第32話 ワンルー

泥で汚れた赤シャツ。会社から持ち出したものだろう、柄が血に濡れた洋風の長剣。

日の光と気絶したリットウを背後に剣を構えるその男は、まさしく1週間前にダンジョンズを追われ逃亡した、ヴォルフワークス元人事部長だった。


「その名で呼ばないでもらえますか?」

男は呟いた。

「私はワンルー。大魔王を倒す者です。」

その言葉に反応して、アルバートの青い炎が燃え上がった。

「おいおい、脱走者様じゃねえか。わざわざ戻ってくるた、そんなにリットウに恨みがあったのか?おい!!」

声の端には怒りが静かに燃えている。

「ありませんよ。だから気絶で済ましました。しかしあなたに手加減する義理はありません。」

ワンルーはアルバートを睨んだ。

「あなたは染まり過ぎた。私と同じように。」


刹那、アルバートが跳躍した。

「偉そうな口、聞いてんなよ!!」

細い路地でクローバレットが炸裂。しかしそれをワンルーは剣で受け止めた。もう1人の眷属役が巨体化し右手で押しつぶし攻撃を仕掛けるが、ワンルーは一歩懐に踏み込んで回避、即座に剣の柄を上に向けるように半回転させた。

「すまない。君は悪くないのに。」

剣を真上に突き上げる。顎に柄が直撃してブラックデビルはよろめき、倒れた。

「クソが!」

ワンルーはアルバートを見つめる。

「私はあなた達の特性を知っています。生身の人間ですが、そこらの勇者より強いですよ。」


「もういい!炎獣ダイアス!!」

アルバートの周りの青い炎が集まり、獣の頭部の形をなしていく。青い獣は勢いよくワンルーに襲いかかる。ワンルーが跳躍して避けるべく膝を曲げた瞬間、炎獣は霧散した。


アルバートの後ろで銃声が響いていた。ダンジョンズの秘蔵アイテム、拳銃。アルバート目掛けて弾丸を放ったのは背後に立つトーヴェン広報部長だった。

「HAHAHA!!!ヴォルフィ、じゃねえZE、ワンルーって呼べっつってたNA?」

トリプルエースが倒れる。ワンルーは目つきを鋭くし、黙って成り行きを見守っていたニナナは驚愕の面持ちをトーヴェンに向けた。

「社長から作戦聞いた時からビビッときたぜ?てめえが目当てだってNA?」

トーヴェンは一歩ずつワンルーに近寄っていく。ニナナには目もくれない。


「てめえなら会社を倒せる!TOPに立てる!それが目的なんだRO!?協力しよう。腐った体制に終止符を打とうぜ?」

ヴォルフワークスは答える。

「ええ。ダンジョンズは腐っています。」

次の瞬間、トーヴェンの体はワンルーの剣で斜め真っ二つに割れていた。

「だから終わらせます。トップに立つ必要などありません。」

ヴォルフワークスと呼ばれていたその男は、ニナナに視線を移して言った。

「もう1人の社員はなかなか起きないでしょうね。先にあなたと取引をしましょう。ニナナ、いえ。ウィル・ファルソン。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る