幕間 《BLACK》編

第28話 白か黒か

ゼロワンはため息を吐きながら、《WHITE》が保管されているコーナーの一つ隣のコーナーから片手サイズの黒い棒を引っ張りだした。

「後ニ開発サレタ《WHITE》ニ対シテ《BLACK》ト呼バレルヨウニナッタコノ装置ハ非専門ノスタッフガ急ゴシラエデ用意シタ、イワバ仮ノモノ。長年ノ研究ノ賜物ヲナイガシロニスルヨウデハ、開発部ガ廃リマスヨ。」

《BLACK》。10年前まで使われていた魔物への変身を制御する装置だ。

「で、でも。《WHITE》は決まった範囲でしか使えないじゃないですか。設置や準備に時間もかかりますし。」

「時間?1週間モ掛カリマセン。ソノ1週間ガ惜シイダナンテ、社長ハ何ヲスルツモリデス?」

尋問をするような口調。挽き殺されそうな勢いだ。

「マア、アナタニ聞イテモ無駄デス。キット、ココデノトラブルヲ避ケルタメニ、ワザワザアナタニ仲介サセタノデショウ。」

ゼロワンはさらに9本の装置を取り出してニナナに差し出した。

「ああ、すみません。手違いがあったようで。11本取ってこいと言われたんですが。」

ゼロワンは面倒臭そうにもう一本取り出した。

「何本デモアゲマスヨ。コンナガラクタ。」

注文の品を手に入れてニナナが立ち去ろうとしたとき。

「ソレト、オ宅ノ元部長サンニハ感謝シテイマス。1桁ノ席ヲ開ケテクレテ。」

ニナナは振り返らず去っていった。


ヴォルフワークスはニナナの不在の間にクビになったという。しかも、百〇一号室に連行される途中で警備を振り切って脱走したというではないか。会社のヘリコプターが一台盗まれ、未だ行方知れず。本社は浮き足立っているが日々は素知らぬ顔で過ぎていく。

そして、ニナナはこの事件にこそ、カムイの突然の訪問の来意を疑っていた。もしかしたら、裏切り者を粛清すべく魔物を送り込むつもりなのかも。

そこまで考えたところでニナナはカムイのメモに再び目を通した。

「装置は広報部長まで届けること、か。」

自分は今、旗を示せと迫られている。果たして自分はヴォルフワークスをどう考えているだろう。人事部の上司?あの事件の仇?

ニナナは立ち止まって唾を飲み込んだ。

「よし。」


勇者カンダンサは小さな椅子に縮こまって水を飲んでいた。おかしい。こんなはずじゃなかった。

そのバーのカウンターには自分が排除しようとした最強の男、勇者イノウエ。一枚一枚が溶けるにも数週間がかかる氷壁を数十枚張ってきたのだから1、2年は出て来れないと踏んでいたのに。彼自身はバツが悪そうにカンダンサのことを避けるだけだ。しかし。

彼のテーブルの背後には勇者ノッポが物々しい顔で構え、その弟の勇者チビが嘲るように人差し指を立てている。

現在勇者カンダンサは、イノウエを監禁した上で魔物に捕らえられたのだと嘘を吐き、ずる賢く邪魔者を消そうとした挙句に失敗したヤバい奴として見られている。詰んでる。

カンダンサはグラスの水を飲み込んだ。

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