第22話 鉄の男

ニナナは画面越しの状況に目を疑った。

イノウエが閉じ込められたことは愉快だとまで思った。カンダンサが何枚も氷のバリケードを作りながら出口に向かっているのも見たが、ダンジョンを覆うようにアイスエイジを使われたのに関しては複雑な心境だ。ダンジョンの外側は簡単にリセットできない。氷が溶けるのに2週間はかかりそうだ。


しかし問題はそこではない。突如としてマッドグレイ財務部長が画面越しに現れ、ダンジョンズ特製の武器で勇者をダウンさせた。

「何してるんだよ!あの人!」

なぜだ。ダンジョンズに多大な損害を与えている男をあんなに直ぐ返してしまった。損得は抜きにしても少しくらい懲らしめたいと思うのはニナナだけか?

マッドグレイ財務部長。

「何者なんだよ・・・。」


後になってのことだが、氷が溶けるには12日かかった。それまでダンジョンがオープンできなかったのは言うまでもないが、ダンジョン全体を氷に覆われたせいで裏口も閉ざされ、ニナナ、マッドグレイ、そしてダンジョン開発部の8人は地下空間での寝泊まりを余儀なくされた。

しかし氷が溶けてもなぜかイノウエは再襲しなかった。

10日分の利益があげられなかったが、あの勇者イノウエを撃退した点は加味され、それほどイマルクたちは悪い評価を受けなかった。

ニナナはダンジョン、《蛙の湿地洞窟》の運営から離れ、次の仕事に向かって行った。


時と所は変わって、この事件の2日後午後7時。ダンジョンズ本社ビル地下18階。

2桁職員以上が金を払って利用できるレストランだ。2桁以上とはいっても3桁職員の給料では敷居が高すぎる。窓の向こうには自然の夜景の映像が流れている。職員たちは2桁でさえ、機密保持のため社内に軟禁されている状態だが、給料は主に食事に使われる。本社ビルの17階から20階にはこのレストランの様に店が並んでいて、専門のスタッフが働いている。

窓際の席にはいつぞやのスーツを着て緊張した面持ちのトリプルエース営業部長が座っていた。

「それにしても、この会社ブラックだけどその反動っつうかホワイトな部分が本社に集まってるよな。」

「そうかい?」

声がして振り返ると。

「お、おー。シンラ社長!」

いつもの格好のシンラが微笑んでいた。

「今日はわざわざすいやせんっすねえ!今日もお美しい!って。」

シンラの後ろからヴォルフワークスが顔を出した。

「なんでてめえが居んだよ?」

「私が呼んだんだよ。」

「シ、シンラ社長?」

「カジノにカムイを連れて行く代わりにカムイが私と君のディナーをセッティングする、そういう約束だったそうだね。約束通り、このレストランを貸し切ったそうだよ。」

「い、いやでも。ほら。異物が混じってるじゃないっすか!?」

そこでヴォルフワークスが口を開いた。

「元はマッドグレイ部長に声がかかったそうですが、例の件で来れなくなったそうです。」

「た、たしかにあの根暗よりはマシか。・・・じゃねえよ!2人きりだと思ってスーツ着てきたってのに!」

トリプルエースは不憫かもしれない。

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