていない。


カンダンサが気絶したハーグスタフの体を氷で拘束しているのを横目に、ワンハオはハーグスタフが開け、カンダンサの氷に覆われた天井の穴から月を眺めた。

「兄さん、上手くやっているか?」


一方。オソレイヤの王城地下に勇者チビが訪れた時、期待されていた各国の要人たちはその場にいなかった。代わりに。

「全テノ対象ノ避難ヲ完了。」

物々しい機械音を立てる人型が1体、部屋の中央に直立していた。

鋼鉄の人間は変形し、様々な形の腕を出したり戻したりしながら部屋の高さにまで巨大化し、そしてチビを振り返った。

「侵入者ヲ確認。」

チビは魔法を放つ姿勢を整える。

「大魔王軍幹部、AGN-00。対象ヲ設定。排除シマス。」

それをロボットと呼ぶことを勇者チビは知らない。

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