第21話 氷の男

「や、やったあ!!!イノカン撃退!イノカン撃退だ!!」

勇者の撤退と共に白の空間が訪れる。

ニナナは拍手をしながら北東ヨーカルド大陸ダンジョン開発部の8人の元へ駆け寄った。

あのペアを新人だらけの部が追い返せたことは1回だけでも奇跡だ。

「最後のセリフ!痺れたよ!『なんてな』ってさ!」

「いやあ。応援ありがとうございます。でも気を抜いちゃいけませんよね!この後も来るはずですから!」

その通り。彼らは攻略に成功しても失敗しても、少なくとも百回はダンジョンを周回する。きっかけはニナナのいた、《凍れる地下迷宮》な訳だが。それにしてもイマルクはいい後輩だと思う。

「そういえば、黒服の方はどちらに?」

「ああ。彼、どっか行っちゃったんだよ。それより次の準備を急いで。がんばってね。」

「はい!」

8人の返事が響いた。


洞窟の中。例の水の張った洞窟の前で、イノウエは頷いた。2度目の挑戦。フローズンウィンドの使用を促している訳だ。

カンダンサは答えない。先程の戦闘、アイスエイジでお膳立てをしたのにイノウエがやられたことを根に持っているようだ。

イノウエは強い。それは彼が万能だからだ。しかしそれはダンジョン攻略の上で常に最も有利という訳ではない。

だからこそというべきか、カンダンサはイノウエに落胆と、強烈な不信を抱いていた。

そして更に言おう。カンダンサはこう考えていた。

最強と呼ばれるこの男が、憎たらしくて仕方がない。

「魔法!アイスプリズン!!」

イノウエが振り返って訝しげな視線をカンダンサに浴びせようとした時には既に、

洞窟を厚い氷壁が覆っていた。


騙された。対人戦闘において、敵を封じ込めることだけに特化した氷魔法、アイスプリズン。外からは簡単に割れるが内側からもびくともしない。持てる魔法の全てを試したが氷壁には傷一つつかない。魔力も尽きかけてきた。

前には水溜り、後ろには氷壁。行動不能になるか魔王を倒すかあるいは入り口に戻るまで、ダンジョンは出られない。つまり完全に閉じ込められたのだ。

イノウエは諦めてはいなかったが直ぐに現実を突きつけられるであろうことは予感していた。もしかすると、ずっと、ここを出られないかもしれない。

その時、声が聞こえた。

「・・・まだだ。」

氷壁がぴきぴきと音を立てる。

「・・・まだ死なれる訳には行かない。」

バリィイン・・・

氷壁が割れて現れたのは黒い、見慣れない服を着た男。

「・・・去れ。二度と現れるな。」

男が懐から黒い塊を取り出す。武器?

武器をイノウエに向けると、鋭い破裂音とともに視界が暗転した。


ブシュン。イノウエのダウンを合図に彼はダンジョンの入り口まで転送された。既にカンダンサはダンジョンを抜けている。

黒スーツの男、株式会社ダンジョンズのマッドグレイ財務部長は手にした拳銃を懐に戻してため息を吐いた。

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