第35話 決起前夜

襲撃から5日、オムラウトの勇者たちの新たなアジト。《鬼の洞穴》への出張が都合よく入ったニナナはワンルーに会いに来ていた。


「それでは作戦を説明します。」

勇者5人に囲まれているテーブルをどうにか覗き込もうとニナナは背伸びをしていた。世界地図を指差しながらワンルーはこう語った。

「大魔王は、全世界の要人と太いパイプを持っています。まずはそこを叩きましょう。ガンバルバーニュ、オソレイヤ、スデイシアン、グンエの首都にそれはあります。」

地図に一本ずつピンが刺されていく。カジノだ!ニナナは内心呟く。

「各国の王城の地下で彼らは密会しています。そこをここにいる内4人が同時に襲撃します。」

カンダンサ、チビ、ノッポ、パセパトゥーを模した駒が移動する。

「目的は3つ。奴らの財産の破壊、陽動による兵力の分散、大魔王軍幹部の殺害です。ここには要人や機密、彼らの守るべき対象がこれでもかと存在しますし、ここは大魔王軍の最大の収入源の一つでもありますから、奴らは襲撃を無視できない。」

大魔王軍の勢力を表す三角が地図中のそこここに散らばるや、ワンルーは地図の一点にナイフを突き立てた。

彼の目には真紅が燃える。

「そして、残りの勇者18人全員で本丸、大魔王城を討つ。大魔王シンラの死を以って作戦の成功とします。」


「なるほど。明日、シンラ社長は本社にいる、と。他の条件も合いますね。」

数分後、ニナナは紅茶を啜って、向かい合うくすんだ赤シャツの男を見つめていた。

「本社に襲撃を仕掛けるってことですか?」

「その通りです。この4,5日間で世界各国の勇者たちにコンタクトをとりました。彼ら5人に加えて17人の協力を得ることにも成功しました。」

5人というのはオムラウトの勇者たちのことだろう。

「社内には他にも協力者を用意しています。私が外から、ウィル君たちが内から手引きします。勇者イノウエを中心として、奴らに革命を起こすんです!ただしあくまで、大魔王を倒す、という全世界共通の目的のもとにね。」

ワンルーはそう説明して、ダンジョンズの存在を明かすことなく仲間を集めた訳だ。賢い男だ。

「決起は明日。それまで敵方に不審な動きがないか見張って下さい。それでは。」

ワンルーは立ち去ろうとしてニナナを振り返った。

「ああ、そういえば。あなたにも大魔王ことシンラ社長の弱点を教えておかなければね。」


そして、翌日。


「魔法!フローズンウィンド!!」

その声を引き金にガンバルバーニュ王城地下のカジノ・ダンジョンズに悲鳴が轟いた。

「ゆ、勇者!?なぜここに!」

勇者カンダンサの氷魔法が客たちを追い立てる。ワンルーの情報通りのビッグネーム揃いだ。派手に暴れて敵を惹きつける。

「魔法!雪華繚乱!!」

巨大な氷の模様がカジノを包んだその時。

「お待ちくださいませ。」

声と共に天井が割れ、人影が落下する。

ストライプの白スーツ、色白の顔に映える太く捻れた1本のツノ、両手には日本刀。

「大魔王軍幹部、エーミール・ハーグスタフ。」

隻角の鬼は着地するや、カンダンサの攻撃を刃で受け流した。

「参らせていただきます。」

ハーグスタフは刀を構え、カンダンサに斬りかかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る