第27話 ナンバーテン
シンラ社長の胸に剣を突き立てるヴォルフワークス。それを取り囲む勇者たちとニナナ。
シンラが掠れた声で何かを告げるのと同時に光が満ちて彼女が跡形もなく消える。
そんな夢を見た。
ニナナは体を起こす。午前5時。起床時間の変化にも段々と慣れてきた。
昨夜訪れていたカムイが置いていったものだろう、ベッドの左の机にメモと一冊のファイルが置いてある。そういえば彼はお遣いがどうのと言っていた。
ファイルの表題は「《孤狼の大穴》企画書」。中にはダンジョンの構造と思われるものが淡々と書かれていた。無敵の銀狼に追われながら迎え撃つ方法を探る、というコンセプトらしい。なぜここにそんなものを?
ニナナはメモの方を手にとる。
「地下48階、技術開発部・・・。」
その下には二、三の注文が書かれている。
ニナナの決心は付いている。少なくともこの場所に行くだけなら害は無さそうだ。カムイの手伝いをしてやる気はないが、頼みを聞くかは行ってみて考えればいい。
「行ってみるか。」
「すいませーん。」
企画部よりやや広い程度のその部屋は棚で視界が悪い。恐らく何らかの発明品と思しきもので詰まった棚の間を覗き込みながらニナナは奥へ向かった。
「シツレイ。」
背後から語りかけられてニナナは思わず振り返った。
「アガノ経理部長!?」
「つ、つまりあなたは?」
「No.10、アガノト同ジク、シンラ社長ニ作ラレタアンドロイドデアル、ゼロワン。」
ゼロワンが彼女の名前。社内でたまに見かける5人のアンドロイドがシンラ社長のプログラムしたものであるとは有名な噂だ。4人は経理部に、1人は技術開発部に勤めている。
「話ハ聞イテマス。」
そう言って、ゼロワンはウィーンという機械の音をたてながら棚の間を縫ってきて、1つのコーナーを指し示した。
「ダンジョンリセット装置、《WHITE》ハ開発部ノ目玉発明。」
ダンジョンの裏側を覆う白の空間。あれは10年程前に導入されたものだ。ニナナはそのコーナーに近づきながらゼロワンの話を聞いていた。
「ソレマデ人力デ行ッテイタリセット作業ガ自動デ瞬時ニ行ワレルヨウニナルト、回転率ハ格段ニ上昇シマシタ。ソシテ職員ハ魔物ノ姿ヘノ変身ト解除ヲ自動的ニ制御サレ、過度ナ攻撃ニヨル事故死ハ完全ニ抹消サレマシタ。」
その通り。昔、ダンジョンでは低級魔物に配属されると勇者の攻撃に耐えられないことがあり、40%程度でその職員が死んだ。
ゼロワンはくるりと向き直って鋭い眼光を向けてくる。ニナナは苦笑いを浮かべながら次に来る言葉を予測していた。
「ソレナノニ。」
機械も怒れば分かるらしい。
「ナゼ我々ノ発明デハナク大昔ノ欠陥品ヲ使ウノデスカ!!」
大昔の欠陥品、40%で死ぬ例のものを10人分。それがメモに書かれた注文だった。
「そ、そうは言われても・・」
メモにそう書いてあるから、とは言えない。
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