第29話 敵役たちと悪役たち

聖オムラウト帝国には5人の勇者が居る。

支援魔法にも秀でた氷の魔術師カンダンサ。

無属性魔法を乱射するスピードのチビ。

格闘術のエキスパートで怪力を持つノッポ。

爆発魔法を使いこなす変態、パセパトゥー。

そして、生ける伝説、イノウエだ。

彼らは帝都にほど近い街道上の街、レワンに勇者ギルドを細々と運営している。


4人がいた1階に、2階からパセパトゥーが降りてくる。この日、彼らが拠点にしているバーには5人が集まっていた。静かな店内にはカンダンサを中心として疑心が渦巻いている。店の外の大通りの喧騒がカンダンサの耳を刺す。

今日はギルドを辞めることを伝えにきたのだった。


街から少し離れた丘の上から街を見下ろす10の人影があった。

「おいおい、襲撃なんて久しぶりじゃあねえか?」

「それNA!ま、広報活動の一環だZE?」

「それにしても、普段は街全体を囲うように《WHITE》を用意するじゃねえか?それが今回はこのちゃちい棒一本だぜ?」

「た、多分時間がなかったんだと思いますぅ。」

トリプルエース営業部長にトーヴェン広報部長、リットウ企画部長と数人の本社社員。その中に、ニナナもいた。まさか自分もメンバーに選ばれるとは。ニナナは内心ため息をついた。死ななければ良いが・・


今回のミッションのリーダーであるトーヴェン部長の説明を聞く限り、ヴォルフワークスの話は出てこなかった。

どこかの街を襲撃すること自体はよくある任務だ。たまに事件を起こして魔物に対する危機感を煽る広報活動の一環で、だからトーヴェン部長が指揮をとる。

今回はリットウとトリプルエースが主力で残りの7人はその補佐、もとい眷属として襲撃を行うらしい。

「そ、そろそろ時間ですぅ。」

「んじゃ、俺ら先行ってるから。」

するとトリプルエースは懐から《BLACK》を取り出してそのボタンを押した。


刹那、黒い光が彼を包み込み次の瞬間、長い爪を持ち青い炎を纏った人型の男が現れた。

リットウも光に包まれた直後、長く鋼のように硬い髪をくねらせる怪人に変身。

「だ、大魔王軍幹部、シキシネ・リットウ!」

「大魔王軍幹部、アルバート・エイリス・アムロ!!」

青い炎が2人を包む。

「ゲームスタートだぜ?」

次の瞬間、2人は姿を消した。


リットウとトリプルエースは姿を隠して街の方へ向かった。

「じゃ、YOU-GUYSもさっさと変身しとけよNA!」

トーヴェンは責任者というだけで、《BLACK》だけを持ってここで待機するそうだ。手下役の7人はため息を吐く。ニナナもだ。丘の上が黒い光に包まれ、消えた。

「さ・て・と。9人ねえ。何人死ぬかNA?」

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