第25話 堕天

少年を追って銀狼はイシアン村に襲来した。


「うおおおおおおおおお!!」

ばしゅん。

白い炎で包まれた銀狼ヴァイシアに村一番の力持ち、オーヤが突撃して一瞬で焼き殺された。それまでは皆どうにか攻撃に抗おうとしていたが多くがこの時点でそれをやめた。

ワンルーは焼ける家屋の中を走った。

「お母さん!お父さん!」

その間にもヴァイシアは大人たちを噛み殺していった。ワンルーが自宅だった場所に着いた頃には両親のものと思われる死体の側にうずくまる弟の姿を発見しただけだった。


その時だった。銀狼が焼けかけた櫓の上で吠えた。やや降りかけた太陽を背に銀の体が輝いていた。

「・・・少年たち、落下を恐れるな。」

冷たい鉄のような声が響く。

「歩ける少年はついてこい。」

櫓から飛び降りたヴァイシアがゆっくりと歩き出したとき、天空から風が吹き下ろしてきた。それは突如姿を表した。後になって、羽根を旋回させて滑空するそれをヘリコプターと呼ぶのだと分かる。

「・・・ようこそ。《ダンジョンズ・インク》へ。」


イシアン村襲撃と子供たちの誘拐は世界的に報道され、魔物たちの脅威は全人類の知るところとなった。

子供たちの約4割、自分で歩けて言葉を理解できた者はダンジョンズの職員になるべく教育を受けた。そして二度と、ワンルーとワンハオ改めNo.362とNo.363は出会うことがなかった。


そして、現在。シンラの挑発に腹を立てて席を立ったヴォルフワークスは自らの原点を見つめた。仇敵を見つける。そして願わくばこの腐った組織を破壊する。その為にここまで成績を上げてきた。

しかし、新しい名前を手に入れたあたりからこれまでの数年間で、彼は牙を失っていた。ダンジョンズでの生活を当たり前のものと誤認し、大切なことを忘れていた。

しかし、はっきりしたことがある。マッドグレイは落下という言葉を使った。あれは明らかに自分への挑発。恐らく銀狼ヴァイシアの中身はマッドグレイ現・財務部長だ。

機は熟した。この会社を終わらせる。


「・・ルフ・・・・君?ヴォルフワークス君?」

そこまで考えたところでシンラの声が彼を邪魔した。

「なんですか!」

語気が荒い。

「ひとつ、伝え忘れていたことがあったんだよ。」

ヴォルフワークスは向き直る。

「ヴォルフワークス君。」

シンラは言い放った。


「君、クビだから。」

こうしてようやく、物語が暴走を始める。

「え?」

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