第30話 襲撃

バーの外がうるさい。カンダンサとパセパトゥーが窓から街の中心、時計塔を見やる。

時計塔の文字盤付近、そこには浮遊する人影。

「ギャハハハハ!!俺は大魔王軍幹部、アルバート様だ!」

青いボロボロのジャケットの周りに青い炎を纏い、長い爪でカチカチ音を立てている男。

「まずは名刺代わり・・じゃねえわ。自己紹介代わりにショーの始まりと行こうぜ!」

ざわめく人々。背後の時計がガチャンと音を立てて短針を2に重ねた瞬間、街に爆音が鳴り響いた。


爆発した文字盤。焼け落ちる時計塔と堰を切ったように逃げ出す人々。パセパトゥーが急いで店外へ出る。チビ、イノウエと続いた。ノッポは一度店を出てから、扉を開けカンダンサを睨んでから時計塔広場に急いだ。

カンダンサはため息を吐く。彼は勇者ギルドを辞めたあと勇者の称号を国に返上するつもりだ。なら、最後にここで戦ってみても変わらないか。

勇者カンダンサは腰を上げて、グラスに残った水を飲み干した。


混乱。逃げていく人の波に阻まれて進めない。パセパトゥーは上を見上げる。アルバートを名乗る男が指をスナップさせるとその方向へ火球が飛んでいく。人々が巻き込まれ、街は早くも大惨事だ。面白くなってきた。

「魔法!エグスプロージョン!!」

足元で中規模の爆発。爆風が周囲を巻き込む代わりにパセパトゥーはアルバート目掛けて跳躍した。イノウエとノッポは舌打ちをする。パセパトゥーの性格に振り回されるのは初めてのことではない。

「げ、勇者が居んのかよ。」

「魔法!ライトニングバースト!!」

アルバートの動揺にすかさず自爆攻撃の詠唱。強烈な熱と光が当たりを埋め尽くした。

「げほげほ、ごほ。あっちいな。勇者様よお。」

アルバートは長い爪を変形させ盾を形成。パセパトゥーは落下で爆発から逃れていたが、この言葉で口角を上げた。

「魔法!エグスプロージョン!!」

「爆発なんて連射するもんじゃねえぜ。」

アルバートは浮遊し爪を伸ばして攻撃するが当たらない。

「チッ。もういいぜ。後で遊んでやるよ。」

アルバートは旋回し街の中心部目掛けて飛んでいく。すぐ直後には爆発の連続に包まれるパセパトゥー。勇者仲間は民間人に当たることを恐れて手出しできない。

「魔法!ライトニングレーザー!!」

一直線のレーザー攻撃。太い照準がアルバートに合わさる。

「よ、避けられねえ!」

照準が狭まりレーザーが発射される直前、パセパトゥーの体は真横に吹き飛んだ。


パセパトゥーの視界に映ったのは瓦張りの民家の屋根の上に立つ1人の女性。周りには悪魔族の戦士達が控えている。深緑のドレスの胸の前で手を組み目を閉じているが、パセパトゥーを吹き飛ばしたのは彼女の頭から数十メートルも伸びた長さの髪のようだった。

「大魔王軍幹部、リットウ。美しく散ってください。」

パセパトゥーはそのまま狭い路地に落下していった。

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