Case=4 《孤狼の大穴》編
第23話 牙を抜かれた獣
「この会社は労働に正当な対価を支払っているよ。」
食事を終えてからシンラはぶどう酒の杯を右手にこう言った。
「我が社は3人の指導者、数百人の社員、そして千人の奴隷からなる。社員には社員に見合った報酬、奴隷には奴隷に見合った報酬。当然だよね。」
「は、はは。そうっすね。」
トリプルエースは引き攣った笑顔で言った。ヴォルフワークスはそっぽを向いていたまま尋ねる。
「3人ですか?」
「ああ、君らがただの社員というのは不服かい?3人の指導者というのはね、私、フォルマー君とグレイ君だ。会社の創設メンバーだね。」
そこでトリプルエースが反応した。
「フォルマーにマッドグレイといやあ、そういやよ。この前フォルマーの野郎が変な質問してきたじゃねえか。確か・・」
ヴォルフワークスがチラリとトリプルエースを見る。
「人間の最も根源的な活動、だっけか。」
「ほう。それで?」
「順番に答えたんすけど、マッドグレイが落下とかなんとかこ・・」
その続きの言葉が発されるより前に。
「あっはっはっははははは。やっぱり彼は流石だね。多くを語らないけど多くを知っている。それで、ヴォルフワークス君はなんて?」
「お、よく分かりましたね。ヴォルフィの話だって。なんか急に怒って掴みかかったんすよ。マッドグレイに。」
2人がヴォルフワークスを見る。シンラの両目は特に楽しそうだ。ヴォルフワークスはため息を吐いた。この目が憎い。
「なんでもありませんよ。行き違いがあったようです。」
「へえ。じゃあ、ヴォルフワークス君は落下って言葉に心当たりがないのかな?」
怒りが彼を動かす。次の瞬間、ヴォルフワークスはテーブルに両手を叩きつけて立ち上がった。食器が跳ねる。
「・・・・・確か。確かここはカムイさんが持ってくれるんでしたね。」
そう言ってヴォルフワークスは入り口に向かって歩き出した。トリプルエースは唖然としている。シンラはニヤニヤ笑っている。
ヴォルフワークスの脳裏にはこの時、18年前の光景が反芻していた。
それは世界に魔王城が現れ魔物たちが人類の住処を荒らし始めた頃だった。
5つの国がひしめくアスアリア大陸の東の小国、メラルンバドの南端にその村はあった。
未開の針葉樹林とメラルンバドを隔てる大河イシアン。そこに浮かぶ三角州こそがイシアン村の所在地だ。
「ワンルー、ワンハオ!朝よ!」
台所で卵を焼いている母が2階に向けて声を張るのが聞こえる。
弟ワンハオの気の抜けた返事を聞いてから彼はベッドを降りた。
数年後、ワンルーと呼ばれる彼は巨大な秘密結社のトップに名を連ねることになる。後のヴォルフワークス人事部長である。
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